第269話
〜〜 ??? 中層 side 佐藤 雄二 〜〜
「渡辺さん、私の後ろに」
「雄二さん…」
佐々木の屋敷の地下にあった無申告のダンジョンの中層、現在私と渡辺さんはそこに居る。
理由は佐々木にはめられて落とし穴に落とされて、このダンジョンに強制的に入れられたからだ。最初は浅層でスマホが使えない事実に絶望していたが、いつまでも動かないでいるのは死に直結する為に帰還用のポータルを探すために階層を探索し、モンスターが出ない環境だった為に探索はスムーズだったが、帰還用ポータルが無いのが分かってしまい、仕方が無く中層に来たという訳である。
だが、そんな中層にきてからはや3時間…
「…囲まれたか」
とうとう私達はモンスターに遭遇し、囲まれてしまった。
この中層の環境は不毛の大地、厚い雲に覆われている空に草木が枯れ、大岩や石が散乱した硬い大地のみが永遠に広がる階層だ。そして現在私達2人は大岩に擬態していた複数のヤドカリの様な巨大なモンスターに出くわしてしまい、更に周りからも次々と同種のモンスターが集まってきている状況だ。
「くそ、ヤドカリだと拳が効くとは思えん」
更に言えば私達2人はスーツ姿で武器はない。さらに言えば家に上がった時点で靴を脱いだからこの大地を歩くだけでも痛い、走るのは私ならできるが渡辺さんは無理だろう。
『ギギギ…』
「クッ!?」
そんな事を考えているとモンスターがその場で背中の石を鋏で挟んで砕き、そのまま私達に向かって投げてくる。私はそれに対して渡辺さんを庇う為にに背中を向けて彼女の盾になる。
「ゆ、雄二さん!?」
「…大丈夫です、体を今まで鍛えてましたから頑丈さだけは人一倍です」
背中のスーツが破れおそらく血も流れている…だが、私は手が届く限りは息子と女性を守ると決めたんだ。私は昔、仕事のせいで風香を死なせてしまった。だからその後に息子を…渉を育てるにあたり私が自分で決めた絶対のルールだ…故に、私はこの人を傷つける訳にはいかん。傷つけてしまったら…私は私を許せなくなってしまうから。
『『『ギギギギ…』』』
「グォ!?」
「雄二さん!」
だが、悲しい事に周りにいたモンスターも同じく私達に向かって投石で攻撃し初め、私は渡辺さんを押し倒し、そのまま全身で彼女を投石から守るよう覆い被さった形のまま投石に耐えていく。
「グッ…アァ!?」
石が頭に当たって血を流し、背中の傷を広げ、全身の服がボロボロになりズボンに入れていたスマホや名刺入れが砕けて破れた穴から地面に落ちる。
「雄二さん…もう…」
守っている渡辺さんが涙目になりながら私を見るが、私は流血しながらも笑顔を作り、彼女に向ける。
「…大丈夫です、私が必ず守りますから」
「…///」
笑顔になりながら声を絞り出すようにそう言うと渡辺さんの顔が赤くなる…そんな時、
ズドーン!!
『ギャァ!?』
『『『ギギギ!?』』』
急に一匹のモンスターが謎の爆発をして倒され、周りにいたモンスター達は一気に攻撃をやめてある一点を向いた。さらには…
ギュラギュラギュラ…
「キャタピラ…の音!?」
「…まさか!?」
キャタピラが動く独特な音が聞こえ、渡辺さんと私は一気に聞こえた方を向く。
「〈このヤドカリもどき共が!〉」
そこには、ここにいる筈のない人物がお手製の乗り物に乗りながら拡声器でモンスターを威嚇しつつものすごい速さでこちらに向かっている…
「〈たった1人の家族の父さんに何してんだこの野郎!〉」
「渉!!」
私にとってかけがえのない大切な息子がいた。
渉はそのまま後ろに拡声器をしまうとさらに加速、私達の前にいたモンスターの間に乗り物を滑らしながら入り込む。
「救助班、頼んだ!もち丸は俺に続け!!」
「「「了解!」」」
渉はそう叫ぶともち丸君と一緒にモンスターの方に動き、その直後モンスターの悲鳴と同時に複数の爆発音が鳴り響く。
「アナタ、私は女性の方を見るから重症者の方をお願いね?」
「了解した」
そして、未だ渡辺さんを守る私に近づく複数の友狐。
その中で背中にアタッシュケースを背負った茶色い毛並みの友狐が私に近づいてきてゆっくりと他の仲間達と一緒に私を持ち上げて渡辺さんの隣に敷かれた布の上に寝かせる。
「始めまして。私はヒッスアミノ、神主兼今回の救助班のメンバーです。すみませんが回復薬を使いますのでもう少しだけ我慢していて下さい」
「…はい」
その後茶色い友狐はヒッスアミノと名乗って私にそう言い、私は返事を返すとそのまま私の首に回復薬βを押し当てて使用する。
骨から鳴っているような軽い音が響き、次第に私の体から痛みが引いて消えていくのが分かる。
「…渡辺さん!?」
「おっと、急に動くのは危ないですよ?…大丈夫、女性の方は安心したのか回復薬を使った後に気絶しましたよ」
私は痛みが完全に治ったと同時に跳ねるように体を起こして渡辺さんの無事を確認する。
しかし、どうやら渡辺さんは友狐達に安心したのか回復薬を使った後に気絶したらしい…なら、次にやることは決まっている。
「すみません、ヒッスアミノさん。何か武器はありません…
「はい、渉さんからコレを預かってます。『どうせ父さんの事だから傷が治り次第生身でも俺と共闘しかねない。だからコイツを渡してくれ』って言ってました」
…感謝します!」
私が渉の元に行く為に武器が無いか聞くと、ヒッスアミノさんは背中のアタッシュケースを外して私に渡してくれる。どうやら渉から既に私用に用意されていたらしい、私はヒッスアミノさんにお礼を言ってアタッシュケースを開ける。
「…これは」
そこにあったのは花散と名付けられた爆発する苦無が十本に前回渉が禁層の時に付けていた腕の装備が入っていた。
「その装備、殴る時に50馬力の力を足してくれる装備らしいですね」
「…ふふ、実に私向きだ」
ヒッスアミノさんの言葉に私は急いで装備を付ける。
渉め…後で目一杯撫でてやる。
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