第272話

〜〜 13時 〜〜


「ここは…」


「ああ、『多目的部屋』だ。大人数が収容できるから様々な会議や製作作業、配信用の広い会場になったり治療部屋や宿泊場所にもなる便利な部屋さ」


父さん達と朝食を食べた後に風呂に入って、父さん達は中庭の簡易ベッドで子供の友狐達と俺はリビングのソファーで仮眠をしてから新しく拠点にできた部屋に案内をした。

この部屋は『多目的部屋』。この部屋は普段に入ったらただの広い部屋なのだが、部屋の扉の横に机とメモ帳とボールペンがあり、そのメモ帳に使いたい部屋…例えば今回は会議に使う為に『会議室』と書いたメモ用紙をメモ帳から切り離し、多目的部屋の扉にあるポストみたいな小さい所に入れると会議に必要な机や椅子、プロジェクターにホワイトボード、各種油性マジックにクーラーなどが生える。そして会議をし終わり、中に誰もいない状態で扉を閉めると元のただ広い部屋に戻るという部屋だ。コレが非常に役に立つ、何せ学園祭の際は『水を使う発電所』と書いて使えば扉を開けている間は水で発電する施設が部屋に現れるから湖の水を自動で入れる仕組みを用意すれば半永久的に発電するから電気の心配は無かったし、お試しで『テレビにでてくるニュースのスタジオセット』と書けばまんまニュース番組のスタジオが再現される。ただし配信などはやはり電波を送受信する物を別に用意する必要があるからそこら辺が多分限界なんだろう…まあ、発電できる時点で優秀すぎる部屋なのだが…


俺はそう考えながらホワイトボートの前まで行き、父さん達ともち丸と焔に適当に座るように言って備え付けられている油性マジックを手に取る。

その後に振り向き、父さん達が座っているのを確認してから俺はマジックの蓋を取る。


「ごめん、取り敢えず確認したいんだけどさ…父さん達は今ダンジョンの外がどうなっているのか知ってる?」


俺がそう言って2人を見るが、ただ首を横に振るだけで何も言わない。


「…OK、ならコレから話す事は刺激が強すぎるが覚悟して聞いてくれ」


「「…」」


俺がその2人を見てからマジックでホワイトボードに今までの事を順番に書いていく、そしてそんな姿を父さん達はただ無言で聞くだけだった。



〜〜 しばらくして 〜〜



「…以上が、父さん達を助けるまでに起きた出来事だ。何か質問は?」


俺は今まで起きた出来事を話終わり、父さん達の方に振り向く。


「そんな、恵那山周辺のダンジョンでスタンピードが発生したなんて…ウチ、間に合わなかったの…!?」


《おいおい、今いるダンジョンは途中で外に出る手段が無いだ?…望月はまだいいが、他の人の援護に行ったコク糖とキナコが心配だぜ…》


「大丈夫ですよ焔様。コク糖達は現在ダムで防衛戦をしているはず、沢山の仲間に旦那の仲間もいるから生存確率は遥かに高いはずですよ」


《…まあな、だが万が一の事もある。だから早めにダンジョンの外に出る事はかなり重大だぜもち丸?》


俺の話に渡辺さんは座りながら頭を抱えてしまい、焔はもち丸とキナコ達の事を心配していた。

コレで確定した、渡辺さんが言っていた不正があるかもしれないと疑っていた3つのダンジョンが今回スタンピードを起こしたダンジョンだ。渡辺さんが恵那山周辺の話をした際の食いつき具合が異常だったし間違いない。

そんな中、父さんだけは無言で何かを考えていた。


「渉、質問いいか?」


「…いいよ。どうぞ」


そして口を開き、俺に何かを聞いてくる。


「渉、お前をこのダンジョンに落とした金髪の男性…耳と鼻にピアスをつけていなかったか?そして、その男は間違いなく『ここでむかつく奴の血筋は消えるんだ…せいぜい俺の気晴らしと金の為に派手に散りやがれクソガキ』と言ったんだな?」


「…うん、間違いなく言った。耳にも鼻にもピアスをつけていた」


「間違いない、翔太だ…あの男、まさか私だけではなく私の血筋だからと渉まで恨んでいたのか…そこまで『あの件』を根に持っていたのか!?」


そう言って父さんは顔を青くして俯いた。


「…あの件?」


俺はあの件が何なのか分からなかったが、どうやら父さんには何かしら引っかかる所があるようだ。


「…ああ。あの件は私が若かったが故に暴走した恥ずかしい話だが…キチンと話そう」


父さんは俺が気にしている様子を見せたのであの件とやらを話し出した。

それは昔、母さんのが佐々木の野郎に愛人に慣れと言われて絶望している事を知って、人生で初めて完全にキレた時の話だ。

その時、母さんは自分の実家は佐々木家の言いなりだからと父さんの実家に避難していた。だが佐々木は田舎の情報網でその事を知り、地元の不良達や暴走族を金で集めて当時の父さんの実家に避難していた母さんを連れ戻そうとした。

しかし、その不良や暴走族は父さんの家の敷地内には一歩たりとも入れずに1人残らず地面に気絶していた。理由は簡単、ブチギレた父さんが鉄パイプやスコップで武装した全員の武装とバイクを破壊した後に律儀に全員を殴り倒したからだ。

そして最後に残った佐々木は父の猟銃を無断で持ち出し、自分に向かってくる父さんに発砲。だが父さんは右肩に弾丸をくらいつつもそのまま右腕で佐々木の顔面にラリアットをかまして地面に叩きつけて気絶させた。

その後は佐々木の父さんの力でこの件は揉み消され、佐々木を含む父さんを襲った奴らは全員病院送りになり父さんも緊急手術になったが筋肉が弾丸を完全に止めていた為に少しの間入院する程度で済んだ。

だが、その入院中で母さんと爺ちゃん達がいる時に佐々木の父親が病室に来た。最初は何を言ってくるのか警戒したが、何と佐々木の父親は父さん達の目の前で土下座をしたのだ。流石の状況にその場にいる全員が理解できなかったが佐々木の父さんは事の経緯をキチンと説明してくれた。

話によると佐々木の父さんは確かに佐々木の事を愛し、ある程度なら家の力で揉み消してあげていたが本心はマトモな優しい性格の子になってほしかったらしい。だから元々付き合いが長く、性格も穏やかで優しい母さんを許嫁にして身近に置き、荒い性格の佐々木が少しでもにまともになって欲しかったのが本音だった。しかし、今回の一件は流石にワガママがすぎた。

無断で婚約破棄に家政婦&愛人強要発言、不良達に金銭で父さん達を襲うように仕向け、あまつさえ免許もないのに私物の猟銃を持ち出し発砲した…だからこそ、流石の佐々木の父さんも今回の一件で佐々木に愛想が尽きた。

そして今回の一件を揉み消したのはひとえに父さん達と母さんの為であり、コレで後腐れなく地元を離れられる様にして、更に今回かかる治療費と父さん達が遠い地での新居の購入代と引越し費用を佐々木家が全額負担するから引越しをしてくれ提案しに来たと話したそうだ。


「故に私の家族と風香はその話にのり、退院と同時に地元である阿木から離れたんだ…そしてここからは阿木にいた数少ない友人から聞いた話だが、佐々木…いや翔太の地獄が私達の引っ越した後から始まったらしい」


そう言って父さんは一息入れてから話を続けた。


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