第169話
〜〜 side 如月 叶 〜〜
「ギアアアア!?ダンナ、助けてですよ!!」
「どうしたもち丸!?」
俺は皆がくる為にカレーうどんを作っていたのだが、叶達を迎えに言ったもち丸の悲鳴が響いたので急いで火を止めてもち丸のところに行く。
「アア…」
「何というモフモフ…堪能せねば!」
「…スー…ハー…スー…ハー」
俺が玄関まで行くともち丸が一二三に捕まりモフられていて、更にミリアさんに尻尾に顔面を埋められ猫吸いならぬ狐吸いをやられていた。
「…あ、しまった。そう言えば皆に友狐の説明をしていなかったな…」
「いや、渉。キチンと説明してよ…何この生き物?」
俺が玄関で頭に手を当てていると、桜がそう言う。
「あー…すまん。取り敢えず近所迷惑だから一旦リビングまで来てくれ。説明をするから」
俺はそう言うと何とか2人からもち丸を取り戻した、もち丸も相当怖かったのか涙目で俺に抱きついてくる。しかし…
「んぁ?…どしたんだダンナ?」
「ふふふ、悲鳴が聞こえて来たから様子を見に来ましたよ〜?」
更に部屋の奥から二匹、我が友狐が出てきてしまった。
「ウォー!モフモフだウォー!!」
「んぉ?…何だテメェ…撫でる力が強くて中々気持ちいい…オレ好みじゃねぇかよ…もっとやれや」
それを見た2人は更に暴走、一二三は出てきた片方である黒色の体毛で腰にしめ縄をしている方に飛びつき、
「…スー…ハー…スー…ハー」
「あらあら…よしよし、私はいくら吸ってもいいですから話を聞きましょうね〜♪」
もう片方の金色の体毛をしてエプロンを付けている方にはミリアさんが突撃し、その子に頭を肉球で撫でられながら狐吸いを行っていた。
「すまん、『コク糖』と『キナコ』。そのまま2人が満足するまで付き合ってくれ…」
俺はその光景を見てコレが1番早く中に入ってもらえると思いつつため息を吐いてそう言う。
「問題ねぇよ。この嬢ちゃんのナデナデはいいマッサージになるからよぉ」
「うふふ、こちらも大丈夫ですよー♪」
オレの問いに2人は喜んで返事をしてくれる。俺はそれを見てまたため息をつくのだった。
〜〜 しばらくして 〜〜
「…つまりだ、コイツらはお前さんのErrorスキルで生まれた住人みたいなもんと解釈すればいいのか?」
「ああ、大体あってるよ叶」
俺は取り敢えず皆を自宅に入れた。今はリビングで友狐の説明を皆にしていた所だ。
友狐…正式名称は『友狐 イナリ/タマモ』と言う『Monster Hand Live』で共に生活をしたり農場を経営してくれたり一緒に狩猟をしてくれるパートナー兼マスコット的な存在だ。
彼らが名を2つ持っているのには理由があり、生まれた際にオスが『イナリ』、メスが『タマモ』に分けられるためだ。
彼らは頭がよくゲーム内の設定で古くから人間と共存してきた珍しいモンスターであり、その為人語も喋るし道具の製作や農場管理もできる。更には料理や交易、子供の子育てもできる万能な存在なのだ。
「へー…お前さんめちゃくちゃ有能じゃん。ウリウリ」
「はい、ダンナの為なら狩りにもお供するですよ」
俺がソファーに座り、その股の間に夏美が座り、その夏美の股に座るもち丸の頭を夏美は撫でる。
そう、この友狐は狩りのお供にも使える。その際は攻撃とかはしないが罠の設置や回復しにきてくれるなどのサポートをしてくれる。その為マジで友狐は『Monster Hand Live』にて無くてはならない存在なのだ。
(それに、もち丸は他の友狐とは『共にいた時間』が違うしな…)
俺はそう思うともち丸と再開した時の事を思い出した。
〜〜 去年の9月ごろ 〜〜
「…も…ち丸…?」
「…」
俺はその日は祝勝会後に初めて拠点の中に入った。すると教会のような建物の隣に新たな施設があるのを見つけ、俺は視察をするつもりだった。
しかし、その施設の入り口で仰向けで鼻提灯を膨らませながら寝ている存在がいた。それが友狐でイナリのもち丸だった。
「…いや、あり得ない。もち丸は俺が歴代『Monster Hand Live』シリーズで共通して使ってきた友狐だ。つまりゲーム内の存在だ…こんな所に居るわけがない…」
しかし、俺は直ぐにその存在がもち丸ではないと考えた。
もち丸は俺が歴代『Monster Hand Live』シリーズで共通して使ってきた友狐、つまりはデータの存在だ。
だから俺は最初、この存在はもち丸じゃないどころか友狐でも無い何かだと思っていた。
「…んぉ…寝ていたです…よ…」
「…あ、おはよう」
しかし、そんな事を考えていたら寝ていたもち丸が起きてしまった。そして俺を見ると目を見開き、固まってしまう。
「…」
「…」
そして俺も何故か固まってしまい、お互い無言のまま見つめ合った。
そして…
「…ダンナー!!」
「ガボ!?」
もち丸はいきなりジャンプをして俺の顔面に張り付いたのだ。
「ダンナ、ダンナだ!良かった、『また会えた』!!」
「モガモガ!?」
(くるし…え、『また会えた』…だと!?)
俺は息苦しい中もち丸の発言に耳を疑った。何故なら『また会えた』と言ったのだ。
普通なら良くて挨拶をするか警戒して近寄らないかの二択だが、この反応と言葉ではまるで『昔から俺を知っている』みたいではないか?
「ブルァ!」
「やん、ダンナ。力が強いですよ♪」
俺は疑問を解決するべく勢いよくもち丸を引き剥がし、両手でキチンと持つ。
「…もち丸…なのか?」
そして俺は疑問に思っていた事を聞く。
「はい、僕はもち丸ですよダンナ。ゾルダ村からの付き合いである僕を忘れたのですよ?
僕はダンナの事は一時も忘れていなかったのに酷いですよ!」
その問いにもち丸は100点の答えを出した。
ゾルダ村、『Monster Hand Live』シリーズ最初の作品の舞台となる村の名前である。その名前をノータイムで出すのは『Monster Hand Live』を知っている人間かそのゲームのキャラクターくらいだ。
つまりこの存在は間違いなくオレの相棒であるもち丸で間違いないのだ。
「もち丸…もち丸!!」
「うぁお!?ダンナ、いきなり抱きしめるのはびっくりするからやめるですよ!?」
俺はもち丸だと分かると泣きながら勢いよく抱きしめた。
もち丸はそんな俺にビックリしながら肉球で叩いてくるがオレは気にしない。何故なら例えデータの存在であったとしても前の世界で長年狩りを共にしてきた相棒が目の前にいる奇跡を噛み締めているからだ。離せと言われても意地でも離さない自信がある。
「んだぁ?もち坊の悲鳴が聞こえたぞぉ?」
「あらあら丸ちゃん、大丈夫?」
「あ、コク糖にキナコ。助けてですよ!」
「コク糖にキナコだと!?」
そして、もち丸の声に反応したのか施設の奥から更にもち丸に次ぐ俺の相棒の2匹の登場に俺はもはや腰砕けになった。
こうして俺は奇跡的に前の世界の相棒達3匹と再会したのだった。
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