第178話

「大丈夫ですか〜?」


「おう、何故かめちゃくちゃショックを受けてるぜこの人?」


「良かったらお水をどうぞ〜」


「うわぁ!沢山の人がいる、撫でてもら…



「言質ゲット!」



やらかしってアー!!」


名無したちが一斉に剥製から離れると殆どの個体が膝から崩れ落ちた司会者のところに向かい、安否を心配していた。

しかし、数匹は周りの人の多さに感動して頭を撫でてもらおうと近づいて行く途中で一二三に捕まってそれぞれ悲鳴をあげながら狐吸いをされていた。


「こらこら一二三、落ち着いて」


「マダジバショウギダ(私は正気だ)」スーハースーハー


「あ…ああ…」


そんな一二三を落ち着かせようと桜は動いたが、時すでに遅く三匹ほどが一二三の餌食になってしまった。


「はは、ナイスカオス空間。面白くなってきたな叶」


「やりすぎだアホ」


俺は笑いながら叶にそう言い、叶からツッコミと脳天にチョップをもらったのだった。

なお、一二三に捕まらなかった何匹かはそのまま観客席のお客さんや番組スタッフの所にいって撫でてもらって満足していた。そしてそんな光景を一二三に捕まった3匹は死んだ魚の様な目で見ていたのだった。



〜〜 20分後 〜〜



「…つまり、ヴェロルは頭がいいだけじゃない。アイツらは仲間内での連携が得意なんだ。そのおかげで俺は初見で武器を奪われた挙句体を地面に拘束されて喰われる寸前までいった。

あの時は流石に死を覚悟したな…閃光玉を用意してて助かったよ…」


「まあな。アイツら配信だと雑魚扱いだけど普通に強いからな、例えるなら生身で腹すかしたライオンの群れと戦うもんだ。強いスキルやレアなジョブってだけで強気になっている奴が生半可な覚悟で挑んで死ぬなんてザラだから普通はあらかたビックボアで訓練してから挑む相手なんだよな…」


「だね、ボクも最初は苦戦したけど今はその時の経験があるから問題なく戦えるしね」


「ヴェロルは戦闘を教えてくれる先生みたいな生き物、買取価格も満額で20万だから素材の状態の良し悪しあっても平均12万前後は稼げるから狩るのに慣れればいい小遣い稼ぎになる」


「「「へ〜」」」


あの後司会者がなんとか復活したので名無したちは全員拠点に帰っていった。

その後はもち丸達が運んできてくれたヴェロルの剥製と俺達4人の情報を纏めた3枚の資料を観客席にいる人達へもち丸達が配り終わった後に俺達による現場の声を含めたヴェロルの解説がスタートした。

一応、一般的に知られている部分や実際に戦わないと分からない問題点や解決する方法も含めてみんなで話してはいるが絶対に一二三が言う12万前後はお小遣いにはならない、アレは某ハンバーガーショップでポテトを食う感覚で某フライドチキン屋でバケツを食う一二三だからこその金銭感覚だ。絶対にお小遣いですましたらいけない金額である。


「…以上でヴェロルの解説を終わります。ご清聴ありがとうございました」


そうこうしているうちに俺達によるヴェロルの解説が終了し桜がそう言ってお辞儀をしたので少し遅れながらも全員でお辞儀をする。そして観客席から拍手が巻き起こる中もち丸達がヴェロルの剥製と資料を回収し、台車に戻してからロープと布で固定し始める。


「んじゃ、もち丸達は荷物と一緒に先に帰っててくれ。後でずんだ餅作りに行くから」


「ヒャッハー!ずんだ餅ですよ、楽しみですよ!」


「了解、ダンナ。茶をしばきながら待ってるわ」


「了解ですダンナさん。私は狐吸いでぐったりしていた子が気になるからそっちを見ているわ」


俺がもち丸達にそう話すとそれぞれの反応を見せてから台車を押してシャッターから拠点に戻っていった。


「…あの、司会者さん。後5分くらい時間が余ったのでできればボク達からテレビを見てくれている人達に告知をしたいんですがよろしいですか?」


「え、それは…!…はい、大丈夫ですよ。どうぞ!」


俺がもち丸達を見送った後に桜が司会者にそう聞く、司会者も少し困惑していたがスタッフさんがOKと書かれたスケッチブックを司会者に見せていた。どうやら番組的にも大丈夫だったようだ。


「なら、三人とも。集まって」


桜は司会者の言葉を聞くと俺の右横に移動してから俺達に集まるように言う。

叶と一二三も真剣な顔になり、俺も久しぶりに緊張してきたので真剣な顔をして誤魔化す事にした。


「…うん、集まったね。では、ボク達〈狩友〉からテレビを見ている全ての人達に2つ報告する事があります…まず一つ目なんですが…ボク達〈狩友〉に新メンバーが2人加入したので紹介させてください」


そして、桜の発言に観客席の人どころか渡辺さん以外の人達全てが一気に騒がしくなる。

まあ、それだけ俺達のパーティーが注目されているのだと再確認させられるので悪い気はしない。

そして、シャッターの向こう側から何かを押す音と人影が見えてきた。


「…え?…ええ!?」


そして姿がはっきりと見えてくると司会者はかなりビックリしたのかその場でオーバーリアクションをとった。

観客席の人達も徐々に見えてくる人物にザワザワと騒ぎ出した。

しかし、俺達は真剣な顔のままシャッターから出てきた2人を出迎える。


「…おまたせ、待ってたか?」


「いや、機械鳥って奴をバラしてたから意外と楽しくてもっと時間が欲しいくらいだった」


「全く、夏美はあの手の物に目がないんだから…」


2人が拠点から出た事で拠点が閉じ、俺は出てきた2人に軽く挨拶をしてから手招きで前に行くように誘導する。ミリアさんはその誘導に夏美の車椅子を押しながら従い、俺達の前に出た。


「皆様、初めまして。この度〈狩友〉に加入させてもらいますミリアと申します。よろしくお願いします」


そしてメイド服を着たミリアさんはその場でお辞儀をして挨拶をして、


「どうめ、アタシは夏美だ。見ての通り生まれつき両足が無い身体障害者だがこの度〈狩友〉に加入した、よろしくな」


タンクトップにジーパン姿で車椅子に乗っている夏美が片手をあげて挨拶をした。しかし周りの人は夏美の両足…膝から下のジーパンが玉結びでまとめられているのを見て更に困惑している。

だが、番組終了まで時間も残り少ない。だから俺は急いで夏美の隣に行く。


「言いたい事は山ほどあるだろうが、今は時間がない。だから後日叶達の配信で答える事にするからすまないが今から言う二つ目の発表を聞いてくれ」


俺がそう言うと周りのざわめきが少しずつ収まってくる。

そして、同時に叶達もまた俺の横に並び出す。

ざわめきがある程度収まったと同時に、俺は全員に聞こえるように大声で宣言した。


「…では二つ目の報告なのですが…












今年の8月2日にここにいる〈狩友〉のメンバー全員で『東京タワーメインデッキ内ダンジョン』を攻略します、勿論ダンジョンを制覇するのが目的ですのでどうかその日まで何が起きるのかお楽しみに待っていて下さい!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る