第161話

〜〜 4月7日 国立迷宮学園 1年A組 side 多田野 藻武蛇世 〜〜



「…」


僕の名前は多田野 藻武蛇世、どこにでもいる普通の人だ。しかし違う点はある、それは奇跡的にこの国立迷宮学園に入学できた事だ。

そして今、入学式が終わったのちに割り当てられた教室の1番後ろの席に座って周りを無言で見ていた。


(いや、流石は日本最高峰のダンジョン特化型学校だな…有名人がいっぱいだ…)


俺はそう思うとまずとある席を見る。


「…」


そこには学園指定の制服を着て目を瞑りながら手に持った木刀をいつでも抜ける様にしている黒髪ポニーテールが特徴の可愛い系の顔をした胸が大きい女性がいた。


(京都の有名なダンジョン配信者、〈斬姫〉と呼ばれている『桐城 早苗』。若くして桐城式抜刀術と呼ばれる流派の師範代、そして京都有数の実力者でもあり人気ダンジョン配信者だ…オーラが違うな…)


彼女の名前は桐城 早苗。

京都の名家『桐城家』出身で、桐城家に代々伝わる桐城式抜刀術の使い手でもあり桐城家の抜刀術道場の師範代だ。

彼女の配信は目にも止まらぬ速さの抜刀術でモンスターに気付かれずに3枚に切る。

その美しい抜刀術と容姿で人気・実力共に京都でも有数の実力者として数えられる人だ。

そして僕は次に他の席を見る。


「フッ…フッ…」


そこには机に逆立ちで乗り、その体勢で腕立て伏せをしている恐竜の模したレスラーマスクを付けた男性がいた。


(〈翼竜レスラー〉の異名を持つ『Mr.プテラ』、本名不明の強者だ…すごい)


彼の名はMr.プテラ、栃木出身で両親が共に覆面レスラーの為に幼少期からレスラーマスクを装備しているという本名不明のダンジョン配信者だ。

彼の戦い方は正にプロレス。マスクは勿論ブーメランパンツとブーツと赤いマントを装備して戦っている異常者。

しかし彼は常にプロレス技でモンスターと戦い、そして勝利する。

更に言えば彼の得意技はスキルによって強化された脚力でジャンプしてからのフライングボディプレスであり、その技を見た人達から徐々に人気が高まり遂には栃木で彼の名前を知らない人はいないと言われる位の人気者になった人だ。

更に別の席を見ると…


「あら、ここも汚れている…掃除しなきゃ服が汚れちゃう」


自分の席をめちゃくちゃ綺麗にしている頭にホワイトブリムを付けている美しい女性がいた。


(〈冥土メイド〉の『ミリア』…声をかけてみたい…けと、多分『お掃除』されるだけだしな…)


俺はそう思いながら彼女を見た。

彼女の名前はミリア、ダンジョン配信者で生粋のイギリス人であり生まれもイギリスであるが2歳の頃から石川県に住んでいるから本人的には日本人と明言している人だ。

彼女はとにかく掃除好き、ジョブも『メイド』を持ちダンジョンの時もヴィクトリアンメイド服を着ている程の自他共に認める生粋のメイドだ。

彼女の配信は基本ダンジョンの美しい風景を見ながら紅茶を飲む配信スタイルで、普通なら一回見れば満足してしまう配信だ。

しかし彼女はモンスターを美しい環境にいるゴミとしか考えていない為に竹箒とはたきで殲滅…もとい『お掃除』をするのだ。

圧倒的な殲滅、しかも衣服や荷物には血やホコリは一切付かない芸当までやってのける。その殲滅劇とその後のほのぼのとしたティータイムの二面性のある配信が彼女の魅力だ。

更に彼女はナンパしてくる人や迷惑をかけてくる人にも問答無用で『お掃除』をする、お掃除された人は大体もう同じ事はやらない位に痛めつけられる為にその人に迷惑をかけられた人達が彼女の信者的存在になっている。

その為彼女の二つ名は彼女のジョブである『メイド』と邪魔をする物を全て地獄に送る『冥土』を合わせて〈冥土メイド〉と呼ばれているのだ。


「…本当、何で僕が受かったんだろうか…」


僕はそう呟くとまた周りを見る。


(味方ごとモンスターを撲殺する〈フレンドリーファイヤー〉のツバキに〈睡拳〉の健、〈悪食〉の飯田に〈風紀委員〉の竹山…皆有名人で中層までいける人ばかりだ…)


僕はそう思うと天井を見上げる。今紹介した人達は、全員中層で活躍する人達ばかりだ。

普通なら僕みたいに浅層で活動するのが精一杯。僕たちの世代で中層まで行けるだけでもエリートの中のエリートなのだ。

そんな人達がクラスの半分を埋めている…正直場違いな感じが凄くする。


「それに、何で『後ろの4席』が空いているんだろう…入学式に間に合わなかった人でもいたのかな?」


僕はそう言うと真横を見る、そこには不自然に4つの席が空いていた。


「…まあ、別に気にする事はないな…それに今は今回の入学生のレベルの高さの方が気になるし…」


僕は急いで考えている事を切り替える。実は今年の迷宮学園の倍率は例年の2割り増しだった。更に言えばダンジョン科と装備・道具科の倍率は例年の3割り増しだったのだ。

だから普通ならこの学園でさえ中層まで行ける人は大体5人いれば多い方なのだが、今年はクラスの半分が中層に行ける人になったのだろうと思う。

そして東京全体のダンジョンに関わる学科がある高校も今年は倍率が高かったそうだ。


(…まあ、東京にいればもしかしたら『あの人達』に会える可能性がある。それがダンジョンであれ東京の街中であれ…て事だよね…)


僕はそう思うとスグにある4人組を思い浮かべる。

自分達と同い年なのに中層どころか禁層を攻略してダンジョンを制覇した僕らの世代を代表する4人組。

その内の1人は人類史に残る最初のダンジョンを制覇した人で、更に今もダンジョンや我々の常識を文字通り粉砕する知識と発想力を持った異常者。

その人を中心に集まった癖が強すぎる最強の4人組。その名は…


「やっぱり、〈狩友〉の影響力は凄いんだな…」


〈狩友〉、今の全世界の中で唯一ダンジョンを制覇した4人組の固定チームだ。

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