第176話

〜〜 7月3日 夜 side 多田野 藻武蛇世 〜〜



〈…という訳で例えダンジョンで1番狩りやすいと言われているビックボアでさえ突撃を食らえば下手したら軽自動車に正面衝突した時みたいに最悪死亡してしまいます。だから普通は三人位で攻撃する対象を増やして混乱させてから集中攻撃をするのが基本的な戦い方になるわけですね〉


〈へー〉


「…あ、そっか。普通に稼げる人なら危険なダンジョンにいこうなんて考えないもんな、そりゃこんな反応にもなるか…」


僕はそう自宅にある自分の部屋でベッドに腰掛けながらTVを見ていた。

今は7月、夏休みまで後一ヶ月を過ぎた。そんな中で僕はこうやってゴールデンタイムに放送されているダンジョンの魅力と危険性について語り合う生放送を見ていた。


「まあ、新しい制度が出来てから初めての夏だから警告も兼ねてこの番組を放送しているのは分かるし勉強にもなるからありがたいんだよね」


僕はそう言うとテレビを見ていた。

新制度導入によるダンジョンに対する制限は確かにいろんな人達がダンジョンを攻略する際の妨げになった。しかし、そのおかげでダンジョンで死亡する人やトラブルなどが減ったのは事実でもあった。故に国としてもこの際にキチンとしたダンジョンの知識を番組や雑誌などで公開して正しい知識を身に付けてもらおうと言う動きが活発化したのだ。

故にこの番組では浅層に出てくるモンスターなどを中心に放送している、僕の知っている事や僕も知らなかった事が同時に学べて勉強にもなるから一応録画もして後で見返せる様にしていた。


〈…では次に攻撃的であり肉食でもあるヴェロルについて学びたいのですが…ここでサプライズゲストを呼んでいますのでお呼びします。

ギルド職員の渡辺さんです、よろしくお願いします〉


〈はい、よろしくお願いします〉


「うぁ…見た目活発そうな人なのに落ち着いてるな…」


続いて浅層の壁とも言われているヴェロルの事を話そうとした段階でサプライズゲストが呼ばれ、僕はその呼ばれた人を見てそう呟いた。

ゲストに来た人は見た目は陸上部にいそうな活発系で日焼けしている女性に見えるのだが、喋り方がめちゃくちゃ落ち着いた女性の為にかなりのギャップを感じてしまう。


〈では、渡辺さん。早速ですみませんがヴェロルについてお話ししてもらってもよろしいですか?〉


〈はい構いません…と、言いたいところですが私がこの場で説明しても普通に調べればわかる事しか分かりません…ですので…〉


渡辺さんと言われた人はそのままスタジオのセットとして存在していた『ほんの少しだけ開いていたシャッター』の前まで歩く。

司会の人も予想外だったのか少し慌てていた。


〈最もダンジョンに詳しい人達にお話を聞かせてもらいましょう〉


そして彼女は屈んでからシャッターを掴み、音を立てながら上にあげた。


「…は?」


その瞬間、生放送にも関わらず番組全体が時が止まったように静かになり、そして僕は映っている映像を見て自分の目を疑った。

何故ならシャッターを上げた先には大きな湖に教会のような建物、そして農場と神社みたいな建物に月が二つある光景が広がっていたからだ。

そして…


ギュラギュラギュラ…


「キャタピラの音…!」


静まった番組だからこそ響くようにキャタピラの音が聞こえて来て、数秒後には何度も見た事がある乗り物が見えてきた。

そしてシャッターの近くで乗り物は止まり、4人組が降りてくる。


〈すみません、皆様。予定より3分遅くなりました〉


〈問題ないですよ。ボク達は待っていただけなので〉


〈寧ろもう少し遅くても良かった。渉の『新作料理』をもっと堪能したかった〉モグモグ


〈いや、やっぱお前凄いわ。まさかアレを食材にできるとは…〉モグモグ


〈ダンジョンの環境で生き残るには水と食料は必須、故に新しい調理法を編み出せば食べれる幅も増えるから生存確率が上がる。狩りに関わる事に俺は全力を尽くす俺だから料理にも全力を出すんだよ…後、田中さんに少しでも追いつきたいしな…〉


「…うっそーん」


そしてシャッターから出てきた4人に僕は言葉を失った。


〈皆様、すみませんが自己紹介をお願い…あ、マイクがない…なら私のを使って下さい。どうぞ〉


渡辺さんはそう言うと彼らのシンボルマークが描かれた腕章と執事服のような装備を装備した桜さんに自分のマイクを渡した。


〈どうも…あ、始めまして。〈狩友〉の2人のリーダーの1人をさせてもらってます桜です。よろしくね〉


桜さんはカメラ目線でウインクをしてから次にライダースーツの上に背中に彼らのシンボルマークが描かれた猫耳パーカーを装備している一二三さんにマイクを渡す。


〈ん…私は一二三、〈狩友〉のメンバーの1人。よろしく〉モグモグ


そして一二三さんは無表情だがハムスターのように両頬を膨らましつつ片手に何かの串焼きを持って挨拶をした。


〈次は俺か…ども、〈狩友〉のメンバーの1人の叶だ…て、マジコレうめぇ…〉モグモグ


その次にマイクを受け取ったのは紫色が特徴的な和装を着た叶さん、こちらもまた片手に串焼きを持っている。


〈また最後か…ああ、どうも。〈狩友〉のもう片方のリーダーをしている渉だ。急な登場に困惑していると思うが番組が終わる30分の間だけだからよろしくな〉


「やっぱり〈狩友〉かい!?」


最後にマイクを受け取いたのは一言で言えば和装軍服みたいな装備を着ている渉さんだった。

僕はシャッターを開けた時から見えた光景の時点で薄々は感じてはいた事が確信に変わったので思わず声に出して突っ込んでしまう。


〈か… 〈狩友〉!?〉


司会者もまさかの人物達の登場に叫び声をあげた…が、それはコレから始まる爆弾発言と常識を超えた情報のオンパレードとなる彼らの30分間の独壇場の前触れだった。

何故なら…











ゴロゴロゴロゴロ…


「え。何の音?」


突然シャッターの中の空間から何かが転がっている音が響いたのだ。

そして次の瞬間!


〈ダンナ〜、僕たちを置いて先に行くのは酷いですよ!もう少し速度を落としてもいいと思うのですよ!!〉


〈クソッ!俺が引く台車より速いだと!?…こりぁ、鍛え直しだな…〉


〈ハイハイ、2人とも会話をする元気があるなら足を動かしてね。ダンナさんに頼まれた『標本』とかを届けないと皆困っちゃうんだから?〉


「…え?何だあの二足歩行の…狐?」


そこには二足歩行する白色、黒色、金色の三匹狐みたいな生物が石とロープと木材で作られた台車を全員で協力して押しながら渉さんの所に猛スピードで走ってくる光景が映し出されたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る