第170話

「…まあ、取り敢えず説明はこんな所かな?」


「…なるほど、理解したがギルドには報告したのか?」


「ああ、そこは問題ない…のだがな…相談した渡辺さんは流石の状況に一時意識がなくなってた」


「だろうな、こんなの報告されたらそりぁ意識がぶっ飛ぶわ」


俺は皆に友狐の話をした後に部屋の扉の一つを叩いて拠点を展開、皆に新しくできた場所を見せる事にした。

そしてできた場所を見せると叶と俺はそう会話する。


「ああ…またミリアが暴走してるし…」


「一二三もだね…」


そんな俺達の隣では桜に車椅子を押してもらっている夏美がいて、2人とも同時に頭を悩ませていた。

そんな悩みの種である2人は今…


「フォー!!」


「くっ…力が強ぇ…だが、青二才共を守らねぇとダメなんでな、本気でいくぞオラァ!」


「フゴー!フゴー!」


「あらあら、流石に未来ある後輩達に迷惑をかけるのは許せないわ。皆、急いで逃げなさい」


「「「ワー!!」」」


逃げていく約30匹の友狐達をモフったり吸ったりする為に追いかけようとしてコク糖とキナコに止められていた。勿論もち丸も逃げる友狐達を安全な方に誘導している、本当にできた相棒だ。


「いや、流石に『農場』と『神社』ができているのは予想外なんだよ」


「『トモダチ農場』と『チギリ神社』な。友狐は雑食だが基本は大豆…いや、枝豆と野菜が主食なんだ、だから農場は必須らしい。

神社は彼等の集落兼修行場だから必要なんだよ。後、あの神社で友狐と契約できるからその時は改めて紹介するよ」


俺はそう叶と会話する。

チギリ神社は彼ら友狐の集落だ。そしてゲームでもそうだがアソコで正式に友狐と契約できるし色々と訓練したりして友狐を強化できる。

トモダチ農場も彼らの食を支える大事な場所であり修行場でもある。

彼ら友狐は雑食で人間と同じ物を食べる。しかし基本彼等の主食は野菜と枝豆だ。その為彼らは農場を経営して物々交換用と食料用で野菜などを作るのだ。

そしてこの農場にいるのはまだ契約していない友狐達、『名無し』達だ。

友狐は名前をもらって契約する事で初めて一人前の存在になる、その為未だ契約をしていない友狐は総じて名無しと呼ばれている。

そして名前をもらった友狐…この場合はもち丸達だが、彼らは一人前になった時点で彼ら名無し達を守る義務が与えられる。だから先程からコク糖は暴走する一二三を力技で止めに入っているし、キナコもミリアさんの顔に張り付いて

全力で妨害しているのだ。


「…因みに聞くが、友狐との契約ってどうするんだ?」


「ああ、簡単だよ。ピンと来た子と一緒に神社に行って神主さんに儀式をして貰えばいい。

ただし儀式は有料だからな、その点だけは勘違いするなよ?」


「神主?…人間か?」


「いや、友狐でイナリの『ヒッスアミノ』さん」


「…なるほど、やっぱりお前は存在自体がおかしいわ」


不意に叶にそう言われたので素直に答えるとまた叶に失礼な事を言われてしまった。

その後は七匹が2人の餌食になったが無事に2人が正気に戻り、何とか他の友狐達も戻ってきてくれたので当初の目的だった夏海の義足の製作を始められたのだった。



〜〜 16時 自宅 リビング 〜〜



「…お待たせ、一応形にはなったから普通の生活なら問題ないよ。

それ以上のヤツならもうちょい時間がかかるけれどね」


「コレがその実物ですよー!」


「「「「!?」」」」


あの後無事に骨で型を作ってからシリコンで型を取り、数時間かけてようやく簡易的だが目的の物が完成した。

そして全員が俺の家の方に戻っているのを聞いていたのでもち丸に義足を持ってもらい皆の所に戻った、すると戻り次第皆…特に夏美は真剣な表情になりながらガン見をしてくる。


「…それをつければ歩けるようになるの?」


そしてそう聞いてくる。


「歩ける保証はする、だから取り敢えず付けてくれ…もち丸」


「はい、ダンナ」


俺がそう言うと夏美の前に行くもち丸、もち丸が持っているのは鎧の足装備のように見える真っ白な義足だった。

もち丸は直ぐにその義足を夏美につけ始める、するとプシュッと炭酸飲料の缶を開けたような音が鳴る。


「うっし…んじゃ夏美、ゆっくりでいいから足に力を入れてみろ」


俺がそう言うと夏美はゆっくりと…


「あ」


「ボバ!?」


「ダンナ!?」


ではなく一気に立ち上がってしまいそのままの勢いで俺の腹に頭から突っ込んできて押し倒されてしまった。


「わ、渉!ゴメ…ン…え?」


「いつつ…あ、上手くいった」


「おおお!」


夏美はそのまま自然な流れで『立ち上がり』謝ってくる夏美、しかしその途中で自分が立ち上がったのを理解したのかどんどん声が小さくなりつつ小刻みに義足を動かしている。

その光景を見たもち丸は喜びの声を出しながら肉球でポムポムと拍手をし、俺は内心成功した事に喜んだ。


「…渉、夢じゃないよね?」


「安心しろ、現実だ」


小刻みに義足を動かしていた夏美は不意にそう聞いてきたのでそう返す。まあ、『騎乗者ライダー』のジョブの補正がかかっているからまるで本物の足のように動いている、それが今初めて装着したのにだ。

やはりレアジョブの力は凄い。


「ミリア…アタシはキチンと立ててる?」


「ええ、立ってるわ」


夏美は俺に聞いてから次にミリアさんに確認をとる。ミリアさんもキナコを撫でながら笑顔で答える。


「…」


そして夏美は徐々に震えだし…


「渉!ありがどう!」


「おかわり!?」


また、お腹に突撃されたのだった。

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