第289話
〜〜 20分後 〜〜
「…んじゃ、取り敢えず父さん達はこのままもち丸に乗って亥の階まで避難するでOK?」
「ああ…渉、私は父親なのにこんな危険な戦いを一緒に戦えなくて本当にすまない」
「大丈夫、父さん達にはその分ダンジョンの外で活躍してもらうさ…俺、そっち方面にはあまり力になれないしね」
あの後、2体のモンスターの死体を回収してから父さん達と話し合った。
最初は父さんが頑なに俺と一緒に戦うとか色々言われたが、戦うモンスターが俺との一騎打ちを望んでいるし、何より父さんには渡辺さんを守ってもらわないとダンジョンの外に出た時の色々な事に支障が出てしまう。だからエイセンは拠点に回収して、もち丸に大きくなってもらって2人を安全に下の亥の階まで避難してもらう事にした。
『ダンナ、やっぱり僕だけでも…
「相手方が一騎打ちを望んでいる、それに例え俺が負けて死んでももち丸なら最後まで父さん達を守ってくれると信じているからこその判断だ。頼むぞもち丸」
…わかったですよダンナ。でも生きて帰ったらまた一緒に母ちゃんのご飯を食べるですよ』
大狐の術で巨大化したもち丸が頭を体に擦り付けながら俺達がそう会話していると、渡辺さんが近づいてくる。
「渉さん、改めて聞きますが勝算はあるんですよね?」
「…良くて5割、悪くて3割だな。緋雷神龍の力は自身で体験しているから分かるけど、マジで今まで戦ってきた禁層のモンスターの中で身体能力が全体的に強い分類だし能力もシンプルで汎用性が高い…正直きついけれど、勝てる可能性があるならやりますよ」
近づいてきた渡辺さんとそう話しながら彼女が持ってきてくれたアタッシュケースを受け取り、中身を取り出して装備する。
正直に言えばかなり無謀な戦いだ。緋雷神龍の力は身をもって知っている、あの身体能力と赤い雷は強力なのもそうだがそれを使う相手が俺よりも長く生きている本人そのものだ…間違いなく俺より上手く赤い雷を使ってくるだろう。だからなるべく戦闘は避けて半日の時間が経過するまで逃げ回るのが1番確実な倒し方なのだろう…が、俺はそんなくだらない戦い方は嫌だ。
俺は15年の特訓で本能に従う事を覚えた…だから分かる、俺の中の何かが叫んでいるのだ。
「本気で戦え」
「命を削る戦いをしろ」
「逃げる為の戦いなんて認められない」
とね。
(ま、多分シモンが言っていた3つ目の魂…人体総変異で俺の体内に入っている緋雷神龍の魂がそう叫んでいるんだろうな…)
そう思いながらも装備を付け終わると父さんが俺に何かを差し出してくる。
「渉、私にはコレくらいしかできない。だからコレを使ってくれ」
それは10本の花散が紐でひとまとめにされた束だった。確かにコレを受け取れば俺は十二本の花散を持った状態になる、そうなれば生存できる可能性も少なからず上がるはずだ。
「ありがとう、父さん」
俺はお礼を言って花散を受け取り、ポーチに入れる。
その後父さん達が2人とももち丸に近づくともち丸は乗りやすいようにしゃがみ、父さん達が背中に乗るとゆっくりと立ち上がる。
「もち丸、父さん達を頼むぞ!」
『ダンナ…ご武運を!』
そんなもち丸に俺がそう言うと、もち丸はそう叫んでから来た道を戻って行った。
『…以外、私はてっきり時間一杯まで一緒にいて別れると思ってた』
そんな様子を正座しながら見ていた緋雷神龍がそう言って俺を見ている。俺はゆっくりとそちらの方にに振り向くと笑顔で答える。
「いや、コレでいい。今からなら下の階層に余裕を持ってつける、戦っている最中に降りている途中の父さん達を気にする必要がなくなれば狩理に集中できるからな。待っていてくれてありがとう」
『構わない、私は産まれた時から1人だった。親は卵から産まれた時点で傷だらけで死んでたし、兄弟になるはずだった卵はその時には私以外全部割られて殻だけになってた。
だから家族って奴を私は知らない、今までならそんな事すら気にならずに生きてきたけれど…今日、私は死ぬ。だから死ぬ前に少しでもそういった物を見ておきたかったって興味がわいたのもある。
こちらこそいいものを見せてくれてありがとう、お陰で家族のあり方の一つを学べた』
そう俺と話すとゆっくり立ち上がる緋雷神龍。俺もその動きに合わせて装備した武器を構える。
『…うん、渉は強いね。『ナイフと苦無』を構えた時は一瞬無謀だと頭で考えてしまったけれど…かなり自然体で構えている。それが貴方の戦闘スタイルなんだね?』
「おう、武器が貧相だって笑ってもいいぞ?」
『それこそ阿保だね。使い慣れた武器で戦うのは基本中の基本、それを否定するのは馬鹿のやることだから』
右手に光を反射しない黒塗りのサバイバルナイフ、左手にも同じ使用の苦無を構える俺を見て緋雷神龍は嬉しそうにそう言ってくる。確かに見た目は貧相な装備だがコレが15年の修行でたどり着いた俺の戦い方だ。
だからこの戦いはコレで行く。
「…なあ、父さん達がいなくなって大体5分だ。そろそろ始めよう」
『うん、いいよ。合図はそちらでどうぞ』
俺達はそう会話した後に俺が適当に落ちていた石を拾い上げ、軽く上に投げる。
「…さあ、」
『…』
その石はそのまま重力に従い下に落ちていき…
「狩りの時間だ!」
『!!』
地面に落ちたと同時に俺と緋雷神龍は動き、距離を詰める。
こうして、俺の人生の中でも1・2を争う狩りが幕を開けたのだった。
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