第181話

〜〜 7月25日 自宅 拠点内 〜〜



「…よし、夏美の義足のギミックはコレでよし…エイセンもオプションをつけて速度そのままで荷台をでかくしたから荷台に4人乗れる仕様にしたし…禁層用の武器と防具も余っていた深層と『禁層』の素材で作った…食料や医薬品とかも補助したし後は父さんが人数分の回復薬αとβを用意してくれるのを待つだけかな?」


「ダンナ、でしたら僕たちの『装備』の点検をして欲しいんですよ。一応僕達でできる範囲で整備はしていたんだけど、やはり本職に1番近いダンナに一度見てもらった方が良いと思うのですよ」


「なるほど、一理あるな…なら、皆に各自の装備を持って来てもらうように言って来てくれるかもち丸?」


「はいですよ!」


夏美とかの顔出し配信から数日が経過し、ダンジョンに挑むまで残り一週間となった。

そして現在俺はダンジョンに挑む為の準備の確認をしていた所で一緒にいたもち丸の提案で彼らの装備を見る事になり、もち丸は喜びながらコク糖とキナコの所に走っていった。


「そう言えば、今日まで色々とあったんだよな…」


もち丸を見送った俺はそう呟くと今日までに起こった事を思い出していた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「バウ!」


「クーン」


「よ、『朝日』に『日之出』。元気そうだな」


俺はこの日、上野動物園に保護されているニホンオオカミ達に会いに来ていた。

あの日、国の機関に彼らを預けた際に1番保護と飼育がしやすい場所としてこの上野動物園の奥の方にある特別な施設に保護される事になった。そして現在、彼等は一般公開はされず、例え飼育員や研究者も分厚いガラスごしにしか彼らを観察することしかできない状態なのだが、俺みたいな一部の人は実際に飼育している場所に入っていい事になっている為こうやって偶に会いに来ているのだ。だからこそこの二匹は俺にめちゃくちゃ懐いているし、こうやってくる度に横にピッタリと引っ付いて甘えてくるのだ。

因みに夫婦のオスの方の名前は『朝日』、メスの方の名前は『日之出』だ。この名前は天皇陛下直々につけてもらった名前なので別に文句はないのだが…



「「「「キャンキャン!」」」」


「アギャー!?尻尾を甘噛みするのはやめるですよ!?」


「お?腹を頭で押してくる…押し相撲か!なら負けねぇ!」


「あらあらまあまあ、可愛い子達だこと」


今全力でもち丸達に絡みにいっている生まれたての4匹の赤ちゃんまで天皇陛下が名前をつけようとしているのはどうかと思う。普通に一般募集とかでいいと思ってしまう。

実はメスであった日之出のお腹には4匹の新たな命がいたのだ、お陰で日本中に俺達のダンジョンの制覇の時みたいに激震が走り、日本中から名医と呼ばれている獣医達やら研究者やらが出産まで付きっきりで看病したりして凄まじい事になったらしい。


「ま、絶滅した筈の動物の個体数が増えるのは大事だしね…」


「ダンナ!変なこと言ってないで助け…て、僕の尻尾を噛む奴が増えたですよ!?」


「あらあら、丸ちゃんの尻尾を噛むのはだめよ〜」


俺はもち丸達を見ながらそう呟く、そしてもち丸は尻尾を甘噛みされて悲鳴をあげてキナコが助けに行っていた。

もち丸よ、一応その子は日本の宝そのものだから丁重に扱ってくれよ。


「あ!尻尾の付け根は敏感だから嗅いだり舐めるのは…アーーーー!?」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「…あ、クソ。歯車にヒビがある…前に無茶してメテオ落下したからかな…」


『ジー』


「滑車と弓の弦は問題ない…いや、弦の張りが少し弱い…それに開く際に変な音がしたから…多分何か挟まっているのかな?」


『『ジー』』


「あ、盾に戻した時に見えるここの傷を直すのを忘れてた。後で製鉄して直すか…」


『『『ジー』』』


「…いや、そんなに見られても作業がやりにくいだけなんですが…」


「「「お気になさらず、さあもっとその武器の中身を見せて」」」


「息ピッタリだなオイ!つか、先生まで混ざってみてるし!?」


俺は今、装備・道具科のクラスにて授業を受けていた。

俺は他の三人と違い、ダンジョン科と装備・道具科の二つに在籍している為に稀に二つの科の内の一つを選択して授業を受ける事になっているのだが、今日の装備・道具科の授業は自分が作った装備を一旦バラして点検するという授業内容だった為に前に作ったコンパウンドボウを内蔵したカイトシールドを持ち出してバラしながら確認していたのだが…めちゃくちゃ周りの目線が刺さる。

しかも授業をしている先生ですら俺の武器に興味津々の様だしもはやこの状態を止める人もいない、悩ましい限りである。


「…あ、やっぱり血と油で滑車の滑りが悪くなってたか…ならここをバラしてっと」


しかし、授業はキチンと受けなければならない。だから俺は周りの目線も気にせず半ばヤケクソ気味に盾をバラしていったのだった。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「最近、誰かに見られている気がするんだ」


「…は?」


俺は最近の悩みを相談すべく叶を俺の自宅に呼び出して悩みを相談した。


「…いや、注目されているのは元々だろ?別に気にする事じゃない…



「他にも俺の学校の机に顔を見せないように取られた俺の写真(裏に口紅でキスマークされている)が入っていたり、体育の授業の際に着ているジャージがときたま新品に変わっていたりするんだよ…」



今すぐ警察に行こう…いや、先に学園に連絡するのが先か?」


俺の更なる自白に俺の相談を聞いていた叶が真顔になりスマホを出した。

実は最近俺の身近で変なことが起きまくっている。

別に視線を向けられるならまだ理解できる、だが俺の机にキスマークと共に『いつもあなたの近くにいます。だから早く一緒になりましょうね?私のアダム』と書かれた明らかに盗撮された俺の写真が入れられていたり、体育の授業の際に着るジャージが授業後で偶に新品にすり替えられたり、トイレに入った際に真後ろに邪な気配を感じたりするなど様々だが確実に変なことが起こっているのだ。


「アレか、俺は何かに憑かれているんかな?…お祓いとかに行くべきかな?」


「いや、先に警察に行け。もしくは今直ぐに渡辺さんに相談しろ」


俺の言葉に真顔でそう言う叶。その後は言う通りに相談したら渡辺さんに怒られてしまい、警察にも相談する事になってしまったのだった。









「私のアダム、貴方は必ず私と結ばる運命なんですよ…ダカラ、何時モアナタノ隣ニイルアノ女ガ邪魔ナノヨネ…」



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



「…何故俺はこんな事を真っ先に思い出したのだろうか?」


「ダンナ、皆をよんできたのですよ!」


俺は思い出した思い出が何故この三つなのかと逆に悩み出したのだが、もち丸の声が聞こえたので意識がそっちに向いたのだった。

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