第290話

「シュッ」


まず先手をとったのは俺。左手の苦無を緋雷神龍の左目に向かって投げる。


『甘い』


だが、その苦無は目を閉じる事でガードされた。更に奴はノーモーションで角と左腕から赤い雷を俺に向かって放ちながら突撃してくる。


「…」


しかし、俺はその場から動かない。何故ならこの雷はからだ。


『…ほう』


大量の赤い雷が俺に向かってくる…が、俺には一切当たらない。今の体勢を維持している限りは絶対に当たらない場所のみに雷の攻撃が来たからだ。

緋雷神龍はそれを見て俺を見る目が鋭くなる、今の雷は間違いなく俺が今の場所から避けるのを前提とした攻撃だ、故に今の場所から動かながなければ当たらない。そして、雷が通り過ぎると目の前に左手を構えて突撃してくる緋雷神龍。突撃してくる勢いそのまま左手を突き出し、俺を掴もうとしてくる。


「…」


だが、それでも俺は動かない。そのままどんどん腕が近づいてきて、そのまま俺を掴もうと指が動いた…その瞬間!


「シッ」


『え?』


俺は本当にギリギリのタイミングで少しだけ体を動かして攻撃を横に避ける。緋雷神龍もまたこのタイミングかつ攻撃した左腕と俺の体が近すぎている為、本人にはいきなり自分の攻撃が横にずれたような錯覚を感じたのだろう。

それに俺自身、現在真横を通り過ぎている左腕との隙間は8センチくらいしかない。風圧をもろに受けるが気にせず左腕の肘の関節にナイフで切りかかる。


『!』


鱗と甲殻をモノともせずにナイフが肉を切り裂き、傷跡から血を吹きださせる。だが緋雷神龍もタダではやられないと考えたのかそのまま自分の尻尾で俺を攻撃してくる。


「…」


『また…!?』


だが、その攻撃を俺は左手をポーチに入れてからまた攻撃が当たるギリギリまで引きつけてから少し体をずらして避ける。今度は5センチほどしか隙間が無いがそのまま左手に花散と苦無を一本ずつ取り出しつつ完全に緋雷神龍が通り過ぎるのを待つ。


「…ガラ空きだな」


『クァ!?』


緋雷神龍が通り過ぎた瞬間に俺は花散を投げ、奴の背中に当てて爆発させる。緋雷神龍は爆発によろめき、片膝をつく。俺はその隙に走って近づき、そのまま背中で爆発して傷ついた場所に苦無を深く差し込む。

緋雷神龍は流石にマズイと考えたのかそのまま全身で赤い雷を周囲に撒き散らす。


「見えてるよ」


俺は急いで刺した苦無をそのまま残し、背中を蹴り地面に着地。そのまま降り注ぐ赤い雷の隙間を縫うように避けていく。

その隙に緋雷神龍は俺から距離をとり、俺に向き直る。


『正気?避けるタイミングも避ける動きも最低限にする代わりに紙一重の回避を連続でするとか…狂ってるよ』


「悪いな、コレが俺のやり方だ」


雷を避け切った俺に緋雷神龍がそう話しかけてきたので笑顔でそう答える。

ライラック家の戦闘とは、とどのつまり『敵の攻撃を自分が避けれるか受け止めれるギリギリまで引きつけてから最小限の動きで対処し、その後すぐに反撃する』という感じの戦い方だ。

コレには


(視界以外の感覚で物事を感じれる様になる技術)


(自分の視界を点ではなく面で捉え、少しの動きで反応できる特殊な視界の捉え方)


(無意識で無駄の無い回避をする動き)


(敵の攻撃や死体や殺しなど対して決して恐怖しない精神力)


が必要で、更に揃って初めてスタートラインに立てる。そこから戦争なりの乱戦をして自分にあった動きや武器を見つけて、そこから更に研鑽と改良の末に完成するのがライラック家の戦闘術だ。

それに実は俺の師匠であるシモンと俺とでは同じライラック家の戦闘術を主軸にしているが若干戦闘スタイルがちがう。

シモンは基本レイピアを二刀流に構えて攻撃を避けたりレイピアで受け流したりとかしつつ相手を攻める戦法に対して俺はレイピアより短く頑丈なナイフと苦無で二刀流に構えつつ、相手の攻撃を極力避けつつ搦め手を使い攻めていくスタイル。

だから師匠のシモンよりもギリギリで避けることが重要であり、動くタイミングによっては即死だってありえる。

だが、俺にはコレが1番しっくりくるスタイルだ。

それに絡め手の為に使っている苦無も魑魅魍魎を狩る和風オープンワールド狩ゲー『妖滅伝』に出てくる複数の機能が合わさった複合武器である絡繰武器、その中の一つである3つの機能が合わさった苦無『睦月』だ。それに…である以上搦め手の数はかなり豊富だ。そう簡単には負けはしないだろう。


「…んで、さっきからこっち見るだけで動こうとしないが大丈夫か?」


そんな事を考えている俺を只々見ているだけの緋雷神龍に対して俺は左手をポーチに突っ込みながらそう言う。

だが、そう言われた緋雷神龍は寧ろ嬉しそうな顔をした。


『ううん、大丈夫。ただこの一瞬で貴方が今までの相手の中でも強者だってわかったから嬉しかっただけ』


「…へえ」


俺は笑顔でそう返してくる緋雷神龍にポーチ内の睦月を取り出して構える。


『ほんの少し戦っただけで強いと感じた奴は…私に「俺の子を産め!」って言って迫ってきた爆裂粉龍のアホと「よくもウチのダーリンを!」とか言って爆裂粉龍の敵討ちに来た七色泡龍のバカの2匹以来かな?』


「…はい?」


『そう言えば、途中でお腹いっぱいになったからアホは左腕、バカは両足を食べ残して捨てたんだっけ…持ち帰って保存食にすれば良かったな?…まあ、過ぎた事だし別にいいか』


緋雷神龍の独り言に俺は思わず真顔で反応する。だがその言葉の後にまた緋雷神龍が突撃してきたので俺は急いで意識を切り替え、応戦するのだった。

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