第157話
〜〜 数十分後 ホテル内 会場ホール 〜〜
「…と言う訳だ父さん。取り敢えず進学先は決まった、だからこの際だし一人暮らしをしたいと思う。住居は防犯面が気になるからギルドにも相談する、だから住居が決まったら一緒に家具と家電を見てもらえないか?」
「なるほど、確かに受験の問題はもう心配ないし一人暮らしをしてもいいタイミングだな。いいよ、全面的に協力する。息子の新しい生活の為に…しっかり調べる事にするよ」
あの後、俺達は無事に会場に到着した。今回の祝勝会は特設会場に関わった関係者も含めて開かれていて、かなりの人がいた。
だが出ている料理やドリンクの数はかなり多く一二三と叶は目を輝かせてそれらに飛びつき、俺と桜は自分達の親の所に向かった。
そして数十分が過ぎ、色んな人から挨拶をされたりや軽い会話などをしつつ父さんに貰った資料を見せてからそう言った。
正直、一人暮らしは前々から考えていた事だ。確かに今の父さんが1人になるのは心配はしていた、しかし早めに一人暮らしをして自立しないと逆に父さんに心配をかけてしまうとも思っていたからだ。
だからこの推薦入学の件を理由にして父さんに一人暮らしを提案した、そしてたった今父さんから許可が降りた。
(これで親の同意は得られた。後は物件探しだな…)
昔までなら別に父さんと一緒に探すだけでよかったが、今の状況なら一回ギルドに相談をいれないと防犯的にヤバいと思う。
何せErrorスキルやら人体総変異やら俺はやらかしまくったから結構裏の人間に目をつけられていると思う、だからそんな人に狙われても大丈夫な様にキチンとしたセキュリティーや有事にはすぐにギルド関連の建物に逃げ込める様な立地の物件を探す必要がある。
故に物件の事はギルドを関わらせないとダメなのだ。
(…ま、その点は今は考えなくていい。今は祝勝会を楽しもう)
俺はそう思いながら父さんに封筒ごと書類を預け、父さんから離れる。
周りを改めて見ると、楽しそうに両親と話す叶やしっかりと味わう様に両親と一緒に料理を食べる一二三がいた。
「さて、今から何をしようか…」
俺がその光景を見て、そう呟くと…
「渉、少しいいかな?」
「…桜?」
桜に声をかけられたのだ。
〜〜 しばらくして 〜〜
「…夜景が綺麗だね…」
「いや、まさかホテル内のレストラン、その窓際席に移動するのは予想外だった」
あの時、桜に声をかけられた俺は桜と一緒に会場を抜け出した。そして今は予約席のプレートが乗せられていた窓際の席で桜と2人っきりで椅子に座り、窓から見える夜景を見ていた。
「…んで、席の予約までして…何か相談したい事があったのか?」
「…」
俺はしばらく桜と一緒に夜景を見てから、桜にそう言う。
予約までして2人っきりになったのだ、絶対に何か問題があったに違いない。
俺がそう思いながらそう言うと、桜はゆっくりとこちらを向いた。
その目はとても優しく、顔も少し赤い。
「…うん、渉に話さなきゃいけない事があったんだ」
桜は完全に俺に目線を合わせると、身なりを少し整える。
「渉、改めてオレの夢を叶えてくれて本当にありがとう」
「別にいいよ、俺も叶えたい夢のためでもあったし」
そう言うと彼女は笑顔になる。…改めて見るとマジで同じ中学3年生なのかと疑いたくなる位に可愛い、普通にボーウィッシュ系の読者モデルと言われても即答で納得してしまう位に可愛い。
「…だからね、そんな夢を叶えてくれた渉だからこそ聞いて欲しいんだ…どうしてオレが『オレ』になったのか、どうして女性であった『私』が女性である事を捨てたのかを…」
「…は?」
しかし、突然桜は真顔になりそう言ってくる。
だが俺には何のことかさっぱり分からなかった。
「女性であった私…オレになった…女性である事を捨てた…え?…ええ?」
「うん、困惑するのは分かる。けどキチンと聞いて欲しい、理解してほしい…他ならぬ渉だからこそオレの成り立ちを知って欲しいんだ」
そう真顔のままそう言う桜はそのまま俺に自分に起きた出来事を話し出した。
〜〜 説明中 〜〜
「おし、わかった。今から家族に土下座して謝ってこい」
「いや、酷くない?」
俺は桜からの説明を聞いて、真顔になってそう言った。
「当たり前だアホ。いくら次兄の願いを叶える為に女の命に例えられる髪を切り裂いた上に自分の顔も切ってんだよ。しかも女性である事を捨てるだぁ?…もっとやり方があっただろう、少しは家族の気持ちを考えろよな…」
「それを渉が言うかな…」
俺はそう言いながら頭に手を置く。マジで桜がした事は下手したら逆に家族の反感を煽る結果になりかねない危険な事だ。
それを実行する勇気は褒めるがそれで家族から『女性である事を捨てろ』と言われるだけで済んだのはマジで奇跡だ、下手したら強制的にそのまま次兄の願いごと押さえ付けられて二度とダンジョンには関われなくなってしまう事になってもおかしくない。
本当にバカな賭けをしたと思う。
「でも、そのお陰で無事に全ては丸く収まったんだ。
…それに、実は母さん達と和解してね。女性である事を許してもらったんだよ」
「…へぇ…良かったじゃん」
そう言う桜の顔はまた笑顔になる。
まあ…桜がやった事はかなりぶっ飛んでいたが、何とか無事に丸く収まったようだ。
「うん…だけどオレは今の『オレ』を捨てるつもりは無い、これは真司兄さんの為に頑張っていた証みたいなものだから捨てられない。
でも『私』も捨てられない、せっかく堂々と女性でいられる様になったんだ…もう失いたく無い。
だからね…」
そう言うと桜は一回息を吸い、また真剣な顔になる。
「これから…その二つを混ぜた『ボク』でこれから生きようと思う。
だからこれからもボクの事をよろしくね」
「ちょっとまて、ぶっ飛びすぎて混乱して来た…」
俺は桜の発言にまた頭に手を置く。…いや、分かるよ。女性である『私』と女性を捨ててまで強い自分であろうとした『オレ』を捨てられないのは分かる。
だが、その二つを混ぜで『ボク』でこれからを生きようと思う?…流石にぶっ飛んでいると思う。
「…だからね、もうボクの心に素直になろうって決めたんだ」
俺が頭を悩ませていると、不意に桜が意味が分からない言った。
…そして、
ポンッ
「…ん?」
俺は不意に後ろから誰かに肩を叩かれた。そして俺が一旦悩むのを辞めて後ろを向く。
「…」グッ
そこには桜が何故かサムズアップしながらブレて消えていく光景があった。
「…分身?」
俺は何故桜が分身を使いこんな事をしたのか分からず、取り敢えずまた桜の方を向こうと動き…
「んっ」
「!?」
振り向き終わり前を見たらいつの間にか目の前に桜あった顔があった。
そしてそのまま俺は桜の両手で肩を抑えられて唇を重ねられた。
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