第327話 アイドル達の配信事故×助太刀異常者=楽しい日々 5

〜〜 1月某日 六本木駅ダンジョン 中層 side 無 〜〜


東京の六本木駅、そこには銀座駅と同じくダンジョンがある。

しかし違う所もある。銀座は初級ダンジョン、つまり浅層しかしないダンジョンだが六本木駅のダンジョンは普通のダンジョンであり禁層まであるダンジョンだ。勿論手に入る素材や階層ごとに環境もガラリと変わる。

そんなダンジョンの中層、岩場と所々に沼地が永遠に広がる階層のとある沼地で今…


「クッ!?」


「白夜!」


配信用ドローンを連れたまるでアイドル衣装のような同じ装備を着た二人組が大量の野球のボールサイズで黒くテカっているカエルみたいなモンスターに四方八方から攻撃されていた。

まず彼女達はこの世界特有の職業であるダンジョンアイドルの二人組のユニット『リバージ』、メイスにラウンドシールドを装備していて白髪のポニーテールでかわいい系の女性が「白夜」、ハルバードを装備して黒髪のショートヘアでかっこいい系の女性が「夜空」だ。

そしてダンジョンアイドルというのは簡単に言うと『歌って踊れて、オマケにモンスターにも勝てるくらいに強くてかわいい』が基本のダンジョン配信を通してアイドル活動をする人達の事であり、この二人組『リバージ』はそのアイドル達の中でも一握りに入る中層でも戦えるアイドルになり、ようやく最近地上波の番組に出演できるくらいまで有名になって雑誌などでも将来有望株として注目されている二人組なのである。

そして今彼女達を襲っているのが『超玉カエル』、群生で生息し獲物には数で攻めて捕食するカエルみたいなモンスターであり、最大の特徴はその皮膚。ゴムのような伸縮性と保温性、保湿性を確保しつつ顎などの一部が硬くなっている皮膚以外はある程度の打撃、刺突、斬撃すら伸縮性で受け止めて弾いてしまう。それを利用してピンボールみたいに周りにぶつかりながら敵に向かって不規則に体当たりをしたりするのが得意である。しかし彼らは基本は臆病な性格なのだ、捕食行為以外では絶対に他の生物には襲いかからない。だが、例外が一つだけある。それは…


「くそ、白夜。まだ匂う!?」


「うん。この甘い匂いはまだ消えてない!」


メスの個体のみ体内で生成できる匂いのついたピンク色の液体…というかその中に含まれる特殊なフェロモンが自分達以外の生き物に付着した場合のみ捕食ではなく外敵と見なして集団で襲ってくるのだ。

メスの個体数は約オス三十匹に対して一匹、つまり子孫を効率よく残すにはメスの個体は自分に敵意を向ける生物を的確に攻撃するようマーキングをする為にフェロモンの塊であるピンク色の液体を口から水鉄砲のように噴射できる。

つまり彼女らが何故大軍で攻撃されているのか、それは間違ってメスの個体を攻撃してしまい液体をかけられた…訳ではない。


「ヒュー♪やっぱり俺はこうじゃないとだめだなwそれにこの手のリアクションならアイドルの方が視聴者を稼げるし楽だよなwこの調子なら今日だけでチャンネル登録者が元に戻る…いや、さらに増えるかもなwww」


彼女達を見下ろせる岩場にいた同じく配信用ドローンを連れた迷彩色の装備を付けた20代くらいの男性のてに持っているピンク色の液体が入った水風船が原因だ。

この男の名前は『出我RASE』、本名は不明だが日本人であるのは間違いない。

彼はダンジョン内でモンスターやそのモンスターを狩ろうと近づく人達にイタズラをする行為を中心とした犯罪ギリギリだが罪にはならない行為を攻め続ける迷惑系配信者であり半年前に余りの酷い行為の数々に痺れを切らしたサイトの運営側からチャンネルをBanされた人物である。しかし彼は3ヶ月前に名前を色々と変換にしたり、別アカウントやアドレスを作るなど様々な行為をして配信者として復活、元々中層で戦えるスペックを持っていたので真面目にダンジョンの配信をしていたのだが…あまりチャンネル登録者数が伸びず、また以前の迷惑系に戻ることにした。

その最初のターゲットが彼女達2人であり、事前に公式アカウントで告知している入るダンジョンを調べ、今回の迷惑行為に及んだのだ。


「2人とも、俺の女になるなら助けますがどうします?w」


「「お断りです!」」


男はニヤニヤしながら下にいる彼女達に向かってそう言うが、彼女達はそれを全力で否定する。

しかも彼は気づいていない。自分が今までやっていた迷惑行為は先に目的のモンスターを狩ってその後に狩りに来た人達を煽ったり、休憩中の人の飲み物を青汁に変えたりとしょうもない迷惑行為ばかりだから見逃されていただけ。今回の場合は人を本気で殺しかねない犯罪行為という事を、自分が有名人に戻ることばかり考えているせいで自分が昔なら守っていた超えてはいけない一線を超えた事に気づいていないのだ。


「キャ!?」


「夜空!?」


「お、そろそろ1番の撮れ高が来ましたかなw」


そんな中とうとうハルバードで攻撃していた夜空が超玉カエルの突撃による一撃を背中にくらい、武器を手放して前に倒れてしまう。白夜は急いで夜空の頭の方向に視座立ち、盾を構えて防御する。しかし四方八方から突撃し、尚且つ弾かれても岩にぶつかり更に跳ねる事で予想外の所に突撃してくる突撃攻撃に加え舌を鞭のようにして攻撃してくるモンスターが四方八方にいるので一方向しか防御できないラウンドシールドだけでは全てを受け止められない。

徐々に苦しそうになる白夜と背中のダメージが大きいのか泥まみれの顔で苦しそうにしながら未だ立てないでいる。そんな2人を安全な岩の上から笑いながら撮影する出我RASEに対して双方の視聴者は苦情のコメントを流す。

されど、どれだけ罵詈雑言のコメントを流そうが彼女達を助けられるわけでもなく、白夜がどんどん構えている盾にもヒビが入り始めていく。


『彼女達は死んだ』


誰もがこう思った。













「流石に見過ごせないな」


双方の配信から第三者の声が聞こえるまでは。

その声と同時に黒い影が白夜の構える盾の前に降りるのと同時に彼女達に向かっていた超玉カエルの全てが弾かれずにそのまま2枚に切り裂かれて沼に落ちた。


「「!?」」


夜空は急いで顔をあげて盾の前にいる人を見ようとし、白夜も急いで自分の盾をずらして目の前にいる人を確認した。


「…おい、気になる子にイタズラする気持ちは分かるが…少々やり過ぎだぞ?」


目の前にいたのは作業着姿でゴーグルサバイバルナイフと苦無を構えているツーブロックでオデコにゴーグルを付けた男性。2人はその人を知っている…いや、その場の三人以外にも視聴者達ですら知っている超有名人にしてもはや伝説に近い存在とかした男性。


「「「…い、〈異常イレギュラー〉!」」」


「あ、やっぱりそっちが先に来るのね」


世界で唯一のダンジョンを制覇しているチーム〈狩友〉のリーダーにして単独で特殊ダンジョンを2回も制覇した人類最強と呼ばれ始めている人物、〈異常イレギュラー〉の二つ名で呼ばれている『佐藤 渉』がそこに居たのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る