第340話

「…京都の主な観光地がほぼ封鎖している状態は予想外でした」


俺は赤城さんのお父さんの言葉を聞いて驚愕する。俺はてっきりダンジョンがあるから入場制限をかけているもんだと思っていたが、まさか歌舞伎座の時のように特殊ダンジョンがあるから封鎖しているのは流石に予想外だった。

そして今度は当主様が口を開いた。


「京都は主に観光業で栄えていた。だか、その要となる有名な観光地を6ヶ所も封鎖しているのとほぼ全ての観光地にダンジョンができちまったから年々観光客減り、奈良や大阪に取られちまっている状態だ。だから俺達京都に住む全ての旧家が国や市役所などで何とか盛り上げようとしているんだが…はっきり言って焼石に水だった。だからこそ、我々桐条家は一族全体である目的を決めたんだよ」


そう当主が言うと天井を見上げた。


「『何代かかってもいい、我々は最後まで封鎖された観光地をダンジョンの手から取り返す』ってな。故に純血派は旧家の良きスキルやジョブを持つ者と赤城を結婚させて本家からダンジョンを制覇できる者を生み出す方針に舵を切ったのさ。今はそこの渉さんが2回も特殊ダンジョンを消した実績を見て、特殊ダンジョンが消えるのが確定したから、更に暴走しているがな…その結果がコレって訳さ」


当主様はそう言うと口にまたキセルを加え、煙を吐く動作をしてまた正面を向いた。


「…」


その話を聞いて黙って考えてしまう。まさか俺が歌舞伎座と佐々木の家の特殊ダンジョンを制覇したのがキッカケでこうなってしまうなんて考えもしなかったからだ。

そして、俺が今後の事を考える中で遂に叶が口を開いた。


「当主様、聞きたい事があるんですが大丈夫ですか?」


「ああ、何でも聞いてくれ」


「もし、俺がその話に乗って無事にダンジョンを制覇した場合は…そのまま結婚する事になるんでしょうか?」


叶が当主様にそう聞くと、赤城のお父さんが叶の前にでる。


「いや、別に結婚しなくても大丈夫。儀式中の期間だけ婚約者候補のフリをしてもらうだけでいい、そうすれば儀式が終了してから当主様が『今回の君と赤城を見て将来性がないと判断した、だから婚約は認められない』と宣言するだけで大丈夫だから。こうすれば一族は誰も文句は言わないし、赤城は自由恋愛ができるようになる。勿論、君も今後一族からの干渉がなくなる筈だ」


「…それで、仮に俺が逃げた場合や儀式の参加を拒絶した場合は?」


「…君と君の両親の命と東京での生活は保証できる。だが、今後如何なる場合があろうが京都と奈良には立ち入れなくなるのは間違いないだろうな。我々旧家の発言力は大きい、恥をかかされたと判断した場合はそうするだろう…それが例え分家であろうがな」


叶はそう赤城さんのお父さんと話した少し考え、そして真剣な顔になる。


「正直、勝手に婚約者だの儀式の代表になっているだの俺の意思を無視して話が進みすぎているし、何よりほぼ断る事ができない状況だ…文句を考えた数が多すぎてどれから話せばいいか分からない…」


「…」


叶の言葉に赤城さんのお父さんの顔が歪む、確かに叶にとってはあちらさんの勝手な都合でこんな事になっているんだ。叶は文句の一つも言いたいし、赤城さんのお父さんも叶を巻き込んでしまった罪悪感があるはず。多分どんな罵詈雑言を吐かれても耐える為に力んだから顔が歪んだろう…だが、


「…だけれど、それで赤城さんや皆さんが笑顔になるんですよね?」


「「「!?」」」


叶はそんなんで弱音や罵詈雑言を吐く人間じゃない。死んだ弟の願いを胸に俺達とダンジョンを制覇する位の人間だ、この程度で『人を笑顔にする』という覚悟が揺らぐ訳じゃない。

俺達〈狩友〉以外の全ての人が叶の発言に驚愕するが、そんな周りに意識を向けず叶は俺達全員を見る。


「皆、いいか?」


叶はそんな言葉を俺達に向かって言った。だから俺達は笑顔で答えた。


「行け、叶。ケツは持つからお前の覚悟を見せてくれ」


「うん、大丈夫だよ。ボクも君の立場なら多分そうするしね」


「叶、貴方の背中は私が守る。だから大丈夫」


「移動手段に関してはアタシに任せて!」


「男ならガツンと行きなさい。後、誰かビデオカメラと一眼レフとボイスレコーダーを買える店を知らない?記録は絶対に残さないと後悔するレベルの面白展開よコレ♪」


俺達がそれぞれそう言うと、叶は笑顔になりまた赤城さんのお父さん、そして当主様に向き直る。


「俺は死んだ弟の願いを胸に、今日まで人を笑顔にする為に生きてきました。だから目の前に笑顔に慣れそうもない人は見過ごせません、それが例え俺の意思に関係なく進んでしまったこの事態であっても貴方方が笑顔になれないのでらあれば俺は断る理由はありません」


そう言うと、叶は頭を下げた。


「例えフラれるのが確定していたとしても構いません。それで貴方達一族と赤城さんが笑顔になるのであれば俺はいくらでも協力します。そして、〈狩友〉の全員が許可をくれたので全員を代表してこの如月 叶が宣言します。俺を含むこの場の全メンバーで今回の件を我々〈狩友〉全員が総力をもって京都の特殊ダンジョンを攻略し、解放します。桐条家一族の悲願のために…そして、赤城さんがしがらみから解放されて笑顔になる為に全力を尽くさせてもらいます!」


叶がそう叫ぶ。その言葉に当主様はまるで我が子を見るような目で叶を見て、赤城さんのお父さんは今にも泣きそうな顔になっていた。













「よく言った!それでこそ一二三と赤城が認めた男だ!!」


しかし、いきなりそんな声が響いたと思っていたら急に後ろの襖が蹴破られ、俺の真後ろまで襖が飛んでくる。

その場にいる全員が襖が飛んできた方を急いで振り向くと、そこにはまるで獅子のようなオーラを放ち、腰まで金髪の長い髪に吊り目のお腹の大きいがいた。


獅子レオ姉様!?」


獅子レオ姉!?」


「「え、知り合いなの!?!?」」


すると赤城さんと一二三がそこにいた女性の名前を同時に言い、更に同時に知り合いなのかと顔を見合わせて驚いている。そんな状況で俺達が困惑している中、女性が高らかにこう叫ぶ。


「その男気、しっかり聞いたぜ!親父にジジイ、後は赤城の姉であり一二三の姉貴分のこのオレ『佐久間 獅子レオ』様に任せておけってんだよ!」

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