第275話
〜〜 21時 〜〜
「…いや、普通に考えて明日でも良かったんだよ?」
「いえ、スタンピードが発生しているなら早くしないとウチ達がスタンピードで死亡扱いされる可能性があるからね…」
「ああ、なるべく早くダンジョンを出た方がいいな…ほら渉、回復薬αだ。コレくらいしかできなくてすまんな」
あの会議から約8時間が過ぎた。父さん達は靴はミリタリーブーツだが他は元々着ていたスーツに限りなく近いデザインの装備に仕立てつつ腕や足の関節などにプロテクターを装備していてそれぞれの装備をつけている。
「ありがとう父さん。お陰で助かった…因みに使い心地はどうだった?」
「はっきり言うと羨ましい。最新機器よりも遥かに使いやすくて操作も簡単な設備をイメージするだけで部屋が変形してその設備になる、更には部屋の各所からアームが出てきて製作の手伝い、そしてできた側から検品して品質チェックができるとは…お前が誰よりも早く物を高品質で生産できる理由がわかったよ」
「はは、現役の薬の研究者が太鼓判を押してくれるのはありがたいね。普段使いしてるとそこら辺が分からなくなるから本当に貴重な意見をありがとう」
俺は父さんから回復薬α(麦茶味)と(カプチーノ味)がそれぞれ入ったスキットルを受け取りながらそう話す。
実は父さん達が何かしたそうだったので渡辺さんには夕食を、父さんには俺以外が部屋を使えるかの実験がてら回復薬αの製作を頼んだのだが、どうやら問題なく使えるみたいだ。
「…因みに、あの製薬室にある常に動いている機械は一体何だ?」
「ああ、あれはアンモニア酸化法で混魔硝酸を作っている機械だよ。国から黒色火薬とニトログリセリン以外の火薬の開発を頼まれていから研究用として作ってもいるし、仲間に花散とかの爆発系の使い捨て武器渡す為にも作っているんだよ。だからあの機械だけは常に動かしているんだ…ここだけの話、実は国から言われた火薬研究の最終目標はダンジョンで使えるTNTかヘキソーゲンの開発&量産化の確立なんだって。ヤバくね、知らない名前の火薬があったからネットで調べたら普通に両方とも高火力な軍用の火薬なんだぜ?…まあ、現在は難航してて黒色火薬とニトログリセリン、後採掘とかなら使える混魔製硝安油剤爆薬…つまりダンジョンで使えるアンホ爆薬ができたくらいだな」
「いや、発破に向いている火薬を作れた時点で難航はしていないと思うが…」
俺は父さんの質問に困惑しながら答えると、父さんもまた困惑していた。
アンホ爆薬ってのは車の爆破とかのテロ行為とかによく使われるが元々は採掘などに使われた安価で量産できて爆破時に発生するガスの量に比してその時に発生する熱量が少ないためダイナマイトよりも安全である火薬の一種だ。
だが国が求めているのは銃弾を作る際に使う無煙火薬とプラスチック爆薬、最終的には強力な爆発力があるTNTかヘキソーゲンの開発と量産化の確立だ。意外と怖い事を考えているとは思うがそこは気にしたら色々と危ないと思う。
「あ、渡辺さんも夕飯を作ってくれてありがとうございました。美味しかったですよ、コロッケそば」
「ふふん、ウチは駅そばが大好きだからね。実際に食べてから再現するのにハマってるんだ♪」
更に今回渡辺さんに夕飯をお願いしたらまさかの駅そばの一つ、コロッケそばを作ったのには驚いたが意外と美味かった。その事についてお礼を言うと渡辺さんは胸を張って誇らしげにしている。どうやら完全に復活したと判断して問題なさそうだ。ただ…
「確かに美味しかったですよ。今度作り方を教えてください」
「ふぇ!?…は、はい///」
なんか、父さんを見る渡辺さんの目線に既視感を感じてしまうのは気のせいだろうか…?
「まあ、取り敢えず今から先に行くなら行こう…もち丸、準備はいい?」
「バッチリですよダンナ。刀も研ぎ直したし飯も食べた、あとは頑張るだけですよ」
俺は変な事を考えてしまったが、今はこのダンジョンから出る事が最優先なのでそれは頭の片隅に置いておく事にしてもち丸に最終確認をする。
するともち丸は自慢げに胸を張ってそう答えたので俺はもち丸の頭を優しく撫でてあげた。
その後、俺達三人ともち丸はエイセンに乗り拠点から出て次の階層に行くべくポータルに入る。そして、無事に深層に降りたのだった。
〜〜 ??? 深層 〜〜
…キン…キン…
Gaa…
「…あれ?誰かモンスターと戦っている?」
俺はいつも通り浮遊感がなくなったと思ったら、次に聞こえてきたのは金属音とモンスターの声のようなものだった。俺はいつもの様に目を瞑りながらもその音を疑問に思い、そしてゆっくりと目を開け…
「…うっそーん」
目の前の光景に我が目を疑った。
無理もない何故なら目の前の光景が信じられない光景だったからだ。
「…マジか、ここ『歌舞伎座の禁層』じゃん」
俺ばそう言って周りを見る。忘れもしない、太陽が上り青空が広がっているが今いる場所はあの歌舞伎座の禁層、滅びた都市の中心にある俺があのモンスターと死闘を繰り広げた広場の端にいたのだ。更に言えば…
「…え、装備を着けていない!?それに父さん達もいないだと!?!?」
深層に入るまで着ていた装備を着けていなく、無地の白今Tシャツにジーパンにスニーカーと完全に私服のような服装になっていた。それに周りには父さんどころかもち丸さえいない。明らかに緊急事態だ。
そんな事に焦っていると…
ズドーン!!
「ウォ!?」
広場の中心がいきなり爆発して砂煙が舞う。その後に砂煙から出てきたのは2つの影。
そのうちの一つに俺は見覚えがあった。
「魂骨…炎狐龍…」
『Ga!』
尻尾の背骨を付け、そして頭には謎の頭蓋骨を装備した巨大な狐のようなモンスター…それは間違いなく俺が銀座で狩った魂骨炎狐龍だった。そしてもう一つの影も砂煙が晴れて、その姿がハッキリ見えてくる。
《…》
それは黒色をベースにした軽装を身に纏い、等身が水色の水晶のようになっているレイピアを二刀流で持ち、顔全体が黒い布で隠れて見えなくなってはいるが…間違いなくその姿は人間の戦士であった。
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