第174話
「…うし」
叶は落ち着いたのか一気に真剣な顔になり、前の2人を見る。
そして審判が三人の間に立った。
「それでは…試合、開始!」
その言葉と同時に刀を持った女性が叶へ一気に近づく。
俺はあの子は昔に配信を見たことがある、確か抜刀術をメインに戦闘をするはずだ。なら…
「…『置楯』」
「!?」
「…まあ、叶ならそうするわな」
叶は冷静にタイミングを見計らい彼女の足元に置楯を発動、そのまま相手を上に押し上げて体勢を崩す。
禁層のモンスターですら手を焼いた叶の置楯だ、女性もコレには反応できなかったのかそのまま持ち上げられて武器である刀を手放してバランスを崩し、仰向けに倒れた。
「借りるぞ?」
「え!?」
叶はそのまま置楯を消して落ちていた刃が潰されている刀を回収、棍棒を持つ男性に突撃をする。
「うあぁあ!?」
叶がコチラに向かってくるのが恐ろしくなったのかその場でめちゃくちゃに棍棒を振るう男性、しかし棍棒が重すぎるのか振るう速度が遅い。
「…そこ!」
「ハガ!?」
振るった時の隙を叶は見逃さずに相手の鳩尾に突きを放ち、そのまま棍棒を手放して仰向けに倒れてうずくまる男性。アレではもう戦闘はできない。
「…ココだな」
「な!?」
すると叶は何故か振り向かずに刀を後ろに構える、するとそこにいつの間にか近づいていた女性が刀の鞘が当たり、叶の持つ刀にヒビが入るも彼女の攻撃が止まる。
「…刀を奪われても即座に鞘で抜刀術による奇襲、彼女は確かに強いけど…相手が悪かったね」
「桜の意見に同意、叶はただでさえ禁層で戦ってバリバリに戦闘経験を積んでいるのに私と一緒に戦闘できるくらいの反応速度と判断能力がある。あれ位なら反応できて当然」
そう桜と一二三が言う。確かに叶は元々判断能力も反応速度も人より優れていたしリサーチも欠かさない性格だ。
それに加えて前回のダンジョンの攻略をした際に戦闘経験をメチャクチャ積んでいる、今の叶なら殺気を出してしまえば大体の攻撃する位置くらいまでなら予測できるだろう。
その状態で叶は横に回転、彼女を吹き飛ばすのと同時に彼女の方を向く。
「チェスト!」
そしてそのまま刀を上段に構えて彼女に突撃、刀を振り下ろす。
「チィ!」
しかし彼女もまた叶の顔面に向かって素早く鞘で横薙ぎを放つ。
「…あっ…」
「おふぇのふぁちぶぁ(俺の勝ちだ)」
だが、叶はその斬撃を何と歯で噛んで止めた。彼女もまさかの事態に呆気に取られている隙に叶は彼女の頭上辺りで刀を止める。
「…桐城は戦闘不能と判断し、勝者 叶!」
その光景を目にした審判はすぐさま叶の勝利を宣言し、周りも歓声に包まれた。
「私が…負けた…」
「んぁ…あ、前歯が折れた」
叶に負けた事にショックを受けてその場に座り込む女性、そして叶もまだ鞘を口から離した時に自分の前歯が折れている事に気がつき、ショックを受けていた。
「…ま、いっか。取り敢えず…ほい」
「え?」
だが、叶は直ぐに考えを切り替えて彼女に振り向き手を伸ばす。
彼女はそんな叶の行動に一瞬呆気に取られたていたが、叶が笑顔で手を差し出しているのを見て渋々その手を取る。
そして叶は彼女を優しく起こし…
「ナイスファイト!流石に鞘であの威力は予想外だったわ」
「…」
彼女を労った。そして叶はそう言うとまた振り向きコチラに向かって歩いてくる。
「ま、待って!」
そんな姿を見た彼女が叶に声をかけた為に叶は足を止める。しかし彼女の方へ体は向けていない、背中を見せるだけだ。
「一つだけ教えて?…貴方は刀を振るう時に何を思うの?どう思ったらそれだけの覚悟と強さを持てるの?」
「…」
彼女の言葉に叶は少しの間沈黙する。そして、
「俺の刀は仲間を守り、俺を見ていてくれる全ての人を笑顔にする為にある。
だから俺はコレからも強くなり続けるし負けられないんだよ、負けたら仲間を危険に晒す事になるし、何より俺を見てくれている人が悲しむのは俺自身が自分を許せなくなる行為だからな」
「…強い…のね…貴方は」
「おう、何せ俺は〈狩友〉の盾であり亡き弟の願いを背負ってるからな。
だから俺は今よりも絶対に強く、硬くなる…守りたい物を守る為にな」
叶はそう言うと振り向かずにこちらに向かって歩いてくる。
そして俺の前に来て、開口一番…
「すまん渉、回復薬β持ってない?…あ、別に歯が治る薬でも可」
「いや、さっきまでのイケメンムーブが台無しだよ」
台無しな言葉を言った。
さっきまでのカッコいい叶は消え去り、完全にいつもの叶に戻っていた…のだが、
「…ふむ」
「ちょ、一二三さん!?」
何故か一二三が叶を後ろから抱きつき、そのまま何かを確かめるようにめちゃくちゃ手で触っている。
叶も一二三の行動にビックリしたのかそのまま驚きの声をあげた。
「…うん、骨とか傷は無いから大丈夫。つまり前歯以外はたいした怪我は無い…と」
「ひっ一二三さんや、アンタ何してはりますの!?」
「唯の身体チェック、別に気にするな」
どうやら一二三は一二三なりに叶の心配をしていた様だ。
…だが、こうも叶が焦るのも珍しいからみてる分には面白い。あの時の叶と一二三の気持ちが今なら分かる気がする。
「…後、一応牽制も必要だしね…」
「…牽制?」
「叶にはまだ早い。取り敢えず保健室にGO」
そして、叶と一二三はそう話すと一二三が叶をダンベルの様に持ち上げて保健室に向かって走り出した。
俺と桜ももがく叶と無表情でダッシュする一二三を見て正直笑ってしまっていた。
だからだろうか、この時折れた前歯を拾って胸に押し当てるようにしながら叶に対して熱い視線を送っている黒髪ポニーテールの彼女に気がつかなかったのは。
そしてのちにこの事で俺達が京都の清水の舞台ダンジョンを攻略する事になってしまう事になるのだが…それはまた別の話である。
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