第268話
〜〜 ??? 浅層 〜〜
「うわぁ!?」
「クッ!?」
俺達はいつもの浮遊感が無くなると同時に砂利の地面に体を打ちつける。
落下のダメージはほぼ無い、だが問題はそこでは無い。
「あの金髪男が恐らく佐々木…っあの野郎、自宅に落とし穴なんて罠を作るだけじゃなく、その穴の先に『無申告』のダンジョンがあるなんて…普通にダンジョンの無申告は大罪級の犯罪なんだぞ…!」
俺はそい呟きながらゆっくりと体を起こす。
本来ダンジョンは国が管理するものだ。何故ならスタンピードが起きた際、いち早く動かないと被害がとんでもない事になってしまうからだ。勿論そのダンジョンから手に入る素材の管理などの理由もあるにはあるが基本的にはスタンピード対策として管理するのが主な理由だ。だから普通はダンジョンを見つけたらギルドに報告を入れるのが常識だ…だが、ごく稀にギルドに報告せずに個人で管理している無申告のダンジョンも少なからず存在する。
主に反社会組織などの裏の人間が戦闘訓練や素材を裏のマーケットに流したり、裏切り者とかを消す為に使っているとか悪い意味で利用しているとは良く聞くが、そんな無申告のダンジョンがもし見つかった場合は問答無用で内乱罪が適応されて逮捕され、間違いなく無期懲役か死刑の二択しかない。
そんなリスクをあの男が承知なのかどうか分からないがこれはマジで許されない事だ。
何せこの家にダンジョンがあるなんて情報は一切なかったから間違いなく無申告だし、何より落とし穴の先にダンジョンの入り口があるとか普段は隠しているのが明白だ。
「と、取り敢えずギルドに連絡しよう。連絡すれば対処してくれは…ず…」
俺はそう言ってスマホを取り出す。無申告のダンジョンが調査していた家から見つかった、コレだけでも自衛隊が出動するレベルの大事件だ。だから急いで報告しようとスマホの画面を見た…のだが、その考えをダメにする最悪の状況が起きてしまった。
「け、『圏外』だと!?」
スマホの画面に表示される圏外の二文字、つまりこのダンジョンには電波が無いと言う事…それはつまりそれはこのダンジョンがあのダンジョンの可能性があると言う事だ。
「だ、ダンナ。アレってもしかして…」
「…マジかよ」
そんな中、俺はもち丸の声を聴いたのですぐにそちらに顔を向ける、そこにはある一点を見るもち丸。
更に…
「川に花畑…そして、『ポータル』。しかも次の階層に行く方のヤツかよ」
目の前には500mの流れがゆっくりで浅い川、こちら側は砂利しかない地面なのに対して川を挟んだ反対側は様々な花が咲く花畑が広がり、そこに遺跡のような物…つまり次の階層に行くためのポータルがあった。
そして俺はこの状況に加え圏外である事実を頭の中で考えて、先ほど考えてしまった最悪の事実が正解であると理解してしまった。
「…特殊ダンジョン」
「え…ダンナ、それってまさか…」
俺が思わず呟いた言葉に、もち丸は驚いた顔になりながらこちらに振り向く。
「スマホなどが圏外で使えない、今までのダンジョンとはあきらかに違う構造…間違いない、このダンジョンは特殊ダンジョンだ!」
俺は思わずその場で頭を抱える。
「今思えば妙な所だらけだった。
あの親権うんぬんの話も父さんを誘い出す為の口実なら納得がいくし、スタンピードが発生すれば父さんを心配して俺が出てくる可能性は大だ。
更にあの屋敷に撒かれた強烈な柑橘系の匂いもモンスターを追い払う為と自分の匂いを紛らわせる為に使ったのなら納得はいくし、何より普通部屋のど真ん中にカバンだけを置くか?…今考えたら普通に罠じゃん…俺の馬鹿」
俺はそう言って父さんの物であろうのカバンを見つつ反省し続ける。
今回のスタンピード、もし意図的に佐々木が引き起こしたのなら父さんを地元である阿木に招き入れたのも俺を見て迷わずもち丸を投げて視界と判断力を遮った瞬間に落とし穴に落としたのも納得できてしまう。
「だとしたらスタンピードを起こした理由は何だ…何がしたいんだ?」
「ちょっダンナ!いくら周りにモンスターの気配も匂いも無いからって今考える事じゃないですよ!!」
俺がそのまま考る事に夢中になるが、そんな俺にもち丸が変な事を言って来たので俺は考える事を止めてもち丸の方を向く。
「…え、モンスターがいないの?…ダンジョンなのに??」
「うわぁ、急に冷静になったら怖いですよダンナ」
俺の態度の急変にもち丸は驚くが、俺は気にせず『観察眼』を使い周りを見る。
確かにモンスターの影も形もない、見る限り花畑の方にも足跡もな…!?
「…あれは…もち丸、ちょい肩に乗れ。向こうのポータルに気になる物があった」
「あ、川の向こうに行くんですよ?了解ですよ」
俺はある一点を見つめながら拠点に父さんのカバンを回収しつつもち丸にそう言う。もち丸も何をするかを察したのかそのまま駆け寄ってきて背中に登り、右肩から顔を出した。
俺はそんなもち丸の頭を撫でつつ立ち上がり、川の中に入って行く。川も流れが緩やかだが、川底は見えているのだが丁度足のくるぶしくらいまで水があるから少し歩きにくい。だが俺は構わず対岸の花畑まで行き、ポータルの2m手前位で止まってそこに落ちていた物を拾う。
「…小さい紙ですよ?」
「『名刺』って言ってな。初対面の相手とかに自分の名前と簡単なプロフィール、電話番号とかを書いて渡し合う為の紙さ」
「へー」と言って俺の右肩から俺が拾った名刺を見るもち丸だが、俺はそれよりも名刺に書かれた名前の方に注目している。
「『佐藤 雄二』…どうやら少なくとも父さんはこのダンジョンに入ったらしいな」
「…あ、ダンナ。ポータルの近くにも同じ紙が落ちているですよ」
名刺に書かれた名前は間違いなく父さんの名前だ。そしてもち丸の声を聞いてからポータルを見るとポータルの近くにもう一枚、父さんの名前の名刺が落ちていた。
「ダンジョンが外にゴミを排出するのは一日たったゴミだけだ。だから排出されずにこの場にあると言う事は…行方不明から14時間、ようやく父さんが生きていたって証拠が見つかっな」
俺はそう言ってポータルの近くの物も拾い、ついでに拠点も展開した。
父さんは間違いなく生きている、そしておそらく名刺を進んだ道にワザと落として道標兼生存している証にしたんだろう…だからこそ、今できる事をしないとダメだ。
「もち丸、俺は武器の交換とエイセンの燃料チェックをするからもち丸は荷台に薬と食料、飲料水と…後フリーサイズの服とか積み込んでくれ。とりま4人分でお願い」
「了解ですよ。…おーい、そこの名無し達。ちょっと手伝って欲しいんですよ!」
俺の言葉にもち丸は返事をしてから背中から降り、鳥居をくぐり近くにいた名無し達に話しかけていた。
14時間…食事や水分補給をしていない事を考えるとそろそろ疲労困憊になる頃だろう…父さん達の武器も合わせて積んで持って行った方がいいな。
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