第280話
「決定的な…弱点だと!?」
俺は思わずちゃぶ台に両腕をついてシモンに前のめりで詰め寄る。今までそんな事言われた事なんてなかったし、何より俺だってようやく『努力』のスキルを手に入れたから今まで重量や反動などの問題があり使えなかった武器を使えるようになって更に攻撃手段が増えた。
だからこそ俺には分からない、何が決定的な弱点なの…
《今、『努力』のスキルのお陰で攻撃手段が増えたって思ったね?…そこだよ、君の弱点は》
…どうやらシモンに考えを読まれたらしい。シモンは前のめりになった俺の両肩を押して元の位置に戻すと近くにあった適当な大きさの石を一つ拾う。
《フン》
そして、それを握りつぶすと粉々になり、小さな破片になる。
《確かに、君の前に居た世界にあった狩りを主体としたゲーム…狩ゲーは凄い。
耐久力重視の『Monster Hand Live』に火力重視の『people's redemption 〜罪を狩る者達〜』、バランス重視の『テラフォーマー 《美しくも残酷なこの惑星で》』にバフ料理や布系装備重視の『Gourmet・Hunter・World』…そして、和風装備と絡繰装備重視の『妖滅伝』。
全部君の前の世界から全てのゲームを一緒に見ていた私から見ても間違いなく強力な装備や武器が目白押し、君の夢であるこの世界に狩りゲーを生み出す為に様々な武器や装備を身に纏い戦うのも理解できる》
そう言ってシモンは石を握って砕いたままの腕を俺の前に突き出した。
《…だからこそ、明確な弱点が生まれてしまったんだ。
『戦闘スタイルに決まりが無いからどんな武器でも最終的には決定打に欠ける』、そして『無意識に道具に頼り過ぎている』…って二つの弱点がね》
そして俺の前で手を開き、目の前で砕いた石の破片を俺の前のちゃぶ台に落とした。
「…は?」
流石に俺は言われた事が理解できなかった。まさかの答えで返す言葉が見つからない中シモンが話を続ける。
《渉、君は確かに他の人より強い…だけど、刀で一刀両断する事を主軸に戦闘スタイルを組んでいる叶君には同じ刀では勝てない。それに龍人化を前提に独自の格闘スタイルを形成した一二三ちゃんに同じ土俵の格闘戦では君は勝てないし、なんなら槍と鞭を変則で使えるように練習した桜ちゃんや義足とクロスボウでの戦闘スタイルを身につけた夏美ちゃんとか投擲物と仕込み刀を扱うミリアちゃんにも君はそれぞれの得意分野では絶対に勝てない、断言するよ…何故だと思う?》
シモンの言葉に、俺は顔を横に振る。
《それは簡単な答えだ。君はそれらを重点的に鍛えていない…つまり、自分に合った戦闘スタイルを知らないまま他の武器や装備を使っていくから全ては並に使えても結局は自分に合った戦闘スタイルが身につかないから、一つの装備を突き詰めて独自の戦闘スタイルを身につけた人には同じものを使っても負けるのさ。君がさっき私に一方的に攻撃したのに意表をついた最後の攻撃以外が当たらなかったようにね。まずコレが一つ目》
そう言ってシモンは俺の前に散らばった破片とちゃぶ台の破片を手で払う。勿論俺と焔にはかからないように優しく払っている。
《そして、それだから君はその決定打になる物を物理的な道具による補助で補っている、人体総変異や閃光玉とかがいい例だね。
別にそれ自体は変じゃ無いし普通に誰でも考える事だ…でもね、君には様々な狩りゲーの装備やアイテム、自身を強化するシステムが沢山ある。だから君は無意識についついそれに頼ってしまうんだ。
だからこそ君がもしその装備や強化する何かが使えなくなってしまった時…君は間違いなく大幅に弱体化する、当然仲間達のお荷物になるね。これが二つ目さ》
そう言ってちゃぶ台の上にあった破片を片付けてからまた俺を真顔で見つめるシモンに俺は顔を下に向けるだけだった。
シモンの言った事は…正直にいえば最初からわかっていた事だ。俺自身は昔は『努力』のスキルとか無かったからとても弱くて、道具に頼る他なくて……スキルを手に入れた今でもそれは変わらない。今も最終的には道具に、特に人体総変異に頼ってしまう。
それに仲間達との武装の熟練度の差も俺が武器の使用データのサンプルを手に入れる関係上様々な武器を使用する事になる、だから一つの武器や独自の戦闘スタイルを突き詰めている仲間達に比べて俺は全体的に並程度の武器の取り扱いしかできない。とどのつまり練度の高い彼らには俺は絶対に勝てない、そんな事は分かっていた。だからその差を道具で補い、何とか仲間達について行っていた…しかし、今回のシモンとの闘いでその道具が使えなかった。故にあの奇策以外は通用しなかったし、最後は魂骨炎狐龍に頼む事になった。
正直に言うと俺はまだ弱い、自分にあった戦い方がわからないからだ。
《…んで、シモンさんよ。渉に弱点を教えてそれを補う方法があるってのはどういったもんなんだ?今あげた弱点は1日やそこらじゃ治らないもんだぜ??》
そんな事を考えていると、焔がシモンにそう聞き始める。確かにこの問題は一日で解決は絶対にできない。そんな方法があればとっくにやっているからだ。
《ああ、大丈夫ですよ。丁度いい物がありますので》
だが、焔はまるで解決策があるように言って俺を見る。
《渉、今言った弱点を解決する為に一つ提案があるんだが…言ってもいい?》
「…いいよ、どうぞ」
俺を見ながらそう言うシモンの目は本気の目だ。決して俺を騙そうとしている目では無いのが俺には分かったのでその提案を話すように返事を返した。
《うん、渉…
君の現実での15時間、つまり夢の世界での『15年間』の時間を私にくれ。そしてその期間は私が君の師として24時間365日全てを使い私の剣術とライラック家秘伝の戦闘術を君に伝授するのはどうだろうか?》
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