第187話
〜〜 side 多田野 藻武蛇世 〜〜
「もはやダンジョンに潜る行為だけでお祭り騒ぎとか…やっぱり〈狩友〉ってスゲェ…」
設置してあるベンチに座りながら、僕はそう言ってペットボトルの麦茶(ラベルに執事服の桜が書かれている)を飲む。
今日は〈狩友〉が東京タワーのダンジョンに入る為に開かれたイベントに来ていた。
(と、いうか夏美さんが身体障害者だからかな…ああいった奴らもそりゃくるわな…)
僕はお茶を飲みながらある一点を見てそう思った。
そこにいたのは、
「我々身体障害者を命を軽視し、殺そうとしている〈狩友〉を許すな!」
「「「許すな!」」」
「我々は〈狩友〉に精一杯の謝罪と賠償、そして同じ障害者である夏美さんの解放を要求する!」
「「「要求する!」」」
義足や車椅子に乗っている数十人の人達が何やらメガホンやらで声を大きくして叫んでいた。
(そりゃ、僕だって最初に彼女の両足がない事に驚いたけどさ…流石にアレはないんじゃないかな?)
僕はそう思いつつ飲み切ったペットボトルに蓋をした。
彼らは確か『身体障害者に優しい世界を実現する』などの様々なスローガンを掲げて過激な活動をしている団体だったはずだ。
その昔彼らは雇っている障害者達にサービス残業を連日させていたとあるブラック企業に噛みついて長期間の裁判をした事でニュースになった団体であり、その際もかなり過激な行為をしていた…と、記憶にある。
恐らく今回は夏美さんが障害者なのにダンジョンに制覇する目的で行く事が気に食わないからこうやって遥々イベント会場まで来て騒いでいるのだと思う。
「別に障害者だって事前に四人以上のメンバーがいるパーティで行動するならダンジョンに入れるって明確なルールを国が定めてるのに噛み付くとか…」
国が定めたダンジョンに入る為のルールに『パーティメンバーが4人以上なら障害者をパーティに入れてダンジョンに行ってもいい』というルールがある。
もっと正確に言えばパーティメンバーが4人いる事に障害者を1人連れていけるという感じのルールだ、つまり別に〈狩友〉は違反もしていないし番組の放送後の配信で夏美さんは自分の意思で入ったので強制的に入れられた訳でもない。
だが、それでも彼らは抗議をやめない。不思議なものである。
「…そう言えば、こういった騒ぎをやっているにも関わらず警備員とかスタッフが誰も彼らを止めにこないのも不思議だよな…」
僕はそう言いながら周りを見る。
こういった抗議活動があった場合は警備員やスタッフが止めに入るのが普通だ、だが周りを見ても警備員どころかスタッフの誰も彼らを止めようとしない。まるで何かの目的があって意図的に放置されている感じに見えてしまう。
僕はそう考えながら不意にポケットに入れていたスマホが音を鳴らして振動しだしたのでポケットから出して画面を見る。
「…あ、やべ。もうこんな時間じゃん、急いで行かないといい場所が無くなっちゃう」
画面は事前に設定していたアラームを通知する画面になっており、それを見た僕は急いでアラームを止めて〈狩友〉が今日ダンジョンに入る直前にインタビューをする為の特設ステージに向かい、歩き出したのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「うわ…ミスった。人がもうこんなにいるじゃん」
僕は無事に特設ステージに到着する、しかし僕より早く来た人はかなりの数いたらしくいい場所はもう確保済みの状態だった。
その為僕は少しステージが見にくいがなるべく人が少ない場所に移動して、見る場所を確保する。
そして数十分後、ステージから音がなり始め司会者が登場しメインイベントの始まりを宣言した。
そしてそのまま司会者が話しているとステージの端から配信用であろうスマホがセットされたドローンが4台出てきて、ステージの周りを巡回し出した。
「あ…もしかして、あれが〈狩友〉の配信をしているドローンかな?」
僕はそのドローンを見てそう思った。
現在、〈狩友〉のメンバーは6人、内ダンジョン配信者は4人だ。数的にも合うしおそらく間違いない、僕はそう理解しようとした…のだが、
…ッ…ッ
「…ん?なんだこの音?」
ドローンが出てきた場所から何か重量感がある足音のような物が聞こえてきたのでそっちに意識が向いてしまったのだ。
その音はそのままどんどん大きくなり、そして遂にステージの端から出てき…た…
「うぉ!…階段レベルの段差も軽々とか…まだまだ改良の余地があるシステムでコレなら完成したら絶対にヤバい事になるでしょ渉!?」
「別に問題ないでしょ?『メタルボーイ タイプ〈オリジン〉』、通称『MB〈O〉』は二足歩行による悪路走破を前提としたバッテリー式で1〜2人乗りの騎乗型多目的ロボットだからな。将来的にはギルドで量産と管理をしてもらって他の人のダンジョン攻略に役立ててもらう予定だから…てか夏美よ、途中から俺も一緒乗る必要あった?」
「さっきまで操縦席にシートベルトを付け忘れた事に気づかなかったお前が悪い、罰としてアタシが落とされないように後ろで支えててよ」
出てきたのは2.5メートル位の二足歩行で顔に当たる部分に三角形のプレートがあり、そこに3つのレンズがついて何故か回転しながら周りを見渡しているロボット。
そしてそのロボットの背中には何やら四角い籠みたいな物があり、そこから制帽を被り、首にゴーグルをつけた夏美さんと、その後ろで彼女を支えるように乗っている牙をむいている狐らしき口面を付けた渉さんがいて、ピンマイクをつけているせいか彼らの会話をマイクが拾い会場のスピーカーに大音量で会話内容を公開していた。
そして僕はこう思った。
『あ、コレはまたやらかしたなあの異常者』
っと。
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