第284話

〜〜 ??? 深層 現実 〜〜



「…クハッ!?」


俺は全身の痛みと喉の渇きに一気に意識が覚醒する。


「くそ…流石に食べ物は持ってない…取り敢えず応急処置だ」


痛む体を無理矢理動かして父さんが作ったカプチーノ味の回復薬αのスキットルを取り出して口に咥え、飲み始める。

俺が作ったαなら骨の痛みまで治るが父さんが作ったαは市販されているヤツと変わらない、だが筋肉の痛みと回復、更に水分補給を同時に解決するなら最適解だ。

だが、生憎食料は持っていない。昔買った携帯食料を一つでも用意すれば良かったと本気で後悔しているが多分ポーチに入れても普段は使わないから荷物にしかならないと強制的に納得するしかなかった。


「…プハァ」


体からいつもの音と同時に痛みと喉の渇きが無くなっていくのを感じつつ、飲み干して空になったスキットルを口から外してから体を起こす。


「…綺麗だと思ったらダメだよな。でもかなり幻想的な光景だ」


寝ていた場所はエイセンの運転席、そしてギアはニュートラルになっている。確か入る時には動かす為にシフトレバーを動かしていた筈だからニュートラルになっているのは確かにおかしいが…まあ、そこは特殊ダンジョンだからと片付ける事にして俺は周りを見る。

今いる場所には大量の彼岸花が咲いていて、苔が生えているがキチンと形が整えられた石畳で区切られている広場。その広場の中心に藤の木があり、その藤の木の下に下の階層にいくポータルがあった。


「あ、そう言えば父さん達は無事かな?」

 

周りを見ていた俺はふとそんな事を思いつき、空きっ腹に悲鳴をあげるお腹を押さえつつ後ろの荷台を見る。


「…スゥ…スゥ…」


「…風香、私は…」


「グヘヘ、大量のずんだ餅の海ですよ…」


「うし、無事だな。色んな意味で危ないが…まあ、よし」


荷台には父さんに抱き枕のように抱きしめられながら一緒に寝ている渡辺さんと父さん、大の字になり仰向けで寝ているもち丸がいた。というか父さんは何してんねん。よく見れば泣いているのか目元が濡れているし渡辺さんを優しく抱きしめて離さないようにしているし、渡辺さんも渡辺さんでメチャクチャいい笑顔で父さんの胸板ら辺に顔を埋めている。


「…」


俺は取り敢えず起こさないようにスマホをポーチから取り出して父さん達の写真を撮る。

正直何故こうしたのかは自分でもわからないがこうしないといけない気がしたから、思わず撮ってしまった。

その後振り返ってポータルの所に向かおうとした俺は、その時にエイセンの中にある残りの燃料を示すメーターが残り3分の1である事を示しているのに気付き、急いでポータルへ向かったのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「焔様から話は聞いていたけど…メチャクチャお腹が減っていたのね。でもあまり詰め込むと消化不良を起こすわよ?」


「すみませんクエンさん。後ハヤシライスおかわり良いですか?」


「はいはい、でもこれで三杯目のおかわりだから、これ以上は止めておいて体を慣らしなさい。後は体を元気をつける漢方薬やドリンクとか用意するからちゃんと飲むのよ?…もち丸もね?」


「「了解」」


俺がポータルに到着してから拠点を展開すると、待ってましたと言わんばかりに沢山の友狐達とクエンさん、ヒッスアミノさんが鳥居の前に集まっていた。その後拠点に入ってからどうしたのかと聞けば、どうやら焔が先に俺達の状態を友狐達に報告してくれていたらしく、夕食と栄養剤やら漢方薬やらを用意しつつ帰ってくるのを待っていてくれたそうだ。

その後、俺はエイセンのエンジンを切ると同時に友狐達に優しく運転席から降ろされた。父さん達も優しく起こされて先に起きた渡辺さんが顔を真っ赤にしていたり、もち丸はクエンさんが直々に踵落としを腹におみまいされて強制的に起こされたりした。

そして現在、俺達は栄養と水分を補充するべく友狐達が作ってくれたご飯をご馳走になっている訳であり俺ともち丸は一緒にクエンさん特性ハヤシライスを食べていた。


「…すると、渉は夢の世界で自分の前世の人に会い15年も修行していたんですか!?」


《ああ、ガッツリ鍛えられてたぜ?何せ修行と称して記憶の中の戦争にぶち込まれていたり全身目玉だらけの巨大蛙と戦わされたりしていたからな》


「…想像しただけで、ウチだとすぐに根を上げるないようですね」


俺達がハヤシライスを食べていると少し離れた場所で超スッポン鍋を一緒に食べていた焔が魂骨炎狐龍の事は伏せつつシモンの事を父さん達に説明してくれる…あ、そう言えば気になっていた事があったんだ。


「なあもち丸。お前15年も夢で何を体験していたか覚えてるか?」


「…んお?…確か何故かコク糖と結婚して20匹位の子供にも恵まれてお祝いに大量のずんだ餅をもらった夢ですよ。あとダンナとも一緒にお昼寝したりとか平和そのものだったですよ?」


「なるほど、基本はそんな感じの平和な夢に閉じ込めて夢とは気づかせないようにして殺す訳ね。捻くれてるわマジで」


もち丸に体験していた夢の内容を聞くと素直に答えてくれる。そして聞いた内容的に俺以外のは夢の世界がどうなっていたのかを知った。

その後、食べた物や漢方薬などの事を考えて小休憩を挟みつつ装備の最終調整や闘技放送で言う内容の確認などをして、俺がダンジョンに落ちてから2日と2時間が経過して俺達は禁層に向かったのだった。

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