第171話

「…グスッ」


「ガチ泣きか…久しぶりに見たよ…」


俺はそう言いながら抱きついている夏美の頭を撫でる。

夏美は自分の足を欲していた。それは彼女の昔からの願いでありながら叶わないはずだった事だった。だが俺がその夢を叶えたのだ、こうもなろう。


(…ま、コレで夏美の二つの夢の片方は叶えた。ならもう一つの方を叶えるだけだな…)


正直この調子なら俺が考えていた2つの件の最大の障害であった夏美の足と体力の問題はクリアできそうだ。

ならばこのまま夏美に聞くしかない、夏美があの夢を捨てていないのなら直ぐに答えるはずだ。


「…夏美、足は手に入れた。

だからあえて聞く、お前は次に何をしたい?」


俺の問いに夏美は泣くのを徐々に抑えていく。


「…したい」


そして掠れる声で…


「『予想すらできない位のスリルと達成感に満ち溢れた最高の冒険がしたい』!」


間違いなく昔に聞いた夢を言った。


「…その言葉が聞きたかった」


そう言うと俺は口角を上げて反応した。



〜〜 18時 〜〜



「…すまん、もう一回言ってくれ」


「私も聞きたい…あ、お代わり。2玉で」


「ボクも聞きたい、流石に予想外だからね」


夏美が泣き止んだ後に一二三のお腹がなったので俺達は用意していたカレーうどんを食べながら会話をしていた。

一応言っておくが流石にこのタイミングでは夏美は俺の股の中にはいない。夏美は桜とミリアさんの間に座っている。

そして今、この場にいる全員はアイランドキッチンでうどんを茹でている俺に視線を向けていた。


「ああ、俺は夏美とミリアさんを〈狩友〉に勧誘したい。そして『8月』にまた『ダンジョンを攻略したい』と思っている。」


俺は水を沸騰させた鍋に冷凍の白玉うどんを2玉

入れながらまた同じ事を言う。


「…理由を聞いてもいいか?」


叶がそう言うと皆が頷く。確かにいきなり2人…特に今日歩ける様になった夏美を俺達のパーティに勧誘するのはいささか早慶な判断だと思うし、いきなり8月にダンジョンを攻略したいとも言い出したのだ。そりゃ理由の一つも聞きたくなるのは当然だろう。


「理由は簡単、『夏美の夢』の為と『国からの依頼』の為だ…もち丸達、すまないが全員に例の書類のコピーを渡してくれ」


「了解ですよ!」


俺はそう言うともち丸達は部屋の隅にある小分けした書類を持って夏美とミリアさん以外に渡す。

そして叶達はしっかりとその書類を読んでいった。


「…なるほど、国益に関わるから国はボク達にこんな依頼の提案をしてきたんだね?」


「ああ…ま、この依頼を受け取ったのは昨日なんだが、その時に渡辺さんに聞いたんだ。この依頼の最大の原因は俺達が『国の負債の2%を減らした』のが原因だって…」


桜が書類を読みながらそう言うので俺は更に説明を追加しながらうどんを茹でる。

去年の夏のダンジョン攻略で国が得た利益はかなりの物だった。

更に12月に行われたオークションは俺達全員の総意で売り上げの9割を国の負債に当てて残りの0.6割を恵まれない国への支援、0.4割を俺達に支払う形にした。

その為夏に得た利益と冬に得たオークションの利益を国が返済に回した結果、国の負債額の2%が返金された。この事は勿論ニュースにもなったので誰でも知っている事なのだが更に自体は良い方向に進んだ。海外からの観光客やダンジョンに挑む人が増加、日本産のモンスターの素材の高騰、日本への移住に伴う土地や一軒家、マンションの売り上げが伸びたりと日本全体で景気が良くなっているのだ。

国的にもこの好景気はできるだけ長続きさせたいと思っている為にその原因を作った俺達〈狩友〉に是非これからもダンジョンに挑み、制覇してもらいたいと考えたそうだ。


「因みに何故俺の所にしか依頼の話が回っていないのかと言うと、俺しか一人暮らしをしていないからだそうだ。

この依頼は国の今後を左右する依頼だから本人達以外にはたとえ家族でも見せる訳にはいかない、だから一旦俺に回してから説明して欲しいって渡辺さんに言われたのさ…ほい、一二三」


「なるほど…ありがとう」


俺は一二三に追加のカレーうどんを渡しながらそう言う。


「それに加えてさっき夏美が自分の口から言ったろ?

『予想すらできない位のスリルと達成感に満ち溢れた最高の冒険がしたい』って、アレは夏美と一緒にいた頃からずっと言っていた夏美の夢なのさ。

でも夏美には足がなかった、でも今は俺が作ったからこの夢に挑戦できる条件が整ったんだ…でも、正直夏美だけ勧誘しても俺達だけじゃ夏美まで守り切れる自信はない。だから俺から離れてからずっと夏美を守り続けてくれたミリアさんも勧誘したいのさ。それにミリアさんには叶と一緒に防御中心で立ち回ってもらえたら更に戦闘は楽になる。そう考えたのさ…と」


「はい、割り箸ですよダンナ」


「サンキュ、もち丸」


俺は自分の分のカレーうどんを用意して、もち丸から差し出された割り箸をもらってから席に座り、うどんを食べ始める。


「…うん、うまい…っと、つまりはそう言う事だ。

だから皆に聞きたい、夏美とミリアさんを勧誘する事に賛成してくれるのか。

そしてもし、皆が賛成してくれるのであれば改めて2人を勧誘したいと申し出たい。

だから教えて欲しい、2人を〈狩友〉のメンバーに勧誘してもいいかをね?」


俺がそう言うと、三人は考え始めた。

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