第341話

獅子レオ、双子が腹にいる状態で旦那さんを担いで群馬から走ってきたから何かあったら困ると判断して離れに医者付きで閉じ込めていたのに…このじゃじゃ馬娘が、母親になるのにまだ落ち着かないか!」


「うっさい親父、オレはいつだって全力でやり切る女だ。それにお腹の子はオレとダーリンの子供達だ、この程度の動きでは何も問題は無い、寧ろいい感じの運動だって腹の中で喜んでるよこのヤロー!」


周りの人達と俺達が呆然とし、赤城さんと一二三が口をパクパクさせて何かを言おうとするが、肝心の言葉が出ないようだ。

そんな中、赤城さんのお父さんと口喧嘩しながらも女性は部屋の中に入ってきて一二三の隣に立つと頭を乱暴に掴み、力一杯撫で始める。


「一二三、聞いたぜ?ようやくスキルを制御する方法を手に入れたって?…良かったなこのヤロー!」


「わっぷ!?…獅子姉、相変わらず撫でるのが荒いし豪快だよ?」


「恥ずかしがるなよ、可愛いやつめ♪」


一二三は乱暴に撫でられて嫌がっているが、そんなのお構いなしに一二三の頭を撫でまくる女性を見て赤城さんがようやく声を出した。


「ね、姉様…一二三さんと知り合いだったんですか?」


赤城さんがそう言うと、獅子と言われていた女性が赤城さんを見る。


「おうよ、オレが昔にしていた武力を鍛える為の武者修行で全国を回っていた際に唯一勝てなかったダーリンの家の隣に住んでいたのが一二三でな。オレは昔から事あるごとにリベンジで走って群馬に行っていた、だからよく一二三の両親がオレを気遣ってくれて家に泊まらせてもらっていたんだ。だから一二三の事は昔からよく知っていて、オレのもう1人の妹みたいなもんさ。それはダーリンの家に嫁に行った今でも変わらないぜ?」


「因みに、その家は両親と男2人の兄弟で兄の方と獅子姉は結婚した。因みに弟の方は同い年の幼馴染なん…あれ?姉さんがいるって事は『御宅にぃに』もいるの?」


「おうよ。仕事帰りの所を拉致って走ってきたからいるぜ?今は妊娠中のオレを取り押さえようとしていた門下生達を相手しているはずだ、たしか両手両足の関節を全部外して無力化するって言ってからそろそろ…


「おーい、獅子っち。ようやく追いついた!」


…おっ来た来た。おっぜーぞダーリン?」


なんか一二三の聞き捨てならない事を聞いたような気がするが、それよりも先に獅子さんが入ってきた場所から誰かが獅子さんの名前を叫びならが入ってきた。


「も〜、獅子っち?僕をあまり心配させないで?」


「おう、心配してくれてありがとうな。愛してるぜ、ダーリン」


「あ、御宅にぃにだ」


入ってきたのは1人の男性、その人は白の制服を着ていて髪は黒のショートヘヤー、細目で見た目は優しそうにも見える…


「あ、〈狩友〉の皆様始めまして。僕の名前は『佐久間 御宅』です。名前の由来は父と母が絶対になってほしくない人種を名前にしたそうですので気にしないで下さいね♪」


「いや、普通に他が気になるわ!一二三のお母さんといい群馬県は別次元か何かなのか!?」


7歳児くらいの男の子がいた。思わずツッコミを入れた俺は間違っていないと思う。



〜〜 しばらくの時が経ち、現在富永町付近 〜〜



「はい、どちら様で…おお、獅子様に赤城様ではございませんか。お久しぶりです!」


「よ、久々に実家に来たら熱々懐炉ホッカイロ婆ちゃんが4月にしては珍しく良質の鱧を仕入れたと聞いたからな。会議もしたいし離れで会議をしながら堪能したいんだ。今からでも大丈夫か?」


「はい、今日はまだ奥は使っておりませんし材料もまだ沢山ありますから問題ありません。このまま入って下さい、どうぞ」


あの後、阿鼻叫喚になってしまったので会議どころではなくなってしまった。そんな現状を見た1人の老婆が獅子さんに何かを耳打ちすると獅子さんは目を輝かせて『うっし、行くぞお前ら。作戦会議だ!』と言って強引に一二三と赤城さんを米俵のように担ぐとそのまま部屋を退出したので、俺達も呆気には取られていたが一二三達を追いかけてないとダメだったのでそのまま当主様達に断りを得てから退出、現在は何とか一二三達をおろしてもらい、かなり年季の入ったお店の中に入ろうとしていた。


「もしかしてここって…一見さんお断りのお店だったりするのかな?」


「はい、しかも予約は絶対にしない知る人ぞ知る京都の隠れ鱧料理専門店ですよ。熱々懐炉ホッカイロ婆様のお店ですからお店の雰囲気も料理の味も最高なので安心して下さい」


俺は店に入る前にふとそう呟くと、赤城さんがその言葉に反応しつつ中に入って行く。

俺はそんな事を聞いたので前の世界でも入った事の無い上流階級のお店である事に一瞬萎縮して止まるが、皆が中に入っていったので俺も気合いを入れ直して中に入っていく。

そして、内装がとても綺麗に掃除されていて実に日本を感じる俺好みの建物内を進み、庭にあった離れに入ると獅子さんは旦那さんと一緒に上座に座る。それを見た俺達は自由に席に着いた。


「取り敢えず鱧の吸い物と竜田揚げを単品で人数分。残りはおすすめで頼むわ」


「なら、鱧鍋とお寿司の定食はどうですか?」


「…いいね、んじゃそれで」


「かしこまりました」と言って獅子さんを先導していた店員が席に座っていた獅子さんの注文を聞くと立ち上がり、離れから出て行く。

そして足音が消えたのと同時に獅子さんと旦那さんがこちらを向いて話し出した。


「んじゃ、改めて自己紹介な。オレの名前は佐久間 獅子レオ、旧姓が桐条 獅子レオでダーリンの家に嫁に行って苗字が変わった赤城の姉さんさ。後、一二三の姉貴分でもある。よろしくな」


「僕の名前は佐久間 御宅。名前に関しては親の願いだとして理解して下さい。一二三ちゃんのお母さんと同じ『合法の肉体』を持ってますが7歳児位の容姿で10歳を迎えてしまったので体が7歳児になってますが獅子っちと同い年です。後、僕は自営業で整体師をやってますし出張整体もしていますからもし何かあればご利用くださいね」


「補足を入れると私に格闘のイロハを叩き込んでくれたのがこの2人であり、昔に食欲を暴走させた私を取り押さえてくれたのもこの2人だよ」


改めて自己紹介をしてくれる獅子さんに御宅さんに一二三が補足を入れて説明してくれる。

つまり獅子さんは赤城さんのお姉さんであり一二三の姉貴分であり、御宅さんと一緒に一二三を鍛えた張本人であるという事だ…随分とパワフルな人達が来たもんだ。


「お姉様、そう言えば先程作戦会議と言っていましたが…何か作戦があるんですか?」


そんな話を聞いた後に赤城さんが獅子さんにそう言うと獅子さんは口角を上げる。


「いや、オレは戦いの最中ならともかく戦う前に作戦は立てない。猪突猛進が基本だからな」


「なら何を考えて…


「でもよ、今回に関しちゃオレ達夫婦の話が役に立つぜ?」


…え?」


堂々と無策である事を自慢げにいう獅子さんに赤城さんは呆れつつ答えるが、楽しそうにそう言う獅子さんの言葉を聞いて呆れ顔が真顔になる。そして獅子さんは…


「なにせ、お前らが指定された6つのダンジョンはオレとダーリンが1回づつ入って生還しているんだ。つまり浅層だけだがどういう所なのかを知っている。話だけでも聞いた方が得だと思うぜ?」


とんでもない事を暴露した。

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