第274話
俺の言葉に、渡辺さんと父さんが口を開けて驚く。
…まあ、とどのつまり俺が言った事は簡単にすると『外部との通信目的でダンジョンの禁層に行こうぜ♪』だからな…無茶苦茶すぎる話だ。
「ダンナ、それかなり危険なんじゃ…」
だからだろう、もち丸が俺の発言に手を上げてそう言ってきた。多分俺ともち丸はいいとして父さんと渡辺さんはモンスターとの戦闘経験が余り無い、だから父さん達の守りながら禁層に挑むのは間違いなく困難極まりないだろう。
「確かに俺が言っている事はメチャクチャだしクリアーするべき事もざっくりあげて3つある。だがこのダンジョンは高確率で帰還用ポータルが無い仕様だと思うからどう足掻いても禁層に進んで攻略しないとこのダンジョンから脱出できない。それに俺の拠点は人が入ったままだと閉じられないし他の場所に拠点を展開するのも無理だ。つまりどの道先に行く以外の選択肢が無いのさ…だったらやるしかない。生きる為に…な」
俺がホワイトボードの文字を消しつつもち丸の言葉に返答する。
ぶっちゃけ今の情報だけでもこのダンジョンは進んで攻略する以外の解決策は残されていない。なら無理をしてでも進むしか無い。例えそれが戦闘経験が余り無い2人を守りつつというとてつもなくヤバい条件だろうがだ。
《…んで、渉はさっき問題が3つあるって言っていたが…そりゃ何だ?》
次に質問したのが焔だ。だから俺は文字を消して真っ白になったホワイトボードに三つの問題を大きく書く。
「まず、問題その1。それは『戦闘経験の無さ』だ。父さんは対人戦はあるがモンスターとの戦闘はさっきのが初めてだ、渡辺さんは一応ギルド職員だからダンジョン内での訓練くらいは受けているかもしれないから多少ましかもしだとは思うが…2人とも圧倒的にモンスターとの戦闘が足りない、だから危機回避能力が鋭くない。
攻撃されて回避する際に数秒レベルで俺ともち丸と比べてズレてしまう。禁層ではそれが命取りになる…コレが一つ目」
俺は説明と同時に言った問題をホワイトボードに書いていく。
「二つ目は『防具の製作』。父さん達の事を考えると…防具は軽量で動きやすさ重視、盾やプロテクターとかで防御力を補う形の方がいいな。俺の作る防具は布から特殊な作りだから服だけでも禁層のモンスターの攻撃に耐えられる…が、衝撃や握り潰される攻撃とかは服が無事でも体が持たない。それがダンジョンに慣れていない父さん達だと間違いなく攻撃を喰らった時点で気絶は避けられないだろう…だから対衝撃性の高い素材を使った盾なりプロテクターなりで武装するしか無い。
幸い1ヶ月前に制覇したダンジョン、その深層の素材がまだあるから防具は作れる。1番簡単ですぐに解決できる問題だから後で父さんと渡辺さんのスリーサイズとかを紙に買いてくれ。ブカブカだったり小さかったりしたら防具の意味は無いからな」
「いや、その口調だと防具は渉がオーダーメイドで作るって言っているように聞こえるんだが…どのくらい日数がかかるんだ?」
俺が次の問題を書いていると、父さんがそんな事を聞いてきた。確かに防具をオーダーメイドで1から作るなら日数はかかるし今回は父さんと渡辺さんの2人分だ。普通のお店に頼むならなら大体3ヶ月〜半年はかかるだろう。現に俺でも叶達の装備を制作した時には1日〜2日はかかった。だが、今は違う。
「大体2人合わせて6時間って所だな。別に複雑な工程はないし、下手な金属の細工や金糸と銀糸で絵を表現する加工もない…だから大体6時間だよ父さん」
「いや、ウチも知ってるけどオーダーメイドの防具って最低3ヶ月はかか…
「渡辺さん。俺の今のジョブは『職人』じゃない、『匠』だ。『匠』は全生産系ジョブの中で最強に近いジョブだ、それに俺のErrorスキルであるこの拠点の生産能力を使えるからこその6時間だ。まあ、スリーサイズとかの情報が無いとサイズから測らないとだめだからそこは協力してくれ」
なるほど、流石ですね…」
俺の発言に反応した渡辺さんだが、今の俺のジョブは全ての生産する物がそれに特化したジョブ並の品質と生産速度になる『匠』、更に元々生産能力が高い俺の拠点の力が合わされば一日がかりだった装備の生産も半日でいける…まあ、凝った装飾などを追加したら流石に18時間くらい見積もらないとダメだし事前に装備する人のデータが必要だがな。
俺はそれを説明すると、渡辺さんが納得してくれたので最後の問題について書きながら話す。
「最後の3つ目の問題は『花散の在庫と材料の不足』だな。爆発する苦無である花散は男女ともに使えてかつ強力な汎用性の高い使い捨ての武器、是非渡辺さんに主武器として使って欲しかったんだけれど…今回のスタンピードで全員に30本ずつ、ミリアさんには追加で100本を渡したからもう在庫が無い。
更には製作しようにも材料の一つであるアルミニウムを防具に回すともうこの拠点内にはアルミニウムの在庫が無くなる。アレが無いと使い捨てなのに重すぎて何本も携帯できないしうまく飛ばない、だから渡辺さんには俺のクロスボウを貸す事になるけど…大丈夫ですかね?」
「因みに残りの花散の在庫は?それと爆発する矢もあると思うんだけど、その在庫も教えて?」
俺が三つ目の問題を説明すると渡辺さんがそう聞いてくる。
「…花散は現在残り12本、爆発する矢は15本入りの専用筒が1本だな。その矢も夏美に殆ど渡したから在庫が無いんだ、ごめん」
「つまり、爆発での攻撃は合計27回が限度…厳しいですね」
俺の言葉にまた俯く渡辺さん。確かに深層と禁層が残っている状態で火薬による爆発での攻撃が32回しかできないのはキツイ。ただでさえこの階層のヤドカリもどきに20本くらい使ってしまった、俺は鈴虫を使って切ったから何とかなったが父さん達はそれでヒビを入れてからじゃ無いと倒せなかった…だからかなり消費してしまった。
そして次の階層ではもっと硬いやつが出てきても不思議じゃ無い。だが、どう足掻いても爆発での攻撃が27回しかできないのは変わらない。ならそれで戦うしかない。
「…武器は父さんには引き続き鎮魂の外骨格を貸して10本の花散も渡す。渡辺さんには俺のクロスボウと煙幕、俺は鈴虫に2本の花散で行く。後必要な奴があれば言ってくれ。用意する」
俺がそう言うと、父さんが手を上げる。
「渉、質問だ…渉自体、ここの禁層を制覇して生還できると自身を持って言えるのか?」
そう言う父さんの顔は真剣だ。だが、俺の返答は一つしかない。
「自信がある無しなんて関係ない、やるしか選択肢が無いんだ。全員が生き残る、佐々木の悪事を告発する、スタンピードを終わらせる為に参戦する、そしてまたいつもの生活に戻る…全部叶える為には進むしかない。
まあ、少しは安心してくれ。目の前にいる男はあんたの自慢の息子で人類初の単独でダンジョンを制覇してその後に2回も制覇した規格外の男だ…今回も絶対に生きて帰って見せるさ、全員ね」
俺は父さんの顔を見てそう言う。全てを解決する為には進むしか無い、なら俺は全力を尽くすだけだ。
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