第292話
〜〜 side 佐藤 渉 〜〜
『ああ…コレだ。コレこそ望んでいた感覚だ!』
「そうかよ…てか、かなり苦無を刺したのにまだまだ元気そうだな?」
『最高の気分だからね。後苦無を刺した後に隠していた返しを起動させて抜けなくしている鬼畜には元気うんぬんは言われたくない。地味にチクチクして痛いんだからね』
そんな軽い会話をしつつもお互い至近距離での戦闘にもつれ込む俺達。アレからかなり時間は立っているがお互い未だ息すら乱れていない、俺は元々15年の修行でスタミナの管理とかを無意識にできるように叩きこまれたし、何より未だ攻撃は当たっていない。つまりまだまだ戦える状態だ。
だが、やはりというか緋雷神龍は強い。片腕の無いリスクを感じない上に傷だらけで苦無も五本も背中に刺したのに未だピンピンしている。しかも顔も笑顔だし…マジで疲れ知らずだと思う。
『…うん、そろそろ本気を出してもいいかな。コレですぐに死んでも今の気分を味わえただけで満足だし』
そんな事を考えていると不意に緋雷神龍はそう呟き、一気に俺から距離を取る。
『渉、今から本気でいくね。できれば本気の状態の私を殺せれば最高だけれど…できるよね?』
そう言って緋雷神龍はそのまま全身から放電を始め、俺は急いで距離を取る。
その後に周囲から大量の黒い粒がモンスターの周りに集まり、緋雷神龍の全身を包み込み黒く丸い球体になる…その直後、球体から尋常じゃない殺気を感じ、俺は地面に伏せる。
そして、伏せた直接に俺の真上を何かが通り過ぎた。
『うふふ、やっぱり渉は最高。この不意打ちにも反応するとは…本当に右腕を切り落としてでも君を待っていた甲斐があったよ』
真上にあったのは球体から飛び出した黒色の太い棘、その棘が当たらないのを感じたのかそのまま棘は球体の中に戻され、その後に球体が崩れ始める。
『さあ、刮目して見て。コレが本気になった私、緋雷神龍の真の姿だよ』
そう言って現れた緋雷神龍は先ほどまでとは違う姿をしていた。
まず、全身が黒色なっているが関節などの部位は赤く発光している。更になくなっている右腕には黒い布のような物が纏わりつき、角は常に赤い雷が帯電し続けて赤く発行している。
「なるほど、ソイツがお前の怒り状態なのか」
『…怒り状態?』
俺はそれが緋雷神龍の怒り状態であると断定すると、奴は不思議そうに首を傾げる…その瞬間に俺はモンスターの目に不意打ちで苦無を投げる。
『…無駄』
しかし緋雷神龍はそれに反応した。何と右腕の
あった場所に纏わりついている黒い布が黒い箱の形になり、目に向かって投げた苦無の前にひとりでに移動する。そして…
ーーーーー!!
その箱に苦無が触れた瞬間、苦無は触れた箇所から甲高い金属音と火花を撒き散らしながら徐々に粉状に削れて消えてしまった。
「な!?」
俺は投げた苦無はてっきり弾かれると思っていたので予想外の結果に思わず声が出てしまう。
だが、緋雷神龍はその隙を見逃さなかった。四角い箱になっていたな物が亀裂が入って砕けたと思ったら今度は複数の氷柱のような形になり、先端が俺の方を向き猛スピードで突進してきたのだ。
(ヤバい、何故かは分からないがこの攻撃はギリギリで避けてはいけない気がする!)
俺はその攻撃を見た瞬間、この戦闘で1番の危機感を覚えた。だから全力でギリギリではなく少し離れた位置を保つ感じに避け続ける。
『…やっぱり、私から離れると威力も落ちるし操作も難しい。でもコレでいい』
「いや、威力が落ちても地面をえぐる力があるなら十分だわ!」
全力で避けた後に緋雷神龍がそう言ったので文句を言いつつ後ろを振り向くと、そこには大量の短い線が地面にできていた。おそらくあの攻撃は黒い塊が対象を切るとかじゃなく削り取る攻撃だ、しかも形状変化が自由で取り回しもできる…そんな物、俺は一つしか思い浮かばない。
あれは確か『people's redemption』に出てくるミュータントで廃棄された発電施設と融合した巨大ミュータント…そのミュータントは自力では移動できないので『ある方法』で攻撃してくる。その攻撃は確か…
「…砂鉄か!」
『あ、正解。私、この姿の時は体の外に放電はできなくなるけど発電はできる。そして鱗と甲殻が黒くなって特殊な磁気を操れるようになるの。そうしたら周囲の砂鉄を問答無用で自由に操れるんだ』
俺の問いに笑顔で肯定する緋雷神龍。
砂鉄、それは公園の砂場や川などに磁石を使えば簡単に手に入る細かくなった鉄だ。
だがコイツはその細かさ故に形を自由に変えられるし、なんなら磁気やら上手く超高速で振動すればチェーンソーよろしく触れたものを削り切る。
「なるほど、下の階層に不自然な穴だらけの死体や切り刻まれた死体があった理由がわかったよ。お前の砂鉄で切り刻んだりさっきみたいに発射して穴だらけにしたんだな?」
『正解、普段はこっちの姿を隠して生活していたから猫のアホも含めて全員私が砂鉄を操れるのを知らなかった。だから不意打ちは余裕だったね…だけど猿はムカついた。気づいたら私を真似て自分の手を切り落として捨ててたし、それが私へのリスペクトとか言っていたし…私の気も知らないアホだからムカつきすぎて四肢をもいで殺してしまった』
俺は下の階層にあった穴が空いたモンスターの死体やバラバラの死体の意味がようやく理解できた。確かに電気だけの通常時の姿だと切断や穴でモンスターを殺すことはできない、よくて亥の階層のモンスターみたいにぐちゃぐちゃに食われて殺されるか先程の陰陽化け猫みたいに雷で死ぬかだろう。だが、この砂鉄を自由に操る怒り状態なら弾丸みたいに砂鉄を飛ばしてモンスターの体に穴を開けるのなんて簡単だし砂鉄を振動させればチェーンソーみたいに削る形で切る事も可能だ。
(まさか、『people's redemption』の狩り知識が役に立つとは…でも、あのミュータントは冷却用の水が無いと排熱が追いつかなくなり最後は自爆して死ぬ巨大ミュータント。
だが、目の前にいるのは雷を完全にコントロールして排熱云々は一切ない完璧生物…やっぱこっちの方が最悪じゃん)
俺はそう考えつつポーチに左手を入れて新しい苦無である睦月を取り出そうとしつつ、また緋雷神龍の方を向き、そして睨む。
(最悪だ、こんなにも早く用意した2つの切り札の片方を切る羽目になりそうな展開が来るとは…
人体総変異の次世代型、副作用は苦労の末に最小限に押さえつつ使用した場合の効果時間は1時間。でも再度使用に一日かかる…使い所を間違えたら死ぬな)
そう言って俺はポーチから目的の物を取り出してまた構えるのだった。
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