第172話
「…俺は正直に言えば渉は急ぎすぎているようにしか見えないんだが…何かあるのか?」
少しの沈黙の後に叶が口を開く、正直に言うとそれは当たりだ。
「ああ、当たりだ。渡辺さんからの情報でな…最近ダンジョンでの犯罪行為や無理な行軍による死亡事件が増えた事を国が重く見てな、今年の6月からダンジョンでの取り締まりが強化される事になるんだよ。
その中には『ダンジョンを攻略する場合は事前に申請してからの抽選形式になる』事と『ダンジョン一つ一つに月に禁層へ挑める回数を制限する』事という制度が新たに導入されるんだ」
「…話を続けてくれ」
俺の言葉に叶は勿論、この場にいる全員が真剣な顔になり俺を見る。
俺は今度はもち丸達に別の資料のコピーを全員に渡すように指示してからうどんをかっこんだ。
さっきも言ったが今の日本はダンジョンを2回も制覇した為に全体的に景気が良くなった、しかし光がある所には影ができる様にダンジョン内での犯罪や死亡事件が増加していってしまったのだ。
祝勝会の時の資料のような事が全国的に広がり、更に食料や装備の盗難や強盗、法外な食料などの取引や帰還用ポータルの独占などもより問題となった。
他にも最速で攻略する事を理由に実力が追いついていないにも関わらず強行で次の階層に進んだり、自分を襲おうとしているモンスターを他人に押し付けて自分は先に進む行為など様々な迷惑行為が横行、多数の死亡者と逮捕者が出てしまったのだ。
故に国としてもこの問題を深刻に考え、ダンジョン攻略の流れを妨げる事になってしまうが人命を最優先する事にしたのだ。
「だから国はダンジョンを攻略する人を抽選式にして人数を絞り、ダンジョンごとに挑める人数を決めてワザとバラけさせるようにしたのさ、更にダンジョン内で食料などを販売するのも違法行為にするらしい。
しかもこのルールを破ると例えダンジョンを無事に制覇して即座に逮捕されて裁判沙汰、軽くても5年はムショ行きだって言ってた」
「あらあら、ダンナさんの口の周りがカレーまみれ…はい、おしぼりですよ〜♪」
「ちったぁ落ち着いて食えよダンナ…ほら、お冷だ」
「あ、ありがとう。キナコにコク糖」
俺はキナコ達からおしぼりとお冷を受け取りつつ話を続ける。
「つまり、俺が言いたいのはこの制度が導入されるのが6月だ。
しかし新しい制度だから浸透するのに時間はかかるだろうし、何より今の状況を考えると夏休みで長期休暇の人が多くなる8月に申告をしないでダンジョンに挑む奴は必ず出てくる。
だからあえて俺達が正式な手順を踏んで8月にダンジョンを攻略したいのさ。
現在世界中で唯一ダンジョンを制覇できるのは俺達〈狩友〉だけだ、だから俺達がキチンとした形でダンジョンを攻略する事で皆の見本になりたいんだよ。
俺はこれ以上皆がいがみ合ってダンジョンで狩りをしてほしくないんだよ、それに例え無事にダンジョンを制覇できたとしても無申告と言う理由で逮捕されるのも見たくない。
だから俺達がまず見本を見せて、それを参考にしてもらいつつ楽しく狩りをしてもらいたいんだ、だから早めに行動を…できれば8月には動きたい。
これ以上犠牲は出したくないし、出てほしくないんだよ」
俺の言葉に皆が黙る。
そして…
「…はぁ、そう言う事は早めに相談しろよな。何のためのチームなんだか…」
「叶」
叶はそう言い、
「俺は渉の意見に賛成だ。確かにこれ以上の犠牲が出るのを少しでも止められる手助けになるならやる価値はあるし、何より夏美の夢を叶えてあげたいしな」
叶はオレの意見に賛成してくれた。
「私も賛成、夏美の件もそうだけどこれ以上ダンジョン内がギスギスするのはメシマズ案件だから」
「ボクも賛成。かなり強行軍だけど夏美の夢と国民の安全と国の依頼、この三つを叶えることができるんだ。やらない道理はないよ」
そして直ぐに一二三と桜も賛成してくれた。そして俺達四人の視線はミリアさんと夏美に向く。
「…ふふ、超有名な〈狩友〉に入れる機会なんて宝くじに当たるより難しいんじゃないかしら?…勿論、私は〈狩友〉に参加させて貰うわ」
俺達の視線にミリアさんは笑顔でそう言う。
「…バカばっかだな…アタシの夢と国の問題、全部ひっくるめて叶えようとするなんて…」
「夏美…」
夏美は下を向いてそう呟く、その言葉に俺は反応しつつ心配になってきた。
「…まあ、アタシもそんなバカの1人なんだけれどね」
だが、心配は無用だった。夏美は直ぐに顔を上げて太ももを両手で叩く。
「現段階だとコレをつけた状態では戦闘みたいな激しい動きを私はできない。
だけど、8月まで猶予があるならダンジョンに入る為の試験と並行して特訓すればいい。幸い身体障害者が入る場合の試験内容は筆記と解体だけだから何とかなる…いや、何とかする」
そう言うと夏美は真顔になる。
「だからお願いします、アタシを〈狩友〉に入れて下さい。
アタシの夢、絶対に諦めたくないんです!」
そう言うと頭を下げる夏美、俺達は全員笑顔になり、
「「「「ようこそ、〈狩友〉へ!」」」」
全員が揃ってそう言った。
すると顔をあげて照れ始める夏美。しばらくその状態が続き…
「…あ、ならアタシから一つ提案があるんだけれどさ…」
夏美からある提案をされたのだった。
〜〜 22時 〜〜
「…ふう、ようやくみんな帰ったか…あれ、もち丸達がいない?どこに
「隙あり」
んむっ!?」
話し合いが終わって皆が帰るので玄関まで見送ったのだがもち丸達が居ないのに気がついて探そうと振り向いたら、帰った筈の桜がいてまたキスされてしまった。後また首に跡が追加された。
後日理由を聞いたら
「夏美ばかりかまっていたから少しムカムカしてやった。ごちそうさまでした」
と言われた。
「うぁお!アレ間違いなく舌を使ってるですよ!流石は未来のアネゴですよ!」
「…」プシュー
「あらあら、コクちゃんはウブね。だからタマモなのに男勝りな性格は直しなさいって言ったじゃない?」
「だまれキナコ、俺は魂はイナリなんだよ」
なお、只今寝室の扉から覗き見しているアホ狐三匹は桜の作戦に乗った共犯者の模様、故に後日メチャクチャ説教した。マジで見てないで助けろや。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます