第197話
「すみませんでした。急に渉が抱きしめてくれたからつい…」
「つい…じゃない。アタシが止めをお願いした際に2人しか動かなかったからどうしたのかと見たら窒息寸前で倒れていた叶はともかくアンタは惚けて動かなかったもん。
だから緊急でアタシとミリアが動く事にしたんだからね」
「いや、そもそも夏美がいきなり閃光玉を使うのが原因だろ?もうちょい掛け声をしてから使ったほうがいいと俺は思うぞ?」
「いや、ダンナがきちんと事前に説明していなかったのが原因だと僕は思うんですよ」
アレから大体5分後、取り敢えず何とか桜を正気に戻すことには成功した。
そして桜は現状を理解するとその場で正座をして反省し、俺と夏美ともち丸が桜の近くで反省会をしている状況だ。
因みに叶はというと…
「ガ…ア!?」
「やべ、やり過ぎた」
只今、酸欠による昏睡から目覚めたと同時に胸を抑えながらまた死にかけていた。
原因は間違いなく叶の防具の銅の部分を外して自分の隣に置いている無表情で首を傾げている一二三だ、彼女は心臓マッサージを真似して肺辺りを掌底で力一杯圧迫したらしく叶は肺に残っていた空気を強制的に吐き出したと同時に余りの痛みにその場でまた悶絶してしまったと言う訳である。
そんな姿になっている叶を見たのか叶より先に目を覚ましたあの名無しの友狐が双眼鏡を片手に走って近づいていく。
「叶様の緊急事態を確認、即時対お…あ」
恐らくあの友狐は叶の事が心配になったので安否確認をしようとしたのだろう、しかし走っていた際に足を挫いたのかそのまま前転して…
「アガ!?」
頭が叶の股に直撃した。
「イツツ…叶様、大丈夫で…
「…」
…大丈夫じゃないですね。苦悶の顔をしながら気絶してます」
「まさかのトドメの一撃に大草原不可避、取り敢えず私が体を持ち上げるから叶のポーチから回復薬を出して?」
友狐が急いで顔をあげて叶の安否を確認しようとしたが、叶は股のダメージが大きかったのか苦悶の表情を浮かべながら気絶してしまった。
それを見た一二三が若干笑いながら叶をお姫様抱っこして腰のポーチから回復薬を出すように指示を出していた。
(…叶、間違いなくあの友狐と『巡り合って』るな。だが、あの友狐は間違いなく優秀なドジっ子タイプだ…あのタイプは優秀だが癖があるから絶対に苦労することになる…が…うん、やはり叶を神社に連れて行くべきだな。叶の為にもなるしあの名無しの子の為にもなるしな)
俺は気絶している叶の口に友狐が蓋が開いてない回復薬αを無理矢理つっこんで、それをまた笑いながら正しい使い方を支持している一二三達の光景を見てそう思った。
「夏美、そろそろ足が痺れてきたから許して欲しいんだけど…
「モンスターとの戦闘中に色ボケする奴は普通は死ぬんだよ?だけど今回は偶々運がよかったからコレで勘弁してあげているのが分からないの?」
…はい、すみません」
「オッフ、夏美のアネゴはキレたらヤバいタイプだったですよ…怒らせないようにしようっと」
しかし、俺はそう思いながらも同時に久々にキレている夏美にビビっていたりもしていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「…死ぬかと思った。物理的に一回と男性として一回で合計2回もだせ?流石に泣いていいだろ渉?」
「ああ、泣いていいぞ叶。その気持ちは痛いほど分かる」
「確かに、イナリの僕もそれには共感できるですよ」
あの後無事に叶が復活して夏美の怒りが収まってから俺達はようやく次の階層に行く為に移動を再開した。
因みに目覚めてから叶はかなり疲弊していて、桜に俺の隣の席を変わってもらってから完全に男性にしか分からない痛みの話を俺と俺の膝の上にいるもち丸にして傷を癒そうとしていた。
「叶の泣き顔に視聴者も同情してて草…あ、渉。そう言えばさっき夏美が攻撃した際に『焦げ臭い匂い』がした後に地面が弾け飛ぶような攻撃をしてたんだけど…何したの?」
そんな叶を横目にドローンに移るコメントを見ていた一二三が不意に思い出した様に俺にそう聞いてきた。
「…あ、レッグキックの事ね。あれはパイルバンカーの機構を参考に素早く足自体を伸ばして当たった場所に一点集中でダメージを与える戦闘用義足に仕込めるオモチャの一つだな」
「いや、あの威力が出るものをオモチャに分類していいのかな?」
「いや、普通に武器だよ。オモチャじゃない」
叶のしつこい言葉責めに軽いチョップを入れながら質問に答えると、夏美は顎に手をあてながら悩み始め、叶の代わりに友狐を肩車していた桜がそう言って呆れている。
夏美の武器の一つであるレッグキック、アレは俺が作った液体燃料を使い、義足全体をわずかな距離だが素早く撃ち出すパイルバンカーの機構を参考にしたギミックだ。
一応、俺の人体総変異して白い炎で固くした骨を簡単に粉砕する威力はあるのだが…義足でパイルバンカーみたいな事をやる為射程距離がめちゃくちゃ短い。しかも一回使う事に液体燃料の入った缶を排出する機構の為にいちいち燃料缶を装填する隙が生まれてしまうからとどめの時以外なら間違いなく使えない武器でもある。
因みにこのオモチャは義足だけではなく義手でも搭載可能である、正にロマンだ。
「はいはい、荷台の人達は雑談をそろそろやめてね…後3分くらいで次の階層に行くポータルに到着するから」
俺達がそう話していると運転していた夏美がサイドミラーごしにそう話してきた。
それを聞いた俺達は全員真剣な顔になり、それぞれ武器などを準備して何が起きても対処できるようにしたのだった。
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