第351話

「取り敢えず一二三、今はスキルを使うな。龍の成長痛は普通の人の成長痛よりも強烈。無理に使ったら成長痛が原因で足を引っ張るのは明白だし最悪ショック死しかねない、だから今は大人しく成長痛が終わるのを待っている方がいい…大丈夫。成長痛が始まるのが早かった、なら成長痛が終わるのだって早いはずだよ」


「…ならダンジョンに挑んでいる間にまた使える可能性はある?」


「それは私にも分からない、でも完全に否定もできない。だから頭の片隅で考えておく程度にするべきだね」


姉さんと一二三はそう会話しつつ姉さんがクリームソーダを飲みながら一二三の頭を優しく撫でる。

そんな姉さんに俺はある質問を投げかける。


「姉さん、質問だ。その成長痛は例えば細胞レベルで傷などを治せる治療法…人体総変異を使えばすぐに治るか?」


「無理、寧ろ変に成長痛の体に何かを注入すればどうなるかなんて私にも想像つかない。一二三の龍の力がおかしくか、もしくは一二三が死ぬ可能性もあり得る。私が知る限りだと成長痛の時にムカデとハエを足した様な姿をした寄生虫を体に入れてしまった龍がいたけれど、そいつは途中からムカデとハエと龍を無理矢理融合させたみたいなキモい姿になってから成長痛に耐えられなかっだみたいで苦悶の表情を浮かべてからこの世を去った。他にも成長痛の際に何かしらをしたのが原因でおかしくなったか命を失ったなんて話は幾つも聞いた、だから下手に何かをしない方がいい。それが一二三の為でもある」


姉さんはそう言ってクリームソーダを飲み干してから撫でる手を止めてアイスをスプーンで食べ始める。

なるほど、下手に回復させれば一二三の為にならない…なら一二三は今回龍人化無しで戦わないとダメだから…よし、俺も追加で武器を装備して花散も更に量産して、叶にはアレを追加で作るか。材料はあるし、何とかなるだろう。


「叶、すまんが追加で『刀』を一本渡すから装備して欲しい。大丈夫か?」


「いや、大丈夫だけれど…何で?」


俺の言葉に叶は頭に?を浮かべそうな反応をしたので俺は更に言葉を続ける。


「ああ、一二三の戦力ダウンがわかったからその埋め合わせでな…後、」


俺はそう言って叶の目をしっかりと見て話す。


「渡すのはいい、だが…かなり火力のある武器だ、それに使い方も特殊でそれもふまえて作ってから説明する」


叶に渡そうとしている武器、機構武器の一つである燃料型の次世代型。製作者でありかなり体を鍛えている俺でさえ扱うには沢山の技量が必要となるのでその手を使い続けている熟練者しか100%を出しきれない『一撃必殺』と『超火力&ロマン全開』を詰め込んだイカレ武器である『ハイオク型』。アレを遂に解禁する時が来たのだと俺は思ったのだった。



〜〜 その日の夜 拠点内 中庭 〜〜



「なあ、不知火。姉さんから龍の成長痛の話を聞いたんだが…お前にもあった?」


『あった。ワレの場合だとツノが取れてツノがあった場所から新しいが別の龍の頭蓋骨が形成されたから特に頭痛が酷かったな。尻尾もついでとばかりに背中の皮膚を突き破って新しい背骨が形成されてくっ付いたから出血もヤバかったよ』


「痛い痛い、想像しただけでも痛い。しかもあの頭蓋骨と背骨が自前だった事実も合わさって更に痛い」


『いや、話をふったのはご主人じゃん…』


あの後ひとしきりに情報交換と報告をし終わり帰宅。そして新しい武器と追加の装備を製作していたが一気には製作を流石に無理なので今は中庭で元の姿まで大きくなった不知火がへそ天の姿で休んでいたので、その体によじ登りお腹の上で休みながら不知火と会話していた。


「不知火、そういえば船の例の仕掛けはどうだった?上手くいったか?」


『うん、上手くいった。いつでも大丈夫だぞ。一回に人参5本か〆さば2枚な』


「わかってる、焔にも確認は取れているから大丈夫…まあ、使うかはダンジョンの仕様によるるが…用心に越した事はないからな。これからも友狐達と仲良くしてくれよ不知火」


俺がそう話しつつお腹を撫でると『当然』と言って自慢げな顔をしているのを見た俺は拠点内の夜空を見上げ、2つの月を見て今日の事を思い出す。


(弁慶石のダンジョンは赤城さん曰く浅層から深層まで余りモンスターが出ないので内部の詳細はかなり分かっている。モンスターとの戦闘のリスクは無いが、代わりに常に海と砂浜しかない所を歩く事になる。移動距離も長く、出てくるモンスターも全部全長7メートル位の大型のモンスターだから砂浜からすぐに視認できて、禁層に行くまでのポータルへは最短で大体3週間くらいで到着できる…東京のダンジョンに比べたらマジで楽ちんなダンジョンだな…感覚がズレているだけかもしれんが)


俺はそう思いつつ月を見ながら不知火に声をかけた。


「不知火、最悪の場合はお前を連れ出す予定ではあるが…大丈夫か?」


俺がそう聞くが、不知火が一切反応しない。不思議に思い不知火の顔を見ると幸せそうな顔をしつつ口を開け、右頬ら辺に舌を出して爆睡していた。


「…やっぱりコイツ犬かもしれん」


俺はそう思いつつ不知火を起こさない様に腹から降りて教会に戻る。そして数日後、遂にダンジョンに挑む日が来たのだった。





  







『…うし、行ったな。ご主人はアレでいい、今はキチンと力を蓄えるべきだ。ワレの力を借りずに戦う事こそご主人の成長に繋がる、手助けは余りしない方が強くなれる。だから頑張れご主人とその仲間達…でも、もしご主人の身に危険が迫っているときは…その時は全身全霊で戦うぜ、ワレわよ……ん?この匂い…人参の甘露煮と焼きネギか!よっしゃ、今すぐに行って少し分けてもらおっと!!』



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