第282話

〜 半年経過 Lesson1 『己を信じ、恐怖を我が物にしろ。さすれば見える』 〜



「ハァ…ハァ…」


俺はボロボロの状態で地面に大の字になり仰向けで倒れている。


《うん、まさか最初の半年でライラック家の『視界の捉え方の極意』を使えるようになったね。…そうだ。『相手を見る時は点で見るな、面で見ろ。全体のくまなく見て違和感に反応しろ』と『視界のみ信じるな。見えない所は髪で風を感じ、肌で場の気配を読み、嗅覚で生き物の存在を嗅ぎ取り、耳で行動する際の音を集めて、最後は恐れずに自身の直感を信じろ。さすれば今いる場所の全体が理解できる』…それがライラック家の『視界の捉え方の極意』の内容さ。でも君は今だと30分しか継続してそれができない。ならLessonの順番を変えようかな?》


そんな俺を見下ろすようにして胸に二本線の切り傷を受けたシモンが頭をかきながらそう言って俺を見ていた。



〜 一年半経過 Lesson2 『殺した命を受け止め、全て背負い生きていけ。それが殺した者の責務だ』 〜



「ハハ…マジで辛かったわ。本当半年も精神が不安定だったのによくも戦場に放り込んでくれたなこのアホ師匠が!」


《戦場にて生き残る為の体力と気力、同じ人間を殺めた際の耐性をつける為の修行だったからね。お陰で視界の極意がオンオフを意識的にできるようになったし、無駄な力が抜けて持続時間が10時間位になったから良かったよね…だから今すぐにタワーブリッジをかけるのをやめなさい!マジで背骨がイダダダダダダ!?》




〜 5年7ヶ月経過 Lesson6 『無駄な動きは死を生む。感じ、見極めろ』〜




俺は今、アフリカゾウサイズのカエルみたいなモンスターと戦っている。だが、コイツは体の大きさ以外も普通じゃない…


ギョロ


ギョロギョロ


ギョロギョロギョロギョロ…


「気持ち悪!何で全身余す事なく目玉が張り付いているんだ!?」


体全体に目玉がついている蛙…いや、もはや蛙の姿に集まっている目玉の集合体みたいなモンスターだったからだ。


《『百々目鬼蛙』、全身の目の中には複眼が混じっているから視野の広さだけじゃなく動体視力も凄まじいし反応速度も異常…俺が最初に制覇したダンジョンの禁層にいたモンスターだ。だから特訓に使える、また死にそうになったら夢を書き換えて助けるから頑張って理解するんだ。『避けの極意』と『最適解のカウンター』をね》


シモンはそう簡単にそう言うが、正直体を少し動かしただけで反応されてしまうからどうすればいいか分からない。俺はそう思いながらもモンスターと戦うのであった。




〜 10年2ヶ月経過 Lesson10 『知恵無き者は些細な変化を見逃す、力のみでは勝てぬと知れ』 〜




俺は今、何故か学校の教室みたいな所で授業を受けている。


《はい、つまりレイの頭を撫でる時はまず頬を優しく…》


「…いや、学びが力になるのは分かるが何でレイちゃんの接し方を教えてるんだよ!?」


そして現在、何故か俺はレイちゃんの接し方についてシモンから学んでいた。


《…私は死んだからもう結婚はできない。だが生まれ変わりである君なら結婚はできるし本人もそれを望んでいる。

だから、私が知っている限りの接し方を君に伝授しているんだ…非常二妬マシイガナ…!》


「怖!?いきなりハイライトがない目で真顔になるな!!」


《まあいい、取り敢えず解説を続けるぞ。それに対してレイが腕や足、腰に自分の尻尾を巻きつけた場合は取り敢えず全力で逃げろ。自分の尻尾を相手に巻きつける行為は獣人にとっての最大の愛情表現、通称『尻尾抱き』だからな。異性に尻尾を巻きつけた場合…そのままアレな意味になる。だから喰われないように気をつけてよ。

後派生で『鼻抱き』とか『頬合わせ』などがあるね》


「…色んな意味で怖いわ」



俺は呆れ顔になりながらも授業は続くのだった。



〜 11年6ヶ月経過 Lesson13 『戦う者なら常に体を鍛えるべし』 〜



「…残り2つまできて筋トレ?」


《うん。最終的には筋トレや鍛錬って大切だからさ、色々経験してから基礎を振り返り必要な筋肉を見極めてそこを重点的に鍛えたり、技や技術を磨いたりするのが重要なのさ…あ、取り敢えず今やっているスクワットを後50回追加ね》


「はいはい」



〜 13年11ヶ月経過 Lesson14 『死屍累々の乱戦こそ最高の学び。死を背負い、技術を見て盗み、感覚を常に研ぎ澄ませ』 〜



《流石にこのLessonは2年かかってもクリアーできないか…まあ、仕方ない。何せ隣国が領土侵犯して始まった獣人同士の戦争を追体験させているんだ…5年も同族が戦い、屍を積み上げたアイルランド獣帝国の歴史上でもかなりエグい戦争だ》


「だったらそんな戦争に突っ込ませるなよ!何で海を超えた隣国に渡り、隣国の国王を打ち取る事がLessonクリアーの条件はキツすぎるわ!まだ海岸線まで敵を押し返していないってのによ!!」


《大丈夫。だってこの戦争は私が単騎で敵陣を乱戦しながら突っ込んで海岸にあった敵の小舟を奪い、隣国に渡って大暴れして隣国の国王を討ち取ったから終戦した戦争だ。同じ事をすればいい》


「…やっぱ師匠はイカれてるわ」


俺は折れたレイピアを捨てて落ちていた敵兵の剣を二本拾いつつ近くにいたシモンとそう話す。

その後、俺は覚悟を決めて敵軍の中に突っ込んでいくのだった。


こうして、俺は次々とシモンの修行を片付けていく。そして修行開始から14年2ヶ月が経過して、とうとう最後のLessonまで進んだのだった。


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