第283話

〜 15年1ヶ月 Lesson15 『常に己を超えろ、限界とは成長できる目標であり証だ』 〜



《…うん、予定より1ヶ月遅いけど何とかなったね。おめでとう、免許皆伝だ》


「…今回が何より厳しかった」


俺は全身ボロボロで片膝をつきながらそう言いつつ息を整え、それを見たシモンは笑顔で俺を褒めてくれる。

そして俺達の周りには大量の壊れた武器、そして何十人と死んでいる『俺』。


「最後に『自分のコピーと武器有りで百人組手』をしろとか鬼畜かよ、しかも分身も常に俺と同じ実力で襲ってくるしよ…」


《そうじゃなきゃ自分の限界を超えられない。常に前の自分を超えていく、コレを魂にまで刻み込むレベルで教えるにはこの百人組手が1番だからね》


俺がこの訓練について愚痴るとシモンはその愚痴に満面の笑みで答える。

最後の訓練は闘技場内にて常に俺と実力が同じ俺の分身100体による百人組手、常に俺と実力が一緒だからマジで強制的に100回は限界を超えさせられた、本当に筋肉が悲鳴をあげているのがはっきりと分かる。

そんな時、俺達2人の前に巨大な影が降ってくる。


『Ga!!』


「お、久しぶ…って押し倒して舐めるな!唾液が目に入るって!?」


『Gruuuu♪』


《はは、良かったな渉。この龍は渉が予想以上に強くなってくれたから大興奮しているようだな。尻尾をはち切れんばかりに振ってやがる。シモンも15年も渉に修行をつけてくれてありがとな》


着地してから最初に姿を見せたのは魂骨炎狐龍だった。

だが、魂骨炎狐龍は俺を見るや否や優しく俺を鼻で押し倒すとそのまま俺の顔やらを自分の舌で何度も撫でてくる。更にはメチャクチャ尻尾を振っているのかめっちゃ風を切る音がうるさい。

そして、感じに舐められ続けていると今度は焔の声が聞こえてきた。


《いやいや、元の戦闘センスが高かったから何とか15年で終わったんですよ。…正直Lesson2とLesson14で一年以上使ったから15年でできるか分からなかったけれど、Lesson14の途中で今までの経験でを導き出して、そこから僅か半年で敵兵の大半を倒して国王まで討ち取ったからね。最初はまさか私と同じくしたから焦ったけれど…まあ、それで完成したから今回はコレでいいですよ》


《なるほど、だがお前さんの指導で渉は間違いなく強くなった。それは変わらない、だから誇ってもいいんだぜ?》


そして、焔とシモンが何か話しているが今はそれを完全に聞き取れない。マジでこの龍は見た目が狐と龍と骨を足した姿なのにやっている行動のせいで甘えん坊の大型犬にしか見えない。

何とか喉の下やら口の先端とか撫でたり軽く叩いたりして止めるように言っているのに寧ろ激しくスキンシップをしてくる、正直この行為を俺が止められる気がしない。


《…と言うか、アレは止めなくていいのかな?かなり顔を中心に舐め回しているようだけれど??》


《おっとそろそろヤバいな…おーい、すぐに止めて渉から離れないとせっかく持ってきたお前の好きなにんじんしりしり食わせてやらんぞ?》


『Ga!?!?』


だがそんな奴でも焔の一言で急いで舐めるのを止めて、俺から離れて焔の近くまで走っていく。


『Hahaha…』


《全く、食いしん坊が…ほらよ》


『Gau!』


何とか涎まみれの顔を拭き、焔達の方を見るとさっきまで俺を舐めていた魂骨炎狐龍が更に盛りつけられた人参料理を上機嫌で食べているのが目に入る。

というか食い気の方が勝るのは分かるが何故人参?龍だから肉の方が好きじゃ無いのか?


《あ、忘れてた。渉、ちょっとこっちに来て》


そんな事を考えていると不意にシモンが俺を呼んできた。

俺はあらかた顔を拭いてから立ち上がり、シモンの所に行くと、シモンはそのまま俺を抱きしめた。


「ちょ!?」


流石に俺は驚いていると、シモンはそのままの体勢で話を続けた。


《いいかい、よく聞くんだ。君は確かに強くなった…だが、夢での特訓や怪我などが現実の肉体にも還元される関係上現実の肉体はおそらく現在進行形で筋トレと訓練による負荷と超回復、戦闘による傷の再生などで君の体は栄養不足と水分不足になっているはずだ。

だから目を覚ましたら激痛とかで苦しむはず…だから直ぐに回復薬を使って回復しつつ何か食べるんだ。大丈夫、私の修行に15年も耐えたんだ。あれに比べたらまだ優しい方だと思うよ》


そう話すと更に俺の頭を撫で始める。


《可愛い我が愛弟子、最後になるから言うが君の魂には現在私とあのニンジン大好き龍の他にもう一つ混ざっている。しかしその魂は常に君の事を見るだけで絶対干渉はしてこない、この魂が具現化する特別な夢にさえ一切干渉せず君の中でジッとしている。まるで何かを待っているようにね…》


そう俺は言われるが、修行の疲れか緊張の糸が切れたのか分からないが15年ぶり眠くなってくる。


《やばい、渉が眠くなってきたから夢の世界が不安定になってきた!

渉、最後に一言だけ言うぞ。今回はコレでお別れだが今生の別れって訳じゃない。私は君の中にいる、そしてコレからは見ているだけではなく渉が精神的に危険な時は私が支える。もちろん人じ…いや、魂骨炎狐龍もだ!》


『Ga!!』


《だから忘れるな。君は1人じゃない事を!》


意識がどんどん暗転していく中、必死にそう叫ぶシモンと口の周りを汚しているが満面の笑顔の魂骨炎狐龍の吠える声が響いたのだけは聞こえた。

その後、俺は直ぐに意識が切れ眠りについた。



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