第151話

〜〜 8月31日 ??? 〜〜


「…なるほど、スカイツリーのダンジョンは『消滅』しなかった。つまりあのゴリラとは再戦可能と言う事か…」


「ああ、資料を見る限りだと2つのダンジョンの違いはやはり特殊か否かだろうな。階層の数と『戦記層』がある事以外は全くの別物と捉えてもいい環境と危険度…個人的にかなり興味が湧いてきたよ」


俺と父さんは今、ギルドが用意した車の後部座席に乗せてもらい移動している。

更に言えば父さんはスーツ姿、俺は禁層の時の装備に新たに自作した紫外線などをカットする縁無しの伊達メガネを装備しており、後部座にいる俺達はギルドが用意してくれた資料の束を見ながら雑談していた。

あの日、あの後全員の配信を切って直ぐにかなりのVIPに囲まれていたが父さん達とギルドの力で何とかあの子達と一緒に地上に出てきた。

ソラマチひろばの会場には既に数名の獣医と特別な車両が用意されていて、あの子達はそれに乗せられてお別れになった。

俺達も一旦俺に防具以外の全ての武器と道具を預けてからギルドが用意してくれた車に乗り、これまたギルドが準備してくれた病院に直行し3日間の検査入院をする事になった。

その際もまた世界は荒れた。2回目のダンジョンの攻略成功、俺のErrorスキルの存在や俺以外の人が人体総変異をする事ができる事実、更には検査が完了して完璧に本物である事が確定した二匹のニホンオオカミ(片方は妊娠中)…あげたらキリがない。

その為現在日本全体…特に東京はお祭り騒ぎだ。原因として各国のVIP達が日本で爆買いしたり、土地を買い別荘を立てたり、観光地で散財したり、他県の村おこしなどに寄付をしたりなどで金が物凄く回っている。

更に俺達は相談して、〈狩友〉としてあのゴリラの左腕と黒曜石の一部、魂骨炎狐龍の左腕をギルドの研究機関に寄付。ゴリラの右腕と黒曜石の一部に魂骨炎狐龍の右腕、後深層のモンスターの素材の余りをギルドに渡してオークション形式で販売してもらう事にした。その為今ギルド…と言うか日本政府は嬉しい悲鳴(強制的に休む暇がないとも言う)が止まない状態だ。

まずギルドの研究機関は俺達が提供した黒曜石と左腕2本を研究するべく特別な研究チームを結成し、毎日研究をしているそうだ。

そして、毎日新しい発見をしているらしく現在だけで報告書のデータのみでも2TBのHDDが4つも消費したらしい。

そしてオークションも12月に開催する事と販売リストが回った瞬間から市場の円と米ドルの価値が急上昇した。理由としてはオークションの支払いは円か米ドルでしか受け付けない内容になっていた為だ、その為現在の日本はバブル期に近いくらいに景気が良くなっている。

そして父さんが言った『戦記層』、コレは俺と狩友達がダンジョンを攻略した際に出てきた白い石板から行ける階層の正式に決まった名称だ。

戦記層は『ダンジョンを制覇した者を讃え、永遠に記録しておく為の階層である』…これが各国から集められた研究者達が導き出した答えだ。

この階層は殺傷能力のある機械は使えない、何かを壊したらすぐに直るなどダンジョンのルールはキチンと適用されている。しかしモンスターは絶対に出現しないので安全が確約されている階層なのだ。

だから国は今ある二つの戦記層に行くポータルを一般開放する方向で勧めていて、今後のダンジョンへの教育や観光名所として使っていく方針だそうだ。

故に今、日本は全体的にかなり景気がいい…のだが、それでも俺達がダンジョンを攻略した為に悪い事も幾つか起こった。

まず、俺達の影響で日本のモンスターの素材が世界で注目されている。それを知った裏の人達が闇にモンスターの素材を流して荒稼ぎをしだしたのだ。

コレはかなり悪質でダンジョン内で人を攻撃して素材を横取りするなどの傷害事件や借金返済の為に鉄パイプ一本でモンスターと戦わされるなどの悪質な行為が横行してしまった、故に現在警察やダンジョンの職員はかなり忙しくしている。

それに加えて日本人でレアなジョブやスキルを持つ人や赤ちゃんなどを誘拐する犯罪者集団が現れてそちらも問題になっている。

ただでさえレアなジョブやスキル持ちは狙われる傾向にあるのに、今回の一件で日本人はダンジョンを攻略したと言う実績と現段階で実際にErrorスキルを持っているのか日本人だけと言う件が影響してプレミアみたいな価値がでたそうな。故に裏ではかなりの値がつくそうだ。特に赤ちゃんはErrorスキルを発現する可能性があるから特に需要があるらしい…本当に胸糞悪い話だ。

そして、1番の問題は…


「更衣室などでの小競り合いによる通報が毎日数十件、死んだ人の装備と遺品の排出の回数が一日の平均回数の2割増し、悪質な妨害や食料の強奪などの犯罪が増加傾向…『浅草の雷神像前ダンジョンだけ』でもコレかよ…」


「仕方がない、隣の風神像前ダンジョンは攻略しにくいが、雷神像前ダンジョンは禁層までの各階層のポータルの位置が全て40km以内にある、更に色んな配信者が実況しながら配信していたり有料のまとめサイトなどから情報を買ったりできるから各階層の地図や道中の注意点も簡単に手に入る。

つまり非常に攻略しやすいダンジョンなんだ、こうもなるさ」


俺達〈狩友〉の後に続けと言わんばかりに攻略しやすいダンジョンに人が集中しだしたのだ。

銀座の戦記層には俺の記録が、スカイツリーの戦記層には〈狩友〉の記録がある。コレはダンジョンの一部として存在しているから壊れないし消える事はない。

つまり永遠に語り継がれる偉人として人々に認知される事と一緒なのだ、その事実は沢山の目立ちたい人達や配信者達をダンジョン攻略に駆り立てる事になった。そして追い討ちとして攻略後の宝箱、スキルやジョブが増えるだけではなく桜のお宝の様に貴重な金の延べ棒や赤色のポーションが手に入るのが分かった、更に俺のお宝も絶滅したはずの貴重すぎる動物だった。

故に純粋に力を求める人や貴重なお宝が目当てでダンジョンに挑む人が増えてしまったのだ。

その為配信や有識者のサイトなどで各階層の情報が手に入るダンジョンに人が集まってしまい、食料と飲料水の奪い合いや休憩する為の帰還用ポータルの場所取りで揉め事を起こす、挙げ句の果てには各階層にモンスターの素材で食料や飲料水などを交換する転売屋が出てくる始末だ。

そして、一部のダンジョンに人が沢山入るという事はそのダンジョンを管理している職員にもかなり負担が掛かる、また沢山入るならその分ダンジョン内で死ぬ人も増えてしまう。その為ダンジョンから排出された遺品などの整理や手続きで更に負担がかかってしまっているのだ。

正直に資料だけでみても現場の大変さが分かるレベルの事が書かれている。


「…いや、こんなに大変なら俺達の事は後回しでも良かったのに…」


「ギルドにもメンツはあるのさ。今は用意してもらった事を楽しむべきだ」


俺達親子が資料を見ながらそう話していると、不意に車が止まり、エンジンが止まる。

その後運転手が降りて、スグに俺達が乗っている後部座席の扉を開けてくれた。

俺達は資料をその場に置いてからお礼を言って車から降り、目の前の建物を見上げる。


「いや、よく帝国ホテルなんて押さえられたな」


「まあ、今は別にいいじゃないか。『祝勝会』を楽しもう」


今いる場所は帝国ホテル。そして何故俺達がこの場所に来たのかと言うと、ギルドが用意してくれた俺達〈狩友〉の祝勝会に参加する為だ。

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