第150話

「ク〜ン」


「お?ココか?ココがええんか??」


「…」


『…』


俺は今、箱を加えた犬?が腹を見せて来たので思いっきり撫でている所だ。

その為咥えていた箱は近くに落として、お腹を撫でている俺に全力で甘えにきている犬?が完成した。

更に言うなら俺の前にいるお腹が大きい犬?の前には一二三がいて、笑顔で頭を撫でたり匂いを嗅がせたりしている。

そんな光景を周囲の人達とドローンはみていた…まあ、側から見ればかなりツッコみたくなる光景ではあるがこの犬?はかなり人懐こい性格をしているからめちゃくちゃ癒されるので別にきにしない…と言うかこの子めちゃくちゃ牙が鋭いな…


「…渉、ちょっと良いかな?」


俺がそんな事を考えながら撫でていると、後ろから桜が声をかけてくる。


「どうしたんだ桜、今俺は宝箱から生き物が出て来たと言う非常事態から現実逃避する為にこの子を撫でるのに没頭してるんだが?」


「いや、確かに現実から目を背けたいのは理解できるけど聞いて?」


俺が振り向き、桜と話を始める。犬?も会話が始まったのを理解したのかお腹を見せたままこちらを見てくる。


「あのさ、ドローンのコメントの中にね…この子『ニホンオオカミ』じゃないのか?ってコメントが沢山来てるんだけど…」


「ニホンオオカミ…何それ?」


俺と桜の会話に、周りの雰囲気が一気に変わる。しかしその原因の子を横目で見ても、未だお腹を見せつつ両前足をクロスしてこちらに手招きしてアピールしてくるくらいの愛嬌を振り撒いている…でも、言われてみれば確かに狼と言われたらそうかもしれないし…と言うか俺はニホンオオカミを知らない。

そんな反応を見た桜はかなり渋い顔になり…


「渉、よく聞いてね。ニホンオオカミは既に絶滅したと言われている動物なんだ」


更に現実逃避をしたくなる様な事実を言ってきた。

そのまま桜は俺の隣に屈み、愛嬌たっぷりのこの子を一緒に撫でながら話し始めた。

ニホンオオカミは名前の通り昔から日本にいた在来種でオオカミの亜種…イエイヌに近い存在だったらしい。

だが昔にかなりの数が狩られ、現在は絶滅したと判断されていて標本が数体残っているだけらしい。


「その標本にこの子が似ている…と言うか最早完全に瓜二つなんだって、体高的には少し大きいらしいけど…そこは個体差だと思う…だからこの子は今すぐに国に頼んで保護してもらうか、渉の拠点に回収した方がいいと思うよ」


お腹を撫でながらそう言う桜はその後の愛嬌に笑顔になりながらそう言う。

だが、俺にも問題はある。


「桜、残念だが俺の拠点は生きた生物は回収できない。例えこの場で拠点を展開しても…人が中にいる状態で拠点を閉じられないからこの子達を中に入れても拠点を閉じられない可能性が高い」


「なるほど、拠点入り口が開きっぱなしで最低でもスキル保持者の渉がいなくてはならない状況…確かに危険しかないね。

どんな悪い人がくるかわかったもんじゃ無い」


俺もまた同じく腹を撫でながら桜と話す。俺の拠点の回収機能は生きた物は回収できない、例外があるとすれば例の化石の様に仮死状態だが絶対に動かない確証がある物位だ。

そして拠点も中に人がいる状態で閉じられないので例えこの子達を拠点に入れても閉じられない可能性が高い。そうなると俺の全てと言ってもいい拠点の入り口が開きっぱなし状態になってしまう…それはかなりマズい、俺の技術は段階を踏んで世間に出さないと一気に国のパワーバランスを崩す事のできる物が多数ある。そんなパンドラの箱みたいな状態の空間を誰でも入れる状態にするのはマジでヤバいだろう、あの『絵』もあの空間にあるから特に…だ。


「…取り敢えず、この子は国に預かってもらう一択かな…」


俺がそう呟くと、お腹の大きい方を撫でていた一二三が立ち上がりこちらを向いた。


「渉、この子『妊娠』してる。めちゃくちゃ可愛いから生まれた子の中から一匹頂戴?」


「…ちょい待ち、今この子がニホンオオカミかもしれないって言ったよね!?何サラッと子犬感覚で貰おうとしてるの一二三!?」


「ニホンオオカミ?何それ??」


「一二三も知らないんかい!」


そして、一二三はあのお腹の中には新たな命がいると言う超爆弾発言をかました。

更に子犬を貰う感覚で俺に提案をしてくる始末、流石に桜はビックリしてツッコミを入れながら立ち上がった。

その際に口から離した箱が桜の足元にあるのを見つけたので桜の邪魔にならない様に拾い、箱を俺の前まで持ってきて箱を見た。

箱には金属の部品がくっついている為構造的には普通の宝箱の様に蓋を上げて開ける構造なのだろうと分かる、俺は取り敢えず中身を見る為に箱を開けた。


「…『指輪』?」


中に入っていたのは指輪だった。しかし、指輪は1つ入っていたわけではなく『4つ』入っていたのだ。

指輪のデザイン的には間違いなくプラチナリングだ、デザインもシンプルだし余り凝った装飾などもない。しかし指輪には狼が彫られていてそれぞれ別々のポーズで彫られていた。


「…取り敢えず、回収してから考えよう」


俺はそう言うと指輪を拠点に回収させる。

すると…


「皆、お取り込み中すまない渡したいものがあったんだ」


父さんが近づいてきて、俺達全員にそう言う。

ニホンオオカミ?も父さんが近づいて来たので番の事が心配になったのかスグに俺達から離れて番の近くに行きお座りしてこちらを見ていた。

俺達は取り敢えず全員が父さんの近くに行く、すると父さんは俺達に持っていたビニール袋の中身を取り出して渡してくる。


「…あ、これって」


「ああ、少し早いが用意してもらったんだよ」


渡して来たのは俺の好きな飲むヨーグルトだった。


「お、いいじゃん。ちょい喉が乾いてきた頃だったんだよな」


「助かる、実は残りカロリーが10%切ってた。低カロリーでも大歓迎」


「あ、これコンビニで期間限定で販売されている濃厚な味が売りの奴だ。オレも味が気になってたから嬉しいな」


皆もそれぞれそれを受け取り、思い思いの感想を言った。

中々父さんも良いサプライズをしてくれた、確かに今このタイミングで飲むのは最高に美味いだろう。


「んじゃ、皆。めちゃくちゃ早いけど取り敢えず掛け声でもしておくか?」


俺がそう言い、蓋に付属のストローを刺す。すると皆もまた蓋にストローを刺してドローンに映る様に一列に並ぶ。


「んじゃ、リーダー。掛け声よろしく」


「オレに丸投げするんだ…まあ、いいけど」


俺がそう言うと、桜はそう呟きながら咳払いをする。


「んじゃ…俺達『狩友』が、このダンジョンの制覇した事を此処に宣言する、乾杯!」


「「「乾杯!」」」


桜の宣言に、俺達は声を揃えてそう返すと全員が同時にストローを口にしてヨーグルトを飲んだ。周りの人達からは歓声が上がり、父さんは俺達を優しい目で見て、ニホンオオカミ?達は俺達の宣言に遠吠えをして答えてくれた。

こうして、俺達『狩友』の長かったダンジョン攻略は幕を閉じたのだった。

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