第343話

「…消える?…倒したモンスターがですか?」


「おう、綺麗さっぱりな…相変わらずここの鱧の竜田揚げはうめぇな、これだから鱧は好きなんだわ」


「正確には2体目を倒した場合、基本的には両方とも消える。稀に2体倒しても消えない時もあるけれど、3体目を倒した時点で間違いなく全部消えるんだ…うん、お吸い物も美味しい」


取り敢えず獅子さんと御宅さんが料理を食べ始めながら説明をしたのを機に、俺達も目の前の鱧の竜田揚げとお吸い物を食べつつ話を聞いていく。

どうやら清水寺の舞台ダンジョンの浅層は東京ドーム位の広さがあるコロッセオらしく、ダンジョンに入った瞬間に自分達はまずコロッセオの中心部にある帰還用ポータルの効果範囲にランダムで配置される。そしてその隣には動物を

閉じ込める檻みたいに鉄格子で囲われ、その中に次の階層に行く為のポータルがあり、自分達の攻撃では一切壊れなかったので唯一の出入り口はその鉄格子に備え付けられた『0/100』の表記が書かれたプレートが付いた鉄の扉のみであると推測される。

そして、出てくるモンスターは多種多様。

浅層でよく見る『ビックボア』を始め全身から体に一輪の牡丹の花を咲かしている兎みたいな肉食のモンスター『牡丹兎』、黒い毛並みだがお腹に満月のような丸い円のような模様がある熊みたいなモンスター『フルムーンベアー』、烏帽子を被り和服を着て、まろ眉のような白い模様があるゴリラみたいなモンスター『マロゴリラ』などのモンスターもいる。そして常に炎を纏い飛んでいる蝶みたいな小さいモンスター『火種蝶』、全身から光を放つ鶴みたいなモンスター『発光鶴』などの普通なら出会わない超激レアモンスターまで出る。しかしいくら倒してもモンスターの死体が消える、正確に言えば1体なら問題はないが2体目を倒すと消える。稀に2体目を倒しても消えない時もあるが3体目を倒すと確実に3つのモンスターの死体が同時に消える。その後にモンスターごとに時間差はあるが確実にまたコロッセオ内に出現するらしい。


「一応、オレ達も次の階層に行く為の鉄の扉を調べた。だが鍵穴がないのにまるで開かない。それに『0/100』のプレートも気になる。だがいくらモンスターを倒そうが、コロッセオの外周を走ろうが、扉に100円玉を投げつけてみようが一向にプレートの数字が0から変動しないんだ…当時のオレ達は全く分からないから結局帰還用ポータルからダンジョンから脱出した。今だってあのダンジョンの事を考えても謎は解けなんだよ、まさに『異常』としか例えられない訳だな」


「…なるほど、ヤバいっすね」


鱧の竜田揚げを食べつつ俺は獅子さんとの会話に反応する。

特殊ダンジョンは何かしらのテーマを軸に構成されている。歌舞伎座のダンジョンは恐らくだが『衣食住』か『忍耐力』、佐々木の家の違法ダンジョンは『死』をテーマを軸にダンジョンが構成されていた。だから、そう考えると清水寺の舞台ダンジョンもまた何かしらのテーマに構成されているのであればそんな仕様になっているのも理解できる。


「なら、ボク達はそのダンジョン以外を選ぶ必要が…


「早計、−50点。観察が甘すぎて戦闘ならもう死んでるぜアンタ」


…はい?」


そんな話を聞いた桜が話をまとめようとするが、その途中で獅子さんが声を上げて中断させ次に御宅さんが口を開く。


「まぁまぁ獅子っち。まだ成長途中の子に余り厳しめの採点をするのはやめなよ。

桜さんも、僕達の話はまだ途中なんだから遮るのは良くないね…何より僕達夫婦が今回入るべきダンジョンとして一番オススメしたいのは寧ろこの清水寺の舞台ダンジョンなんだよ?」


「「「!?」」」


御宅さんの言葉に、全員が食べる手を止めて御宅さんを見る。

御宅さんは今何て言った?自分達がいくら調べても分からないダンジョンが一番のオススメだって?…マジで言ってるのか??


「お、全員ナイスリアクションだな。+50点は硬い」


「だからまた点数…まあ、いいか。

君達の言いたい事は良くわかる。『何故そんなダンジョンを薦めるのか?』とか考えているんだよね?…それは簡単、当時の僕達には無いものを君達が持っているからだよ。

因みに最大のヒントをあげると、さっき中断されたから言えなかったけれど、実はは清水寺の舞台ダンジョンは世界で数少ない『電波が繋がっている特殊ダンジョン』なんだ。さあ、このヒントを含めて考えて?」


獅子さんの笑顔と御宅さんの言葉に今度は俺達全員が顔を見合わせる。

俺達が獅子さん達が持っていない物を持っている?…正直分からない。取り敢えず俺は俺達が持っているのを一つづつ挙げていく事にした。

まず狩りゲー由来の装備と友狐は…あの話を聞くに力ではどうにもならないから違う。

ならばダンジョンでも動く乗り物?…いやコロッセオ内だと使えない。

ならErrorスキル?…物体をすり抜けるスキルじゃ無いからこれも違う。


(何だ、何を見落としている??)


俺はそう考えつつ頭の中を回転させる。先程の話だとまず『検証』は必要。『考察』もいるし、何よりそれをやるなら『人手』が…人手が…!?


「…『配信』?…そうか、配信だ!」


「「「?」」」


俺はある事に気がつき、思わずそう叫んでしまう。叶達の視線は気にせず、そのまま考えた事を口にした。


「何も、俺達だけが現地で実際に考えるのは余りにも非効率だ。だが、この場にいる俺と夏美以外の人は配信者だ…全員の同時視聴者数を合わせれば数十万人はいる筈だ」


「…ちょい待ち、まさか!?」


俺の言葉に叶が反応する。俺はそれを見て笑顔になり、


「俺達だけの考察で分からないのなら、他の人を巻き込めばいいんだよ。この場にいる配信者全員の合わせた視聴者達、約数十万人の知恵や考察をふまえて考えればいいんだ!

つまり今回のダンジョンの攻略には視聴者もある意味で協力者になってもらうんだ!!」


かなりぶっ飛んでいる考えを口にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る