第291話
〜〜 阿木川ダム side 月神 桜 〜〜
〈『ああ、楽しい…もっと、もっと私を奮い立たせて!今日死ぬ私に最高の気持ちを頂戴!』〉
〈「戦闘狂が…望み通りに全力で狩ってやるよ!」〉
テレビの画面に映る渉とモンスターがそう会話しつつもお互い一歩も引かずに戦い続ける渉とモンスター。現在戦闘が開始してから1時間半が経過し、私達〈狩友〉のメンバー全員は阿木川ダムに全員集合して目的地にしている佐々木邸に向かおうとしていた。
「すみません、まだヘリは到着しないんですか!?」
「まだだ、今こちらに向かってきている途中だからもうしばらく待っていてくれ。何せ一回本部によってミリア君と友狐達を回収しなければならないし、何より『君達の援軍達』も乗っているんだ、どうしても時間はかかってしまうさ」
だが、私が渉が音信不通になったのでギルドを経由してある4人と連絡を取ってこちらに援軍にきてくれている。その4人が今私達の乗る予定のヘリに乗っているし、そのヘリは本部にいるミリアさん達を回収しなければならないからどうしても到着する時間が遅れてしまっている。だから今はダムから動けない状態になってしまったのだ。
〈「…ここ」〉
〈『クッ!?』〉
そんな状態故にボク達は闘技放送を見るしかかなかった。
でも、その闘技放送の内容がこんな時に限ってかなり異質。本来戦うはずであったモンスター達を皆殺しにされていて、そしてダンジョンの奥で待ち受けていた皆殺しの犯人はまさかの緋雷神龍。そして緋雷神龍は人間並…いや、それ以上の知能の持ち主で人の言葉を話せるし、お義父さん達を見逃して間違いなく生還させる代わりに渉に一騎打ちを申し込むし、渉はそれを受け入れて一騎打ちするし、特に1番驚いたのは…
「…一二三さんや、コレどう見えてます?」
「明らかに訓練された動き、間違いなく2日前の渉の実力では考えられないレベルの洗練された戦闘スタイル。攻撃を避けるタイミングと視覚以外での感知能力が私と叶の実力を軽く超えている…とても2日で習得できる物じゃない。それにあの回避技術は格闘家として軽く嫉妬する」
「だよな。なら渉に一体何があったんだよ…」
渉の異次元レベルの成長だ。
ボクは最初こそ渉が戦い始め、攻撃を連続で紙一重で避け続ける姿を見てハラハラしっぱなしだった。
しかし、時間が経つにつれてそのギリギリで回避する動きが無駄が無く…そう、例えるなら踊る様に無駄がなく綺麗な動きでキチンと判断して避けているのがわかった。
〈「…」〉
「…まただ、またギリギリでかわして反撃した」
「あのタイミング…私でも無理。私ならもっと腕が離れているタイミングで避ける為に動き出しちゃう…でも、渉みたいにあのタイミングを意識的かつ連続で避けられるなら戦っている相手からすればたまったもんじゃないと思う」
「だな、多分モンスター側は攻撃しても当たる瞬間にブレて攻撃があたらなかったように見えるだろうな。そして避けた本人は間近に反撃できる対象があるから長物の武器よりナイフや苦無みたいな短い武器の方が逆にダメージを与えられる…それに避ける動きにも短い武器の方が邪魔にならない。回避に特化した戦闘スタイルだ。
やる方は避けるタイミングが一瞬でもズレたら一撃で致命傷、やられる方は攻撃が当たらず焦って判断力を失いやすい。双方共にリスクがある戦闘だな…でも、ソロでも使えるが複数人との連携をすれば更に相手の判断力を削げるし隙を作りやすい。まさにオールマイティに武器が使えて回避優先の渉に合った戦闘スタイルだな。正直合いすぎてチームメンバー…俺とか桜とかの実力が渉に追いつけるか心配になるぞコレ」
そう一二三と叶は会話をしながら闘技放送を見ている。
渉の動き…間違いなくソロでも戦えるのだが、それでも私達と連携すれば更にモンスターをスムーズに倒せるだろう。
叶の『置楯』、ボクとミリアさんの『分身』のスキルを使えば守りつつ攻撃も容易いし桜との連携や夏美の遠距離攻撃の為の足止め、友狐達との連携もできる。だが、今の渉の実力は映像で見ただけで私達よりも上なのは間違いない。
このままだと私達が渉に合わせられなくなって足手纏いになってしまう。
「…これは、またしばらく訓練と実戦で経験を詰むしかないね」
ボクはそう呟いた…その時だ。
「本部から報告!予定のヘリは今から5分後に到着する予定であるとの事です!!」
「!」
軍人さんの1人が僕達にそう言ってくれたのは。
〜〜 同時刻 佐々木邸 side 無 〜〜
ここは佐々木の屋敷、そこには勝ち誇った顔をした翔太が缶ビールを片手にテレビに映る闘技放送を見ていた。
「いいね、予定通り禁層を攻略し始めてくれた。あの野郎が生きていたのは予定外だったが…まあ、帰ってきた瞬間にモンスターに襲われたみたいにヤレばいいか。女の方は…確か俺が世話になったあの人が好きそうな容姿だしそのまま闇に流すか。そして…」
そう言って缶ビールを飲み干す翔太、その後に映る渉を見て笑顔になる。
「ダンジョンを制覇が成功しようが失敗しようがどちらでもいい、どの道ダンジョンで早死するか生きて帰ってきても闇に流れるかの二択だ。それにどちらでもこの村を有名にしてくれるから村おこしになるし…うまく利用すれば俺の懐が潤うからな」
そう言って翔太は更に缶ビールを取り出し、プルトップに指をかけて蓋を開ける。
「所詮お前ら親子は俺の養分なんだ。だからとっとと俺の金になりやがれ」
そう言ってまた翔太はビールを飲み始める。その後ろには医療機器に繋がれたまま寝ている彼の父親が寝ていた。
だが、彼はまだ知らない。渉の人脈の広さ、そして雄二の意外な味方を。
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