第299話
魂骨炎狐龍の尻尾は外側に張り付いている骨だけの背骨以外は狐の尻尾と変わらない、だが双魔変異して緋雷神龍の尻尾の力が加われば柔らかくしたり硬くしたりは簡単にできる。だから腹の傷からなら深く刺せた。
『ア…ガ…』
そして刺した瞬間に緋雷神龍は悲鳴を上げる、更には体の内側から何かが膨らみながら胸の方に移動し始めたのだ。そして数十秒後には完全に胸の辺りだけが内側から膨れていて小刻みに振動している。
「『どうだ、心臓を背骨で掴まれた気分は?』」
『…はは、前代未聞だ…ね…まさか…体内から内…蔵を壊し…つつ…し…心臓を…背骨で掴む…なんて!?』
俺達はお互い至近距離でそう話す。そして俺はゆっくりと傷口から尻尾を抜く。その尻尾には先程までくっ付いていた背骨は泣く、代わりに完全に抜いたにも関わらず傷口から白い炎が緋雷神龍の体内に入り続けている。
『嘘…でしょ?全然…動けな…い…!』
「『体内に炎が入った時点で頭部以外の骨を炎が包み込んで支配した。無痛かつ熱を感じないし傷を付けない白い炎はこういう絡め手に便利なのさ』」
最初のレールガンを撃った時は首は何とか動いていたのだが今回は本当に喋る以外の事ができないようだ。
まあ、コレが俺の狙いでもあったので狙い通りではある。
俺の最後の一撃、それは尻尾の背骨で緋雷神龍の体内から内臓を攻撃しつつ心臓を文字どうり絡め取り掴むのが目的だ。その際に白い炎も傷口から大量に体内に入れ、頭部の骨以外を燃やして操作する事も忘れない。
何故こんな事ができるのかと言うと…それが師匠であるシモン・ライラックの死因だからだ。
師匠は生前、魂骨炎狐龍と戦った際に白い炎を纏った肋骨を背中に刺されて、その際に炎を体内に入れられた。その為全身が動かなくなりそのまま両腕を食いちぎられた後に背中に大量の骨を刺されて死んだ。この話を修行中に聞いた俺はその時初めて生きている生物の体内に炎を入れたらその生物の骨を操れる事を知ったのだ。
タコなどの軟体動物や微生物とか除き、基本的に生物は筋肉だけでは体を動かせない。動きの軸となる骨も合わせて動かさないと動けない、つまり骨さえ動かなくさせれば例外が無ければ動けなくなるのだ。
それは龍である緋雷神龍も変わらない、軟体動物みたいに骨がなくても動けるならまだしもレールガンを放つ生物がその反動やらに耐える為に体の軸になる骨は絶対に必要な部位、そこを抑えられたら流石に動けなくなるのは当たり前だ。それにこの炎は無痛かつ熱も無い、つまり攻撃としての要素は無い。だからこそ体内に入って全身の骨に炎がまとわりついても何も変化はないし、俺が骨に対して何かしらをするまで絶対に気が付かない。普通に毒や麻痺、閃光玉などよりも厄介な事この上ないのだ。
「『チェックメイトだ、緋雷神龍。遺言なら聞くぞ?』」
俺はそう言って右腕を自分の真上に上げる。すると心臓に絡みついていた背骨が少しずつ締まり締まり、緋雷神龍は吐血する。
『グフッ!…ハァ…ハァ…………嬉し…いな…』
「『…』」
しかし、吐血しているにも関わらず緋雷神龍は心底嬉しそうな顔をする。
俺はそれを黙って聞く事にした。
『今まで…私に負けはなかった…でも…きっ…今日、初めてま…負けた…こんな…私のぜ…全力を出した…のに…負けちゃった…かん…完敗…だよ…あり…ありがとう…最こ…うの…手向けだ…よ…悔いは…ない…な…』
そう言うと彼女は俺を見る。
『ふふふ…私の…愛おしい…片割れ…渉。私…次に…生まれ変われ…る…なら…貴方の…家族に…なりたい…な…』
「『…なら、姉ちゃんになってくれ。俺、姉ちゃんとか少し憧れていたからな』」
俺がそう話すと満面の笑みを浮かべる緋雷神龍。
『いい…よ。私…も、貴方…が弟…なら…嬉しい…しね』
「『そうか、なら…
今は一旦お別れた、姉さん。先に向こうで待っていてくれ』」
俺はそう緋雷神龍と話すと同時に上げた手を一気に握る。すると胸の膨らみは一瞬に消え、そのまま緋雷神龍は口から大量に吐血し、その目の光が鈍くなる。
「『…せめて、そのまま立った状態にしておくよ。姉さんは地面に倒れる姿は似合わないからな』」
だから俺は最後の力を使い、緋雷神龍の体内の骨を硬くして倒れないように固定する。
そうしていると地面がゆっくりと光りはじめ、そしていつもの浮遊感が俺を包み込んだ。
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