第192話す
〜〜 数十分後 〜〜
「平均時速は約四十五km位を常に維持…やっぱり渉は規格外だよ…」
「まあ、落ち着きなさい夏美…まあ、私は今の姿を全力で狐吸いできないのがめちゃくちゃ悔しい点なんだけれどね」
俺達は今、夏美とミリアさんを先頭に一列になりながら浅層の平原を素早く移動中だ。
「と、いうかぶっちゃけ乗り物とかどうするんだとか気にしてたけどこういう事だったのね…便利すぎだろ友狐」
「スー…ハー…スー…」
「一二三はさっきから感極まってモフりながら吸うのやめないし…」
そんな事を俺達の前にいる叶が呟いていると、不意に『足元』から声が聞こえてきた。
〈いい加減くすぐったくする事を止めろ、走りにくいんだよ。狩りの最中にそんな事をするとか命の取り合いを舐めているのか?〉
「ああ、すまん『コク糖』。ほら、一二三!もう十分だろ、やめなさい!」
少し低音になってはいるが間違いなくコク糖の声が聞こえてくると、叶は急いで自分の後ろにいて体全体でモフっている一二三の背中を叩き出した。
そう、現在俺達はポータルが使えない為に2人1組でもち丸達に乗せてもらい移動しているのだ。
まあ…
〈全く、緊張感が足りねぇな…〉
現在のもち丸達の大きさが競走馬並みにデカくなり、更に普段の二足歩行形態からリアルな四足歩行の狐の姿に変身してているからこそできる芸当なんだけれどな。
〈まあまあ、大きくなったからその分全身でモフる気持ちは分からないわけじゃないですよ。
子供の頃はよく母ちゃんに全身で甘えるようにモフってましたから多分そんな感じなんですよコク糖〉
〈なるほど、だがオレは人間なんて産んだ記憶は無いからただくすぐったいだけなんだよな…〉
俺と桜が乗せてもらっていて、最後尾にいるもち丸が同じく低音にはなっているがいつもの口調でコク糖と少し雑談をし始めた。
実は友狐には一匹につき3つの『術』と呼ばれる特殊能力を覚えさせられる事ができて、現在の形態になっているのもその術の一つである『大狐の術』であり、素早く移動したり人が登れない崖や川などを移動できたりする事ができるようになる術なのだ。
だが、この術の発動中は友狐は移動する事のみに特化する為戦闘行為ができないし友狐も生き物だからスタミナ管理も必要の為にゲームみたいにあまりダンジョンで多様する事は推奨できないので、本当に非常時の移動手段として使うか戦闘中に負傷した仲間を後退させる移動手段としてなどの補助的な活躍をする術でもある為今回はこうやって移動の為に使わせてもらっているのだ。
因みに隊列は以下の通りになっていて、
(先頭)キナコ
(騎乗者)夏美 ミリアさん
(中段)コク糖
(騎乗者)叶 一二三
(後方)もち丸
(騎乗者)俺 桜
となっていて、先頭の夏美がスキルとジョブをフル活用しながら最短距離で目的地に向かう為にキナコを操作してミリアさんはそのサポート、俺と桜が後方で主に後ろを警戒しつつ俺もまた『地図』と『鷹の目』のスキルを使い危険がないか周囲を見渡していて、中段にいる叶と一二三が有事に対してすぐさま対処するという感じの隊列となっている。
「…あ、キナコ。もう直ぐ左に曲がるから下手に足へ力を入れないでね?アタシがジョブで体を動かさせてもらってるから変に力が入ると…ね?」
〈あらあら、大丈夫よ。…でも不思議な体験なのよ?自分の体なのに自分の意思で動けないって感覚は中々味わえなくて新鮮で面白いわ♪〉
そんな感じの事を考えていると先頭の夏美がキナコに話しかける声が聞こえてきた。
「…ん」
「ピッ!?」
そして、同じくその声を聞いていたのか桜が俺の腰辺りに腕を回してから直ぐに俺の背中に密着してきた。
いや、これは恐らく先頭が曲がると聞こえたからお互いの体勢を固定するためにしてくれたのだろ…
「ふふ、役得だな…このままずっと君の体温を感じたいよ…」
…いや、桜はどうやら下心が万歳だった模様。
だってわざわざ抱きついてきてから耳元で囁くようにこう言ってきて頭の位置も耳元の位置に固定している。
確かに体を固定しないとダメなのは分かるがこう密着されると色々とまずい、いかんせん俺は桜に告白されたから俺の心を狩ってみろと言ってしまったのであの日以降桜からのアプローチを仕掛けられているのでぶっちゃけるともう陥落寸前位までは落ちかけているのだ。
(鎮まれ俺の煩悩という名の獣よ!確かにめちゃくちゃいい匂…ちがう!背中に当たっている物が柔らか…いや俺はアホか!?俺はまだ夢の途中だろうが!!例え体格は桜の方が大きいけど女性としてめちゃくちゃ守ってやりたくな…っておバカ!?!?)
その為現在俺の頭の中はミキサーがごとく色んな感情がぐちゃぐちゃになっていて大混乱状態である。
〈むっふっふ、流石はアネゴですよ。このまダンナを落として早く僕にダンナとの子ど…
「もち丸、今日の夕食のずんだ餅から歌舞伎揚に変更な」
…って、しまった!願望が口から漏れていたですよ!?〉
しかし、このアホ狐の爆弾発言はすっと耳に入ってきたのでもち丸の夕食の一品を変更する事だけは直ぐに決まった。
そんな会話を後ろにいる桜は少し笑いながら聞いていて、そんな姿を桜のドローンが配信していたのだった。
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