第287話
「…渉、何故戦うはずのモンスターが全て倒されているんだ?やはり他に誰かいるのか?」
「正直分からない。だが間違いなく俺達が深層にいた時には俺達以外居なかった…それにもう5分経つのに一切モンスター側の攻撃は無いし、何より辰の階と酉の階にモンスターの死体が無かったのが気になる。特に辰の階、あそこは争った形跡すら無かった…連戦をしないのはありがたいが、本当に異常事態だ」
塔の最上階に続く坂を登りつつ俺は父さんとそう会話していた。
現在、俺達は一切戦闘もなくここまで来たのは運がいい。だが同時に俺達以外の誰かが戦う筈だったモンスター達を倒したのも事実、正に異常事態だ。
「取り敢えず父さん達はガスマスクを外していいと思…
『何故裏切ったニャー!?!?』
…!?」
そんな事を考えながら父さん達にもうガスマスクを外す様に言おうとするが上の階層か日本語でそんな叫び声が聞こえてきたので俺は坂道の途中だが、一旦エイセンを止めた。
『別に、目的の存在が現れた時点でもう契約する必要は無くなった。だから貴方を殺して『寿命』を取り返す』
『余命が半日だった貴様を若返らせた挙句に寿命を引き剥がし、消費させないようにして延命させてた恩を仇で返す気ニャか!?』
『あの時に契約したのはお互いの利害関係が一致しただけ。目的の存在がこの塔に現れた時点で私の目的が果たされ、契約破棄される可能性に気づかなかった貴方が悪い。それと私みたいな最強の存在と契約できた時点で辰の階以降の階層は登れないのは明白。そんな状態の中安全地帯からふんぞり返って見ているだけの貴方は前々から気に入らなかった。だから殺す、私は弱い癖に威張る奴は嫌いだから』
『…ふっふざけるニャー!!!』
上の階層から子供のような声でニャとか言っている声と優しい女性の声での会話が塔内全体に響きわたる。…つまり、この階層に先に誰かが入ってモンスターを倒していたわけじゃなくて、
「干支を模した12体のモンスターの中の一体が裏切って他のモンスターを皆殺しにしていたのか!?」
干支を模したモンスターのうちのどれか1体、つまり死体がなかった辰と酉のモンスターのどちらかが裏切って何故かモンスター達を皆殺しにしていたという事だ。
俺その事実に思わず叫んでしまう。
『…!?、もうすぐそこまで来ている。なら急いで排除しよう。邪魔されたくないし、何より復活なんてされたら折角の目的が有耶無耶になっちゃう』
『んニャ?…この感じ、もしかしてお前の目的ってまニャか!?』
『今更気づいてももう遅い。じゃあね、自分を強者だと勘違いした哀れな化け猫さん。面倒臭いからもう生き返ったり生まれ変わらなくてもいいよ』
『ちょっま!?』
そして、上にいる存在達が何かに気づいたのか更に怪しい話をしました…次の瞬間、
ゴロゴロゴロ…
ズドドドドドドドッ!
「キャァ!?」
「く、渡辺さん!」
「うわぁお…えぐい威力の『雷』ですよ…」
上の階に何かが大量に落ちる音が響き、建物が少し揺れる。
渡辺さんは驚き、悲鳴を上げたが父さんが抱き抱えて守りに入った。もち丸は上をついてそう呟いていて、俺も内心その言葉に賛成していた。間違いなく何かが落ちる音の前に雷の音が響いていた…つまり上にいる存在が何かに対して雷を落としたのは間違いない。
俺はそんな状況なのに何処か懐かしい感覚を感じつつエイセンのハンドルを捻り、坂をまた登り始める。
「父さん達、気を引き締めろ。もうすぐ次の階層に着くぞ!」
そう言ってすぐに次の階層、つまり塔の頂上に到着した。
そこは綺麗な満月が頂上全体を明るく照らし、頂上の風景が鮮明に見えた。
頂点には『猫』の文字が床に書かれていて、他の階層とは違い金や銀の装飾がされた小さい神社や酒樽らしき物が階の端に置かれている。そして中央には烏帽子をかぶり、神主のような服を着ている猫のようなモンスターが黒焦げになり泡をふきながら倒れている。更に鮮やかな色の羽だが大量に抜け落ちているダチョウみたいなモンスターの死体、そして最後に後ろ向きでこちらを見ていない『赤い龍』がいた。
『…うん、間に合った。こんな雑魚と雑魚の仲間達のせいで長年待っていた貴方が私と戦う際に疲れて全力を出せないなんて笑えないもの。私も準備運動と腹ごしらえが必要だったし一石二鳥だね』
先程の女性の声がその龍から聞こえたと思ったらその龍はゆっくりとこちらに振り向く。
竜の特徴を言葉にするならまず赤い鱗に甲殻、頭に鹿の角のような物が生え白と黒が逆転した爬虫類のような縦割れの瞳孔の瞳が目立ち、背中に生えている体毛も赤いが毛先が白い、そして右腕が何故か無い。
『ずっと…ずっと待っていたよ、『私の片割れ』。右腕を切り落としてからざっくり500年は経過したかな…でもよくやく会えたね。さあ、そこの鳥を一緒に食べよう?お腹が空いたら力は出ないよ??』
「…緋雷神龍」
俺はこの龍を知っている、間違えたりしない。
俺の最初の人体総変異した存在である緋雷神龍が死んでいるダチョウみたいなモンスターの死体を左手で指差しながら俺に向かってそう言ったのだった。
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