彩られた雲
それは一瞬の出来事だった。
床に転がった包丁。ひりひりと痛む頬。
そして、涙目の彼女。
「とりあえずさ」
沈黙を破ったのは彼女だった。
「散歩でもしてきなよ」
僕は曖昧に返事をし、アパートを出た。日は西に傾いていた。
黙々と歩き続け、やってきた先は公園。子供の楽しく遊ぶ声が聞こえる。
不意に風が枝を揺らし、さわさわと音を立てた。
先程まで熱かった頭が、心が、自然と冷めていく。
僕は命を捨てようとした。それを彼女は許さなかった。
彼女は僕を愛してくれている。目に溜まっていた涙がそれを物語っていた。それなのに僕は、何もかもを放って、全てを終わらせようとしてしまった。
大切な人までも、置いていこうとした。
自責の念に駆られつつ道を曲がった瞬間、視界が突如明るくなる。
夕陽だ。そして近くには、七色に彩られた雲があった。
その景色を見た瞬間、目頭が熱くなった。
こんな僕でも生きてて良い。そう思えた。
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