第288話

「緋雷神龍…生きていたのか。後ご飯は食べてきた。もう必要ない」


『…あ、そうか。人間と私だと食事の種類と概念は違うんだった。

ごめん、代わりに片割れと一緒に来た2人と一匹、せっかくだからアレあげる。美味しさはワタシが保証する』


俺は生きていた事に驚きながらも返事を返すと、緋雷神龍は何かを思い出したようにそう言って今度は父さん達に話かける。だが意思疎通どころか日本語を流暢に喋るモンスターが現れた、そんなトンデモ展開に俺以外は全員固まっている。

そんな中また緋雷神龍は俺の方を向き、力の入った眼差しを俺に向ける。


『取り敢えず、食事をしないならそれでいい。だけど私が長年に渡り望んでいた事を君に話すね』


「…望んでいた事だと?」


眼差しの向けられつつも、俺が話を続けようとした…が、


『うん、まずね…私の片割れ以外の全員、おめでとう。君たちはダンジョンを制覇した、今から長くて半日後には私が寿命死するから安心して外に出られるよ。勿論私が君達を攻撃しない事はここで誓う、私の誇りにかけてね』


緋雷神龍はいきなりとんでもない事を言い出した。


「「「!?」」」


「…は?」


その言葉に、父さん達は声には出さないが驚愕しているし俺だってビックリして思わず声を出してしまった。

とどのつまり、緋雷神龍は自分は後半日で死ぬけど父さん達は攻撃しない。じっと待っていればダンジョンから出れるよと言っているのだ…だがその中に私の片割れ、つまり俺は間違いなく入っていないだろう。


「…質問をいいか?」


『いいよ、私の片割れ』


俺はその事が気になり、緋雷神龍に話しかけると優しい眼差しで俺の方を見てくる。


「その『私の片割れ』って何だ?あとさっきの言い方だと俺は含まれていないように聞こえたんだが?」


『うん、君は含まれていないよ。だって君は私と戦わなきゃダメなんだから』


そう言って緋雷神龍は空の月を見上げる。


『私は生まれた時から強かった。何度か死にかける事はあれど間違いなく全ての戦いに勝ち、食らった。誰も勝てない、そんな最強の状態が何百年、つまり私の寿命が後1年くらいになるまで続いたんだ。

そんな時、あの化け猫が取引を持ちかけてきた』


そう話すと今度は黒焦げの猫のようなモンスターを見る。


『「寿命を肉体から外し、管理する事で使い魔として契約する。そうすれば老いた体を若返らせるだけではなく寿命では死ななくなる。」

あの化け猫はそう私に契約を持ちかけてきた、でも私はその場でアイツを殺そうとした。しかし途中でふとある考えが生まれたの。

〈私、このまま寿命で死ぬなんて死に方で満足なのか?〉ってね』


彼女(?)そう言うとまた月を見上げる。


『だから私は賭けに出た。私の遺伝子の塊である右腕をその場で切り落とし、そこにいる化け猫に渡してこう言ったの。「私の右腕をできるだけ遠くへ捨てて帰ってこい。そうしたら契約してやる」ってね。

奴はそう言うと上機嫌でその腕を仲間達と一緒に持って何処に行き、そして寿命が残り半日になった時に戻ってきた。だから契約した、『私の遺伝子をもつ生命体と戦う』為に』


「私の…遺伝子…だと」


『武器に加工して装備しているだけでもよし、右腕を食べて遺伝子を取り込んだ生命体の子孫でもいい。

私は私の片割れと言ってもいい強者である私の力を持つ生命体と最後に戦って死にたい。それに私が勝ってもいい、負けてもいい…ただ、。だから私はざっくり500年も待っていた、そして今日貴方が来たの』


そう言うと、また緋雷神龍は俺を見る。


『貴方がここに来た瞬間、私は理解した。貴方の中に私と同じの遺伝子と魂を感じた、つまり貴方は何かしらの方法で私の何かを体内に宿した存在だと理解したの。だから準備運動と食事、そして契約時に肉体から取り出された残りの寿命を取り戻すべく塔の中のモンスターを皆殺しにしたの』


そう言うと、俺の方を睨む。


『私の片割れ、名前を聞いてもいい?』


「渉、佐藤 渉」


『渉…うん、覚えた。

なら渉は私とここで一対一で戦わなければならない。それが私の最後の望みでありこの時のために長い時を辰の階で座して待っていた。

それにコレは私の右腕を拾い、何かしらに使って体内に私を宿した渉の定めでもある。

…でも、渉にも覚悟を決めたりする時間がいるか…なら30分だけ待ってあげる。その間に覚悟を決めて欲しい、もし決めていなくても…私は渉を襲うけれどね』


緋雷神龍はそう言い終わると階層の中央に行き、そこで正座をしてこちらをジッと見ている状態になった。


「…」


正直に言えば予想外の展開で言葉が出ないのか本音だが…なんか…こう…自分の内側から懐かしい気持ちと同時に闘争心も湧いて出てきているのも感じていた。

正直にいえば覚悟を決めるのに1時間は欲しかった。


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