第177話
〜〜 side 佐藤 渉 〜〜
「全く、ダンナは酷いですよ!コノコノ!」
「はは、やめてくれもち丸。くすぐったい」
シャッターから荷台ごと出て来たもち丸達だが荷台を止めてすぐにもち丸が俺の体を上って頭に張り付いてからおでこを肉球でペチペチと叩き始めた、どうやら自分達よりも先に行った事に腹を立てているのだろう。可愛い相棒だ。
「…あの、渉さん。すみませんが質問してもいいですか?」
そんなやり取りの最中でも、俺達に予備のマイクを配ってくれるスタッフさんに感心していると、司会の男性が声をかけてきた。
そして俺はもち丸のペチペチ攻撃を受けながらも渡されたピンマイクを渡辺さんに教わった通りにつける。
「はい、大丈夫です…って、もち丸。すまないがもうやめてくれ、喋りにくい」
「ふん、後で僕達三匹にずんだ餅10個ずつで手を打つですよ!」
「はいはい、わかったからもうやめなさい」
「はーい!」
俺がもち丸の要求を飲むともち丸は大人しくなる、現金なやつだと俺は思いつつ司会者の方を向いた。
「すみません、お待たせしました」
「いえ、別に大丈夫なのですが…あの、私は〈狩友〉の皆さんが来られるのを知らなかったのですが、どうしてこの場にいるんですか?」
「それに関しては私が説明します。実は…」
俺と司会者の会話に渡辺さんが割って入って説明を開始する。
まあ、今回俺達がテレビに出演をした理由はさっき渡辺さんが言った通りモンスターの解説に適任だからだ。
俺達〈狩友〉は有名なチームだ、そんな俺達だからこそダンジョンの魅力や危険性を説明するのに適任だと判断されてスタンバッてた…というのが『表向きの理由』だ。
本当の狙いはテレビ局内のスパイを炙り出すのが目的だ。
前回テレビ局にハッキングを仕掛けた組織は未だ不明だがハッキングの際にテレビ局のパソコンにハッキングする為のプログラムが入ったUSBメモリーが直接サーバーに使用されたのが判明した。
実際にサーバーに挿しっぱなしにされたUSBは回収されたのだが指紋などの犯人に関する情報は無く、監視カメラの映像も改ざんされて修復不可能だった為にどうしようもない状態だった。
だからこそ逆に俺達があえてサプライズゲストとして番組に出演する事で犯人に何かしらのアクションを起こしてもらい、現行犯で取り押さえようというメチャクチャな作戦をする事になったのだ。
もちろん白と断定された人達にはキチンと作戦の事は伝えているし番組が始まった時点で私服警官やギルドの職員が監視の目を光らしている為安全性はある。
そして今回はその犯人が出てくるように『餌』も用意した。
「…と、言うわけで私達ギルドからの要請で彼等に来てもらった次第です」
「なっなるほど、分かりました…が、すみませんがもう一つ分からないことがありまして…」
司会者の人が渡辺さんとの会話中にもち丸達を見て…いや、俺達以外全員がもち丸達を見ている。
「もち丸、お呼びだ。挨拶をしてやってくれ、もちろんコク糖とキナコもな」
「了解ですよ!」
「はいはい、了解だダンナ」
「はーい♪」
俺の頭にしがみついているもち丸と台車の近くで周囲を警戒していたコク糖とキナコに俺はそう言う。
すると三匹はそれぞれ返事をしながら司会者の元に向かった。
「どうも、知らない人。僕の名前はもち丸ですよ。ずんだ餅が好きな友狐のイナリですよ、よろしくですよ!」
「俺はコク糖、タマモだが魂はイナリだ。タマモって舐めた奴は頭に頭突きをかますからよろしく」
「あらあら、私はキナコ。純粋な乙女の心を持つ『イナリ』よ。子守りや家事が好きだからよろしくね♪」
「友狐?…イナリに…タマモ?」
司会者の人にもち丸達が挨拶をする。その挨拶の後に渡辺さんがため息をつきながらテレビのカメラに向かって説明を始めた。
「おい渉、俺はコク糖とキナコの性別を知らなかったんだが?」ボソボソ…
「すまん、言い忘れた。ごめん」ボソボソ…
その説明の最中に叶が小さい声で話してくる、確かに仲間内でも彼等の性別についてキチンと話していなかった。それは俺の落ち度だからキチンと謝る。
(だが、コレだけのインパクトだ。頼むから食いついてくれよ?)
しかし、俺は彼らが予想以上に餌としてインパクトを出してくれたのを見て今回の作戦が上手くいくのを願う、正直相棒達をこうやって晒すのは不本意だがこうしないと次に何をしてくるからわかったもんじゃない。だから全員の身のためにも今回は断腸の思いで彼等をテレビに出したのだ。
「…つまり、彼らは友狐と呼ばれる渉さんのスキル内で生まれた新しい種族であり、イナリはオスでタマモはメス…でいいんですよね?」
「はい、間違いありません。ですが、これ以上の説明は私はできませんので渉様からお聞きいただけると幸いです」
そう渡辺さんは俺に説明をするように促してくる。
まあ、タイミング的にはバッチリなので俺は一歩前に出て話しだす。
「ああ、軽くだが説明する。
友狐は俺達人類と共存できる頭がいい種族だ、一匹ごとにキチンと性格は違うし会話もできるからコミュニケーションもキチンと取れる。因みに…」
俺がそう言うと台車にかけられていた布がひとりでに動き出す、周りの人も少し悲鳴をあげ始めた。
俺は苦笑いをしながら台車に近づき、布を剥がした。
「現在、彼らは全体で80匹ほどいる。それにこうやって頼めは言う事を聞いてくれるいい奴らなんだぜ?」
「「「こんばんは〜!」」」
布を剥がすと神社の関係者を除く60匹の名無し達が教材用に持ってきてもらったヴェロルの剥製にしがみ付くように張り付いていた。
そして名無し達が全員が一斉に挨拶をすると司会者の人が何故か膝から崩れ落ちてしまった。
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