第186話
〜〜 数十分後 特設ステージ裏〜〜
あの後、一応電話先の相手は快く引き受けとるてくれた…のだが、『仲間が増えた♪』とか結構不気味な事や会話の最中にずっと何かを引きずっている音も聞こえて正直怖かった。
「…まあ、いいか」
俺は一旦この事は頭の隅で覚えておく事にした…というかそうしないと気になりすぎて考えが纏まりそうにないからだ。
それに今、夏美の義足の最終調整と『オモチャ』の連結をしている。
そして夏美もまた自分のノートパソコンでオモチャのシステムを最終確認をしていた。
「…相変わらず、システムの作りが甘い…けど、動く程度なら問題ないね。だが、作りは荒すぎで今直ぐに修正したいレベル、まだまだプログラミング技術は磨かないとだめだよ渉?」
「うるせぇ、こっちとら現物を仕上げる技術で手一杯なんだよ。プログラム製作はマジで既存のヤツをコピペで弄る程度しかできんわ」
そう言って俺は最終チェックを終わらしてハッチを閉める。
そんな姿を4人は怪しいやつを見る目で俺達を見ていた。
「…夏美に渉。本当にそれ動くの?」
そして、そんな中で一二三が無表情ながらもそう聞いてくる。
「ああ。問題ない…が、やはりダンジョンではまだ使えない。耐久性と『バッテリー』に問題があるからな」
「システム的にもまだまだ修正と改良をしなきゃいけない所が多い。だからアタシ的にも今回はデモンストレーションで動かして後で修正すればいいと思う」
「…そう、私的にはそんな物が動くのが信じられないんだけど…2人がそう言うなら…」
俺達が一二三に振り向きそう言うと一二三は若干引き気味でそう言ってまた黙った。
「と言うか、コレはあくまでも身体障害者というハンデはダンジョン攻略に対して足を引っ張る原因になるという常識を覆す為の最初の起爆剤みたいな意味もあって使う訳だから別にコレでいいのさ。
本命のダンジョンで使える完璧な義足はもう夏美の足についているわけだしね、コイツで一気に会場を温めて最後に夏美の義足をお披露目して全世界の身体障害者達に衝撃を与えるのが目的って訳よ」
「アタシみたいにダンジョンでの冒険に憧れているが身体的に無理な奴をアタシは腐るほど見てきた。
だからこのサプライズでそんな不貞腐れている奴らにぶっ叩かれた様な衝撃を与えて目を覚させたいのさ、身体障害程度ではダンジョンに行く夢は諦めてはいけないってさ。
…それに、渉がギルドを通じてアタシの実家に話をつけて今回のダンジョンを制覇した暁にはアタシの義足のデータを元に量産型の義足と義手を作る手筈になっているし…絶対に失敗はできないんだよね。アタシの活躍次第で全世界の身体障害者達に新しい腕や足を与えられるチャンスなんだ、だから失敗なんて絶対にできない…今回のサプライズもダンジョン攻略も…勿論アタシの夢のためにもね」
そう言って夏美はノートパソコンを閉じる。その目にはかなりの覚悟を宿していた。
実は夏美の実家は車椅子などを製作している介護用品の製造会社なのだが、テレビ番組の後に〈狩友〉全員と渡辺さん一緒に夏美の家族とビデオ通話をして色々と話し合った。その際に夏美の義足のデータを元にダンジョン探索には耐えられないが日常生活やスポーツなどには十分に耐えられる量産型の義足の量産とそこから派生して同じタイプの義手の開発やダンジョン探索にも耐えられる強化版の量産型義手や義足の開発を俺とギルドの全面協力の元に制作、販売するプロジェクトを提案して、あちら側もそれに賛成してくれたのだ。
だが、その為には実際に夏美がダンジョンに入り義足の稼働や摩耗具合のデータなどの様々なデータが必要な為今回のダンジョン攻略にてそのデータを集めなければならないのだ。
だから夏美は今回のダンジョンの攻略は自分の夢の為だけではなく、今後の家族の会社の為と全世界の手や足がない身体障害者達の為にダンジョンに挑む事になってしまったのだ。そりゃ気合いが入って目に覚悟も宿るというものだ。
「…まあ、夏美が危ない時は私達がフォローするから安心して渉」
俺が夏美を見ているとミリアさんがそう言って夏美がまだ乗っている『乗り物』に近づく。
「大丈夫、渉がいない間は私が夏美を守ってきたもの…全力で守るわ」
ミリアさんはそう言うと夏美と同様に覚悟を宿した。
それを見た俺は残りのメンバー全員を見るが、全員もれなく目に覚悟を宿していた。無理もない、このダンジョンの攻略が成功すれば間違いなく新しい身体障害達に腕や足、そして夢を叶えられるチャンスを与えてあげられるのだ。故にこうなっても仕方がないだろう。
「…オーライ、俺を含めて全員覚悟ガン決まりだな…夏美、『MB〈O〉』を起動しな。そろそろ出番だから」
「了解」
俺がそう夏美に言うと夏美は乗り物のエンジンを起動、折りたたまれていた二足の足で立ち上がり、格納されていた腕のような五本指のアームが二本展開される。
「システム的に問題は…目を瞑れるレベルだね。でもお披露目には大丈夫」
起動してからのチェックを背中側の運転席にて行っていた夏美がそう言う。
「オーライ、なら…行こうか。世界中の四肢が無い人の為…いや、夏美の夢の為に」
俺がそう言うと同時に特設ステージの方から大音量で音楽が流れ始め司会者の声が聞こえ始めた。
その音を聞いた俺は今から始まるダンジョンの攻略に対して改めて覚悟を決めるのだった。
そう言えば、ビデオ通話の際に夏美の両親から「変な娘だけど末長くよろしくね、渉ちゃん」と言われて、それを聞いた夏美が顔を赤くして俯いて、桜には強制的にその場で押し倒されてキスされたんだよな…もしかして、夏美は俺の事が…いや、まさかな…
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