第180話
「…ふう、47分…なんとかなったな…」
「だけど、アタシのノーパソだとインストールに時間がかかるから拠点の外で作業する必要があるね。仕方がない事だけどさ…」
「…やっぱ熟年夫婦だろお前ら…」
あの後何とか作業を終わらした俺達2人、しかし新しいプログラムをインストールするのに夏美のノートパソコンだと時間がかかるので、悔しいが仕方なく今日は皆に渡すのを中断する事にして夏美をお姫様抱っこしながら叶達のいる中庭に出たのだが、また叶に熟年夫婦言われてしまった。
「叶、前にも言ったから説明は省くが別に何も問題はないんだ…よっと」
「うん、前にアタシも言ったけどコレがアタシ達の普通だったから別に気にしない…よっと」
「いや、やっぱり夫婦なんだよ。息ピッタリ過ぎてもはや自然体なんだよ」
俺達2人は叶の言葉に答えつつ中庭に追加で置いてある友狐達が作ってくれた木製のベンチ(基本は友狐達のお昼寝用)に座り、また夏美を股の間に置く。夏美もまた少し体を動かして位置を調整してから俺を背もたれにするように背中をくっ付けて体を預けて来た。
その光景を見た叶はまたそう呟くと頭に手をあてる。それに撮影している4つのドローンに流れているコメントも全てかなり速い速度で流れているが、見えた限りだと俺と夏美の行動に対してのコメントが大半をしめている感じだった。
「はい、夏美に渉。飲み物…て、渉は飲みにくそうだからストローを刺してからボクが持ってあげるね」
「サンキュー桜…お、アタシの好きなメーカーのブラックコーヒーだ」
「すまん、桜。助かる」
そんなコメントを見ていたところ、桜が飲み物を持って俺の隣に座ってきた。そしてそのまま俺達に飲み物をくれたのでお互いお礼を言って飲んだ…のだが、何故かコメントがさらに加速して流れはじめた。何だよ『女の戦いキター!』とか『私のアダムが汚される!?』とかコメントした奴、桜は確かに俺に好意はあるが夏美は違うだろうが。勝手に夏美をそう言った目で見るんじゃないよ、夏美に失礼だろうが…
「…ンッ…あー、カフェインが効くー!…そう言えばアタシに対しての質問とか募集したんだよね?今から答えていく感じ?」
「うん、ボクのドローンで選別した奴を3件ほど答えてくれればいいよ」
そして、俺の股にいる夏美がコーヒーを飲み終わると桜にそう聞く。桜もまたその言葉に直ぐに反応して自分のドローンを俺達2人の前に移動させて何やら操作しだした。
「えっと…よし、出たね。それじゃ夏美、コレから出てくる質問に答えてね」
「はいはい了解」
桜が操作し出して数秒後に桜がドローンの前から離れるとドローンに付いているスマホの画面が上下に別れて別々の画面を映し出す。そして上の画面に夏美への質問が映し出された。
「…『すみませんが、渉さんとはどういった関係なんですか?』…か、別に話しても問題ないよね渉?」
「ああ、別にいいぞ」
「あんがと…えっとね、アタシと渉は幼稚園からの幼馴染であり家が隣同士だったからかなり仲が良かったんだ」
夏美は俺のプライベートに関わる事なので一旦俺に話していいか確認を取ってから俺達の関係を話し出した。
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「…と、こんな感じの関係だね。だから今もそれは変わらないからこうして股の間に座らせてもらってるしね」
夏美は俺との関係性をあらかた話終わってからニシシッと笑顔になり背もたれにしている俺にもたれかかる。
「と言うわけでこの質問は終わり!次いってみよー!」
そして夏美はそのままそう言って隣にいる桜に次の質問を出すように促した、桜もその事に気が付いてそのままドローンを操作して次の質問を出す。
「『本当に障害者なんですか?ただ足を折り曲げたりして誤魔化しているんじゃないんですか?』…て、別に見たらわかるよな渉?」
「そうだな、一目でわかる特徴なのに何故この質問が来たのか分からないな」
俺達はそう言いながらお互い目線を合わせる。
正直にこの質問は俺にも理解不能だ、別に夏美を見れば直ぐにわかる事なのにわざわざ質問にする事なのだろうか…?
「ま、悩んでも仕方がないなコレ。質問して来た人、アタシは間違いなく両足がない身体障害者だよ。はいこの質問はこれで終了、最後の質問をお願い桜」
「わ、わかったよ夏美…夏美って意外とデリケートな部分をズバズバ言うタイプなんだね…」
夏美は取り敢えず割り切ったようで簡単だが間違いない返答を答えてから最後の質問を出すよう桜に促した。桜も夏美の行動にびっくりしながらも言われた通りに最後の質問を出す。
「『障害者がダンジョンに行くとか正気とは思えません。
貴方は死にたいのですか?死にたいのなら〈狩友〉のメンバーに迷惑をかけてほしくないのですが?』…か…うぁお、結構ズバズバ言うじゃん。結構好きだよ、こうゆう意見を言う人は」
夏美は最後に出てきた質問に少しオーバーリアクション気味に反応する。
まあ、別に間違った事は書いていない。例えパーティーを組んでいるとはいえ障害者がダンジョンに行く事自体が自殺行為と変わらないのは事実だ。
「…だけどさ、別にアタシは死にたいからダンジョンに行く訳ではないよ?」
だが、夏美に関しては話は別だ。夏美は子供の頃からの夢をようやく叶えられる寸前まできたのだ、だから夏美は死ぬつもりはないしここにいる全員は夏美を死なせるつもりもない。
確実に生きて夢を叶える為にこの場にいるのだ、だから夏美のこの質問に対しての答えは決まっている。
「アタシの夢は『予想すらできない位のスリルと達成感に満ち溢れた最高の冒険がしたい』だ。
だから道半ばで死ぬつもりはないし諦める判断もしない、アタシはようやく叶えたい夢に片手が届いたんだ…だから、後はたぐり寄せるだけだ。
それにさ…今、アタシの背もたれになっている人物の事を忘れていない?コイツは私達の常識をことごとく粉砕しまくってる異常者だよ?…だから大丈夫、アタシは必ずやり遂げる…!」
「いや、異常者扱いは酷くない?仮にも幼馴染何だが?」
夏美の言葉に俺はツッコミを入れた。しかし夏美は無言で口角をあげて笑顔になりながら背中に体重をかけてくるだけだった。
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