くらげのように

 水槽の中、ふわふわと漂うくらげ達。

「なんだか窮屈そう」

 隣で彼女が囁いた。

「まぁ、海に比べたらそうかもな」

 俺は小声でそう返した。

「でも綺麗だね」

「そうだな」

 水族館にて念願の初デート。それなのに会話が思うように続かない。

「そろそろペンギンの餌やりの時間じゃないか?」

「そうだね。でももう少し見てたいな」

「わかった」

 再び沈黙。何か話題はないだろうか。

「気楽に行こうよ」

 不意に彼女が言った。

「えっ?」

 驚いて声をあげた俺が彼女を見ると、彼女は微笑んでいた。

「焦らなくていーの。くらげみたいにゆっくりで」

「……そうだな」

 何を焦っていたんだろう。

「ゆっくりでもいいんだな」

「うんっ」

 可愛らしい笑顔だ。暗い場所で良かったなと思う。

 だって、俺の顔、絶対真っ赤になってるから。

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