第273話
佐々木は退院後、強制的に地元ではあるが賃貸マンションに別居暮らしをさせられた。
理由は今回の一件で家の権力で好き勝手にし過ぎた為、少しでも大人になってほしいのと社会を知って欲しかったという判断だ。
当然佐々木家からの金銭面の支援は無し、佐々木が結婚しようとした女性にも呆れられて別れたらしい。だが、それでも佐々木は自分の実家の名前で色々と好き勝手しまくっていた。
そんな佐々木の振る舞いが実家に届いたのは別居して約1年後、その報告を受けた佐々木の父ちゃんは流石に阿木の近くは佐々木家の影響力が強すぎるからと佐々木に実家からの連絡があるまで阿木に帰宅するのを禁じて遠くで暮らさせた。その際に条件で最低限の生活支援をする事を条件に佐々木はそれを了承。4年前まで阿木には姿を見せなかった。
「友達が酒の席で聞いた話だとどうやら他県で俺様系のホストをやっていて、太客を何人か手に入れて貢がれながら生活していたらしいな」
「いや、ホストって…」
父さんの話を聞いて意外な職についていたのを知って呆れていたが、父さんの話は更に続いた。
佐々木が帰ってくる6年前、佐々木家が主体で地域全体の老人達が不自由なく暮らせる場所を作る為に佐々木家の私有地を一部を無償で提供して格安の老人ホームの建設が始まった。それが『森林の庭園』であるが、しかしその2年後にある事件が起きた。
4年前のとある日に佐々木家の屋敷に泥棒が侵入。偶然トイレに行く為に起きた佐々木の父さんと鉢合わせになり、最終的には乱闘になって犯人は逮捕された…のだが、佐々木の父さんはその際に犯人が手にした花瓶で頭を殴られてしまい、脳死は免れたが植物状態になったそうだ。
「その際に家の実権は息子の翔太に一時的に移り、奴は実家に戻ったのさ。
…だが、奴の性格は治るどころか更に悪化していてな…話を聞くに
『阿木で何不自由なく暮らせるはずだった自分が今日まで苦労したのは全部私のせい。あの時の事は怒りしかないしあいつの血筋はこの世から完全に消し去りたい位に憎い』
と酒の席で度々発言していたらしいな」
「うわぁ…ただのアホですよ」
《だな、俺でも匙を投げるわ》
父さんの言葉を聞いて、普通に嫌な顔をするもち丸と焔。だが、父さんの話はまだ続く。
その後、帰ってきた佐々木は父親のやり残していた老人ホームを完成させて地域の人を受け入れたりはしていたそうだ。
「たが、本人は全く変わっていないどころか寧ろ悪化している。毎日実家の力でやりたい放題の上に父親を入院させずに実家に機材を運んでそこで治療させているらしい。女遊びも酷いらしいが、ホスト時代に自分が子供を作れない体だと診断されたから奴には血の繋がった子供は居ない。あいつの家が今後繁栄していくには自分の父親に子供を作ってもらうしかないのさ…その点でも、奴はかなり荒れていたらしいな。
だから奴は私と渉を恨んでいたのさ…自分の思い通りにならず、地獄の日々を送る羽目になった原因である私。そして自分が子供を作れないのに生まれた優香と憎い私の子供の渉。故に奴は憎い私と渉を殺そうとしたのだろう…とどのつまり奴の自己満足だな。奴ならこんな理由でもやりかねん…だけと、佐々木が言った『金の為』と言うのはよく分からないな…」
「…最低、だからウチ達をここに落としたの?」
父さんの話に渡辺さんが反応した。丁度よかったので俺はそのまま父さん達が何故このダンジンにいるのか、護衛はどうしたのかを聞いた。
何でも昨日の昼に到着した時には父さんと渡辺さんの他に4人の護衛がいた。だが屋敷に入って使用人にカバンを預けた後、とある部屋まで案内されたのだがそこには部屋の中心に座布団が人数分あるだけで佐々木のは居なかった。
仕方がないのでそのまま座布団の上に座り、使用人が持ってきたお茶を飲みつつ佐々木を待っていた。
その後30分くらい待たされた、しかし急に女性の悲鳴が聞こえ護衛の人達が父さん達を守ろうと動いた…のだが、その護衛達は急に倒れた。その瞬間に父さん達の座っていた座布団の下にあった畳が下に落ち、その上にいた父さんと渡辺さんはそのまま落ちてダンジョンに入り今に至るらしい。
《なるほど、つまり屋敷に来た時点でハメられたんだな》
「うん、今考えればスタンピードをある程度同時に発生させる為に書類の数字をいじっていたのであれば納得ができるし、あれだけ危険なやり方で渉くんの親権を訴えたのは雄二さんをハメるじゅんびができたから誘き出す為に強硬手段を使ったのだとと考えると…その翔太って人には間違いなく病院や警察はおろかギルドの職員にも協力者がいる…一体どれだけの権力を持っているんだろう?」
「恐らく岐阜のギルドの中に手駒がいるのは間違い無いのだろうな…アイツなら間違いなくそうする。多分上の役職にも数人くらいはいるだろう」
《おいおい、こりゃ結構えぐい状況だな…》
「ですよ…欲まみれで醜い奴は僕は嫌いですよ、全く…」
全員の雰囲気が一気に暗くなる。コレだけ悪意と権力、そして欲まみれの相手だ…普通に考えて相手が悪い、下手したら何をしでかすか分からないのだ。
「…せめて、ギルドに連絡ができれば応援を呼べるのに…」
「…無理だな。私はスマホを壊してしまったし、何よりココは特殊ダンジョンだ。通信手段が無い…」
2人がそう話す…が、俺はある事に気がついた。
「…闘技放送」
「…え?」
俺の呟きに、渡辺さんが反応する。
「例え特殊ダンジョンでも、禁層に行けば他のダンジョンと同じく闘技放送が日本全国で流される。
そして、放送されてから最大で5分はモンスターは攻撃してこない…一方通行の通信だけど、ギルドの職員で行方不明の渡辺さんが俺や父さんと一緒にいて、それで5分以内に応援を要請すればギルドはその要請に答えてくれるんじゃ無いのかな?」
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