第184話

「…まあ、許可したのは俺たちの総意だし今更どうこう言うつもりはないけどさ…やっぱりこう…実物を見せられると恥ずかしくなるな…」


俺がそう言うと口に付けていた口面の口が勢いよく開き、鋭い牙を見せながら本物の俺の口を出した。


「いや、それ自動で口が開くんかい!?」


「うん、なぜか意識すれば口が開く仕様なんだ…やっぱり制覇後のダンジョンから出た物だから普通の口面とはすこし違うみたいなんだよね」


そんな光景を見た叶はビックリしながら俺にツッコミを入れる、しかし俺はこのリアクションは予想していたので軽く返してからペットボトルを手に取ってから飲み始めた。

ペットボトルのお茶を飲みつつやタオルなどを見て思い出したのだが、実は今回初めて俺達のグッズを出す事にしたのだ。

今回用意した会場にてお茶やタオル、お菓子やキーホルダー他数点の〈狩友〉のグッズを販売したいとギルドから言われた際は流石に俺達の事を評価しすぎではないのかと疑ってしまった。

しかし、その際の売り上げのギルドの必要経費と俺達のギャラ以外は全て東京タワーの維持費に寄付すると説明を受けたので、それならばと俺達は〈狩友〉のグッズを作るのを快く許可して撮影までノリノリでこなした…のだが、やっぱり実際にグッズとして自分が手に持っていると恥ずかしさの方が勝ってしまう。


「…んっ…はあ、普通のウーロン茶だけと異様に飲みにくいな…」


「そお?私は気にしないよ」


「だな、アタシも気にしない」


俺がペットボトルのお茶をある程度飲んでから蓋をして拠点に送りつつそう呟くと、自分がプリントされた包装紙のお饅頭(茄子の着ぐるみパジャマ姿)の一二三と、同じお饅頭(人参の着ぐるみパジャマ姿)を持ちながら車椅子に座っている女性らしさと軍服を合わせたような装備を着ている夏美がそう言ってくる。


(…ミリアさんと夏美の装備…『Gourmet・Hunter・World』から作ったけど、かなり動きやすそうだな…)


俺はそんな夏美の姿を見つつ俺は口面の開けた口をまた閉じてからそう考えた。

『Gourmet・Hunter・World』は出てくるモンスターや植物、鉱石までが全て食べられる世界にて『食』の追求するのがコンセプトの狩りゲー作品だ。

そんな作品の特徴として『常識はずれの調理技術と調理道具』、『未知のブレンドスパイス』、『限りなく服に近い防具』が売りなのだ。

その中でも『限りなく服に近い防具』は凄く、もはや私服と変わらない物やコスプレと遜色ない物まであり、鎧装備以外なら全て揃っていると言っても過言ではないラインナップがゲーム内に存在している。

その為ミリアさんの装備である『戦闘用ヴィクトリアン風のメイド服(ノーマル仕様)』と夏美の装備である『改造軍服(女性型 スカート&スパッツ仕様)』を今回用意させてもらった訳だが、今の所は文句も出ないので恐らく注文通りの品物だから納得してもらえたのだろうと思う。


「…あ、そう言えば。ミリアさん、注文していたアタッシュケースと竹箒は大丈夫だった?しっくりきた?」


俺が2人の装備の事を思い出してそう聞くと、ミリアさんは笑顔になりながら少し離れた位置に置いてあったアタッシュケースを取りに近づきながら喋り始めた。


「ええ、大満足よ。アタッシュケースもかなり頑丈だし竹箒も今まで使っていたどの武器よりもしっくりきたわ。ありがとう渉」


そう言ってミリアさんは俺達のシンボルマークが彫られたプレート付きのアタッシュケースを持ち上げる。

あのアタッシュケースは頑丈さと軽量化を追求した一品で、市販のタワーシールドよりも硬く片手剣よりは軽くなっている。

勿論アタッシュケースなので中に物をしまえるようにしているのだが…正直盾代わりに使うなら要らない要素だと俺は思っている、しかしミリアさんがそこに何故か強くこだわりを見せていて、中が3×3の9マスになる様にスポンジとかでキチンと区切られている仕様になっている。


「ならよかった。俺としては盾がわりに使うのに何であれだけトランクの収納にかなりこだわったのかわからなかったんだよな…正直今でもスプリングとか仕込んで防御力と衝撃の軽減をしたいと本気で思ってたんだよね」


俺がそう言うとミリアさんは笑顔のまま俺を見てくる。


「あら酷い。そんなことしたら私の『Errorスキル』が使えなくなっちゃうじゃない」



「ああ、なるほど。スキルのためだったか、納得し










おい、そこのメイド。今なんて言った?」


俺はミリアさんの言葉に納得しかけたが、めちゃくちゃヤバい単語がサラッと出てきたので一気に真顔になる。


「え、スキルが使えなくなる?」


「ちがう、そこじゃない。もうちょい前だ」


俺の言葉にキョトンとした顔になるミリアさん。その様子を俺だけじゃなくこの場にいる全員が真顔でミリアさんをガン見していた。


「…ああ、そう言えば言い忘れていたわ」


するとミリアさんはおもむろにトランクを開けた。

すると中にあった9マスの全てに謎の光の粒子の渦みたいな物が発生していた。しかもその内の4つは白い粒子の渦で残りの5つは黒い粒子の渦、更に言えば4つの白い渦の内の3つの渦には15の数字が赤い粒子みたいな物で表現されていた。


「私、Errorスキルを持ってるの」


そう言うと、白い渦の一つの数字が15から14に減り、開いてるトランクを持つ右手とは反対側の左手に一本の投げナイフが現れた。


「『私だけの収納場所インベントリー』、条件が厳しいけどそれをクリアすると最大9マスまで片手で持てる物を最大15個までストックして持ち運べて自由に出し入れができるようになるスキルよ。

かなり面倒な縛りがあるからあまり強くは…


「いや、お前は一回全国の荷物の運搬に悩む人達とダンジョンに関わる人に謝ってこい!

物をストックできる時点だけでもヤバいのに持ち運びも手軽とか普通に強力なスキルだわ!!」


…あら?」


ミリアさんの説明に俺が力一杯にツッコミを入れる、そしてそのツッコミにミリアさん以外の全員が頷いてる光景を見たミリアさんは口を少し開けて放心しだした。

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