第281話

「ライラック家秘伝の戦闘法…それに15年って…マジ?」


《マジだよ。それに普通に考えて皆が日々成長して出来た溝は15年位特訓しないと埋まらないよ?…まあ、君の『努力』のスキルがあるから最低限必要な年数である15年ですんでいる事実もあるからって理由もある》


シモンはそう言って焔が入れ直してくれたお茶を受け取る。


《人間が絶食し続けられる限界は大体3日、15時間位なら普通に病気になって寝ている時間と変わらない。それに君の現在は都合のいい幸せな夢に囚われているから身の安全は保証されている。

だから15時間、つまり夢で15年修行をしてもそこまで問題はない。寧ろチャンスなのさ》


そう言って受け取ったお茶を飲むシモン。そして焔は俺にもお茶を渡してくれた。


《幸い、渉は回避優先の戦闘スタイルだ。それなら私が師として訓練しつつライラック家流の訓練も織り交ぜて訓練すればいい。更に私のスキルには『暗記』がある、だからこの夢を悪用して記憶の中にある私の戦いの記録…モンスターとの戦闘以外にも国を侵略しにきた人間達や領地への侵略目的での同族同士との『戦争』を追体験させる。非常に死ぬ確率は高いが…もし、コレを乗り越えられたらその時には君はきっと自分だけの戦闘スタイルとライラック家の戦闘術が魂に刻み込まれる筈だ。

だが、これを決めるのは君自身の意思で決めてくれ。私には決めかねられないからね》


そう言ってシモンは湯呑みをちゃぶ台に置く。

そんな中俺はお茶が入った湯呑みを持ち、考える。

確かにこの話は魅力的だ。俺の足りない物を全て修正できるし、何より父さん達の安全が確保されているし夢の世界でも現実の肉体が成長できる仕様でもあるから間違いなく強くなれる。

…だが、それ良いのだろうか?今もダンジョンの外ではスタンピードが起きていて必死に仲間達が戦っている。そんな中で15時間も修行の為に使ってしまったら…正直何が起きるか分からない。

だがらあまり時間はかけられない。


(いや、だったら俺が頑張って15時間より早く修行を終わらせる様に頑張ればいいか。それに皆だってそんなに弱くない。きっと頑張ってくれる筈だ)


だが、俺はふと今までの事を思い出した。叶や桜、一二三やミリアさんは最悪人体総変異すれば何とかなるし、夏美だって戦闘方面は強い分類だ。それは装備を作った俺が1番よくわかっている事だ…なら、最悪15時間かかっても生きている可能性の方が高い。

他人任せだが今この提案を拒否すれば俺は一生皆のお荷物になってしまう…それだけは嫌だ。


「…いや、寧ろこっちからお願いしたい。シモン…いや、師匠」


《ふふ、君ならそう言ってくれると信じていたよ》


そう言ってシモンはちゃぶ台をひっくり返さないように立ち上がる。


《なら教えよう。私の二刀流、そしてライラック家秘伝の戦術…『避けの極意』と『視界の捉え方の極意』をね!》


そう言ってシモンはそう叫ぶとシモンの手には取り上げた筈の二本のレイピアが鞘がついている状態で握られている。俺はそれを見て急いで俺の側に置いていたレイピアを見たがそこにもキチンと二本ある。


《言ったでしょ?ココは夢の世界だ。慣れれば自分が心から望む物を複製して呼び出せるなんて簡単なんだよ。ついでに…ほい!》


シモンがそう言って今度は地面に足踏みを数回すると、周りの光景が一瞬暗転したと思ったら次の瞬間には青竹が大量に生えた竹林が広がっている光景に変わった。


《焔さん、美味しいお茶ありがとうございました。そこの忠犬ドラゴンと一緒に下がっていてください。後そこの忠犬、お前は手を出すなよ?渉自身が強くなるって決めたんだ…分かっているよな?》


《ほいよ、せっかくだから俺は見学しておくわ。生憎神様だから歳なんて無いようなもんだしな…ほら、お前さんも見える位置まで下がるぞ》


『Gau!』


シモンの言葉に二匹は反応し、焔が湯呑みなどを何処かにしまってからちゃぶ台をもち魂骨炎狐龍がちゃぶ台を持った焔を優しく咥えて何処に走り去っていった。

そして、この場にはシモンから預かったレイピア二本が隣にあり座っている俺と立ち上がってから複製したレイピアを腰に改めて装備するシモンだけになった。


《んじゃ、早速だけどLesson1を始めるね。Lesson1は『己を信じ、恐怖を我が物にしろ。さすれば見える』だ。

故に私は今から半年間君を殺すつもりで奇襲を仕掛ける。しかも時間とタイミングは完全にランダムでだ…だから死ぬ気で生き残れ、そして己の身をもって知るんだ、Lesson1の意味をね…あ、夢の世界である事を理解した君なら空腹や喉の渇き、眠気とか意識すればなくなるけれど疲労や傷なんかは普通に時間をかけないと治らないから気をつける事》


「…はい?」


《因みにLesson1は半年後に何かしらを掴んでないとまた半年追加で継続して何かしらを掴むまで永遠にするよ。lessonは全部で15個あるからね、死ぬ気で一年に一個終わらせないと下手したら15年では終わらないからそこは気をつけてね?

んじゃ、スタート》


「ちょっま!?」


色々と衝撃な事を言ったので俺は止めに入ろうとしたが、それも虚しくシモンは竹林の中を素早く移動して隠れてしまう。


「…えぇ…」


俺は未だその場で座りながら現状把握が困難になってしまっていた。

こうして、俺はシモン師匠によるリアルで生死どころか存在すら物理的に消し飛びそうになる修行がスタートした。

因みにLesson1は何とか半年で終了したがLesson2が1年半かかってようやくクリアーした事をここに報告しておく。いきなりLesson2で人間との戦争に突っ込ませるなよあの師匠。お陰で初めて人間を殺す感覚を味わって半年はまともな精神状態じゃなかったんだぞ…それでも問答無用で戦場にレイピア二本装備で送り込む辺りアイツはその点の考えがヤバいのがわかった。




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