第279話

《まず、私の死んだ後…つまり生まれ変わった時の話をしよう》


シモンはそう言ってお茶を飲んでから話を始めた。

シモンは確かに死んだ。今俺の後ろでお座りして背後を陣取っている魂骨炎狐龍に背後から攻撃されてハリネズミにされた後、両腕を食いちぎられて間違いなく死んだ。

だか、彼は死んでもなお魂の状態で生きていた…と言うかレイちゃんのErrorスキルの力なのか意識がありつつ生まれ変わった。それが前世の俺であり、その時から意識はハッキリしていた。

だが、意識がハッキリしているだけで別に俺と会話したり体を自分の意思で動かしたりはできなかった。更には生まれ変わった世界にはダンジョンは無く、スキルやジョブもない世界。レイちゃんからキチンとErrorスキルの説明をしてもらったとはいえレイちゃんと巡り会う可能性は低いと感じたシモンはそのまま俺と一緒に35年間も生活していた。

そんな時、ある出来事が起きた。


《渉がこの世界に来る一週間前から誰かに見られている気配を感じたんだ。勿論魂の状態だった私は何が原因か探したのだが見つからず、そして一週間後のあの日…あんな事が起きたんだ》


シモンはそう言って暗い顔をする。

シモン曰く俺がこの世界に来た一週間から何処からか視線を感じたらしい。だがは魂だけの状態であるシモンを見る存在が誰なのかはシモンも探したが分からなかった。そしてその一週間後、事件は起きた。

何と俺とシモンが寝ている隙に誰かがシモンの首に打ち込まれたレイちゃんのErrorスキルである鎖を引っ張り、無理矢理俺からシモンの魂を引っこ抜いたのだ。

その時にシモンも抵抗はしたのだが凄まじい力に抵抗できず、そのまま5歳の頃の今の体に入れられたらしい。


《正直、入れられた瞬間に体と魂が繋がる感覚が始まった。だからすぐに今の君の体と私の魂が繋がって私は復活する…はずだった。だが、それをレイの鎖が邪魔したんだ》


「…何があったんだ?」


《…生まれ変わった君の魂にも私がレイが深く打ち込んだ鎖が繋がっていた。それが私の魂が抜き取られた際に鎖を引っ張られた事で私の後に生まれ変わった君の魂も肉体から抜き取ってしまったんだ》


シモンの言葉に俺は真顔になる。

俺の魂はシモンの生まれ変わり、シモンの魂が別にあったとはいえ俺の魂にもレイちゃんのErrorスキルの鎖が深く打ち込まれていた。だから鎖が引っ張られてシモンの魂が俺から抜けたのはいいが、その後にその鎖が俺にも打ち込まれていた為に俺も遅れて魂が肉体から抜き取られ、シモンの魂が定着途中の肉体に入ったらしい。

その後は生まれ変わりである俺を守る為にシモンが何とか自分自身ではなく俺の魂が今入っている肉体に完全に繋がるように俺の魂と一体化、完全に俺の魂と肉体が定着してからまた離れて今日まで俺の事を見守っていたらしい。


《だけど、正直驚いたよ。まさか君が私を殺した宿敵であるそのモンスターを倒しただけじゃなく人体総変異で魂を私と同じ状態にして定着させたんだからね。お陰で最初はお互い死なないけどガチの殺し合いをしたもんだ。ハハハハハ…》


『Gau』


「…マジかよ、人体総変異をするとその元となったモンスターの魂を肉体に入れて定着させるのか…」


シモンと魂骨炎狐龍のやりとりを見て俺は頭を抱える。確かに人体総変異は肉体を変異して強くなるから魂が自分に宿る可能性はなくもない。

だが、実際にそうなるとわかってしまうと頭を抱えるしか無い。普通に大問題だ。


《んで、実はさっきまで君と戦っていたのには理由があってね。その為にも君と一回戦い、自覚して欲しかったんだけれど手段が無かったんだよね。

でもこの階層が『魂を夢に閉じ込めて都合のいい夢で精神を寿命死で殺す』のと『夢の世界での一年は外の1時間、夢の中に閉じ込められいる間は年齢や肉体の老化は無いが夢の中での経験や傷などは反映される』仕様を逆手にとって僕が記憶している風景を投影して君と戦おうとしたんだけど…そこの忠犬ドラゴンに見つかってね、渉への敵対行動と判断されてまた襲われたのさ。お陰で顔を布で巻いて隠すお粗末な変装に加え渉とそこの忠犬ドラゴンとの2体1の構図になったんだ》


「…ちょい待ち、今とんでもない事言わなかった!?」


その後に何故俺と戦っていたのかを話し出したのだが聞き捨てならない事を言ったので急いで俺は聞き直す。


《…あ、この深層の仕様をなぜ知っているかだね。この深層に入った時点で渉の魂と一緒に私達も夢に入ったんだけどね…私、この手の階層の仕様に遭遇するのは3回目なんだ。だから対処法も知っていて、逆に今いるダンジョンの情報が見えるようにするのが自分にとっては都合のいい夢だと心から思う事でダンジョン全体の仕様を知る事ができるんだよね。

まあ、口にするよりみた方が早いね。ほらコレ》


そう言ってシモンはちゃぶ台の天板を人差し指で数回叩くと天板がいきなり煙を出して内側から焼印みたいな形で文字が浮かび上がる。





1.このダンジョンは『死』が基準である。故にダンジョンから帰還する方法を制覇のみに限定。その代わりにモンスターの種類を少なくする。


2.このダンジョンの浅層は『三途の川』、中層は『苦痛のある死』、深層は『安楽死』、禁層は『死と生の境目』を基準に構築されている。


3.深層はモンスターは配置しないが入った瞬間に魂を夢に閉じ込め、1時間が一年になる特殊な夢にて魂は寿命死させ、肉体は植物状態にしてダンジョンの糧にする。


4.この夢は肉体的疲労と老化は精神が死ぬまで無いが夢での出来事は全て現実の肉体に反映される。なお、夢は常に都合がいいように改変され続ける。夢から覚めるには夢の中でコレが夢であると理解した上で寝るか、夢から覚めた人が寝ている人を起こす事で夢から覚める。


5.禁層のボスは『陰陽化け猫』、干支を模した12体モンスターを使役して戦う三毛猫サイズで二足歩行の化け猫。12体を1体ずつ連戦させて疲れさせた後に自分の番になってから12体を復活させ。13体で一気に倒す戦法をとる。



「…エグすぎる、特に最後。なんだよ禁層のモンスターが13体いて連戦して、最後に倒した12体のモンスター全員が復活して総力戦で来るとか普通に殺しにきてんじゃん」


《だね、私もそう思った。だから渉にこうやって実力を見せた上で話しをしに来たのさ》


俺がちゃぶ台の文字を見てそう言うと、シモンはそう言って俺を真顔で見つめてくる。


《渉、君には『決定的な弱点』がある。だから私がその弱点を克服させる方法を教える為にこの場に来たのさ。だから私の話をキチンと聞いて欲しい…このダンジョンを攻略する為に、そして生きてレイ達の元に帰る為にもね》


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