第164話

〜〜 数年前 〇〇町某マンション 屋上 22時〜〜



「…ああ、面白かった!」


「いや、夜に「屋上で映画を見るぞ!」なんて言ってくるのは草はえるのよ。

しかも夏美はパソコンとかを持っているし足がアレだから俺がお姫様抱っこで移動する羽目になるし…」


満点の星空の下、俺達は普通は入れないマンションの屋上に不法侵入して一緒に映画を見ていた。


「うむ、大義である。褒美にアタシを嫁に貰ってもいいのよ?」


「何が大義だ、今日じゃなかったら絶対にやらなかったわこのアホ」


「うーん、正論!」


俺は笑顔でボケをかましまくる夏美に頭を悩まされた。


「…まあ、俺達『家が隣同士』だしお互い『明日引っ越しをする』から最後に思い出を作りたいのは理解できるから今日は大目に見るよ」


「あんがと」


俺はそう言うと空を見上げた。

『四季 夏美』、俺の幼稚園からの幼馴染であり家が隣同士の間柄の為父さんも夏美の両親と仲がいい。

そして、俺達は偶然にも同じ日である明日に引っ越しをする。だから夏美は最後に会える今日にこんなお願いをして来たのだ。


「…ねえ、渉はどこに行くんだっけ?」


俺が空を見上げていると、不意に同じく屋上に寝そべって空を見上げていた夏美がそう言ってくる。


「…東京の荒川だ。夏美は確か…」


「…石川県、お父さんがお爺ちゃんの会社を正式に継ぐ事にしたからね」


「…そうか」


「…うん」


俺達はそう会話すると無言になりながら空を見上げていた。

正直夏美は女性ではあるが、それよりも幼稚園からの友達であり足が無いから守ってやらないとダメだと言う感情の方が強い。だから明日にお別れする事になるのは正直言ってモヤモヤする。


「…ねえ、もしこのまま渉と別れて石川県に行ったらさ…また幼稚園の頃の様に『足無し女』とか『不良品』とか言われて虐められるのかな?」


そのままモヤモヤしていると、急に夏美がそう言ってきた。

俺はその言葉に答えるべく夏美の方を見る。


(…泣いてやがる…やっぱり辛いんだな…)


そこには空を見上げながらも声を押し殺して涙を流している夏美がいた。


「幼稚園の頃は渉がいてくれたからなんとかなった、小学校もそう。でも、明日からは違う…正直自信がないよ…アタシって結構弱いな…」


そう言いながら涙を流しながら空を見上げる夏美、俺は…


「よっと」


「…え?」


夏美の顔の隣に座った。


「大丈夫だ、俺みたいに夏美のことを理解してくれる人はきっといる。だから泣くな」


「…渉」


俺が座ってから夏美の顔をキチンと見てそう言う、夏美もまた俺の顔を涙目で見てきた。


「…まあ、正直この場合にこれ以上どう話せばいいか俺は分からない…だから一つだけど約束をするよ」


「…約束?」


俺の顔をみながら夏美がそう言う。俺はまた空を見上げてから話しだす。


「もし、夏美に危害を加える様な奴が現れた時は…顔面を使ってでもその攻撃を代わりに受け止めて夏美を守るよ。大丈夫、俺意外と鍛えてるから」


「…バカ、東京から石川県までどれだけ距離があると思ってるの?間に合わないじゃん」


「…いや、精一杯絞り出した言葉に冷静にツッコミを入れるのはやめてくれよ…」


俺の約束に冷静にツッコミを入れてくる夏美に弱気で文句をいう俺。

その後はお互いに笑いあい、そして夜はふけていった…



〜〜 現在 〜〜



「…あの時の約束、有言実行したぜ夏美?」


「…バカ、本当にするヤツがあるか…!?」


俺は未だ顔面で拳を止めながら後ろにいるであろう夏美に声をかける、すると返事が帰って来たので俺は安堵した。


(あっぶな!?引っ越しの後に一度だけ夏美から写真付きのメッセージが来た際に後ろのメイドさんみたいな人も映ってたからもしかしたらと思って間に割り込んだけど、人違いだったら恥ずかしくて黒歴史確定だったわ…)


俺は取り敢えず殺気を出しつつそう思った。

夏美とは引っ越しの後に一度だけ連絡を取っており、「友達ができたよ!」と言う文で写真が送られてきたのだ。

その時に夏美と一緒写っていた人こそ俺の前の席の女性だった、コレが俺が朝感じた違和感の状態だったのだ。


「おさ!?アンタみたいな有名人の幼馴染が障が…



「それ以上馬鹿にするなら流石にキレるぜ?」



…アッ…」

 

そして、まただ夏美を馬鹿にしようとした男の言葉を途中で殺気を出しながら遮った。


「あのな、夏美は俺が幼稚園の頃からの仲だから知ってるがアイツは生まれた時から両足が無かった。

だが、そんな夏美がこの学園に入学できたんだ。相当な努力をしたんだと思う」


俺は更に睨みつけながら続ける。


「お前も相当努力をしたのは間違いない、だが身体にハンデをもつ夏美はそれ以上に努力をしないとこの場には居ない、だから夏美がこの場に居るという事はその努力をしてこの学園に入学したんだよ。

俺は努力する奴は好きだ、だが逆に努力を否定したりする奴は嫌いだ…だから俺は今ここに居る」


「あ…ああ…」


俺は殺気を強めつつ強めに言う、すると男は徐々に顔を青ざめていき体が震えていた。

そんな姿を見た俺は最後と言わんばかりに殺気を全開にして警告する様に言う。


「これ以上後ろの2人を含む努力をして入学してきた全ての人達をバカにするのであれば俺が相手になる。

その場合はお前を俺の全てを使い……狩る!」


「うっうわああぁああ!?」


俺が一気に殺気を強めて警告すると、男は叫びながら猛ダッシュして食堂から逃げる様に去っていった。


(…殺気の出し方、練習しといて良かった)

 

俺はその後ろ姿を見てそう思う。

桜の障害になっていたあの男に殺気を使ったあの日から頑張って殺気のコントロールを練習をしていたので、今回はスムーズにだせた。


「…あ、しまった。目立ち過ぎた」


俺はそう思いながら男の姿が見えなくなるまで見ていると、周りからの強烈な視線…というか4割がた桜の冷たい視線に気付いてしまった。


「…ま、いいか」


だが俺はその視線よりも幼馴染を守れた事の方が重要だと切り替えて夏美の方に振り向く。

振り向くと背丈は伸びて女の子らしい風貌にはなっているが昔からの雰囲気はそのままの夏美がいたのを見て俺は笑顔になる。


「よう、夏美。お久しぶり」


「やり過ぎだわこの狩猟バカ!?」


そして再会の挨拶をしたら思いっきり鳩尾を殴られた、体を鍛えているからダメージは無いがかなり理不尽である。

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