第149話

「…いや、確かに私は着ぐるみパジャマ派だけどさ、コレはかなりのビミョーなラインのヤツだよ?」


一二三がゴリラの着ぐるみパジャマを持ちながら困惑している。確かにこのパジャマ、デフォルメされたゴリラとかならまだわかる、だがメチャクチャリアルなゴリラに寄せているデザインをしているから正直着たいと言われたらビミョーである。

更に言えば…


「一体何の素材を使われているんだ?触っただけだが多分俺達の防具と防御性能と柔軟性がほぼ一緒かちょい下くらいだぞ。それでも深層でも普通に通用するどころか禁層でも頑張れば通用するレベルだな…なんだこのゴリラパジャマ、何故か製作者の熱意と狂気を感じてしまうな」


「いや、今それを手にしている私が1番狂気を感じるんだが!?」


俺が少しパジャマを触りながらそう言うと一二三はかなりびっくりした顔をして左手を震わしていた。


「…因みに、左手の本はどんなやつなの?」


「…分からない、多分…『船の設計図集』…なのかな?でも禁とか書いてあるし…」


そう言いながら手をあげて俺に見せてくる、確かに表紙は少しボロボロで辛うじて『金⚪︎型⚪︎艦設計図全集〈⚪︎⚪︎者⚪︎⚪︎⚪︎⚪︎禁⚪︎〉』とか書かれている。

何処か危ない気もするが、まあ俺が二つとも一旦預かった方がいいかもしれない。


「一二三、取り敢えず後で返すから全部一旦預かっていいか?」


「んっ」


俺がそう提案すると、一二三は迷いもなく俺に二つとも渡してくる。俺は一言お礼を言ってその二つを回収した。


「んじゃ、次は俺だな」


一二三とそんなやりとりをしていると、次に叶が蓋に手を伸ばした。


「別にいいが…気をつけろよ叶」


「叶、ガンバ」


「了解…てね!」


俺と一二三がそう言うと、叶は力一杯蓋を押して箱を開けた。

するとまたあの光が出てきて、今度は叶の右肩に光が吸い込まれた。

それを見た叶はその部分を確かめる様に触ってから宝箱の中身を見る。

 

「…おっふ」


中身を見た叶はそれを取り出した、取り出した瞬間また箱は崩れたが今はそれどころでは無い。


「…いや、何だこれ?」


「…ラグビーボールサイズの巨大な「琥珀」だな…しかも、中に『謎のモンスターの片腕』が入ってるおまけ付きのな…他には?」


「無かった、これだけだよ」


叶と俺はそう話しながらも琥珀に目線を離さなかった。

叶の琥珀、ラグビーボールサイズまでなら何とか納得できるのだがいかんせん中に入っている腕がヤバい。

片腕なのにかなりの存在感を放っているし、琥珀越しでもわかる『光沢の無い黒い鱗と甲殻と体毛』と『赤い爪』が見える。

ハッキリ言おう、これは間違いなくとてつもなくヤバい品物だ。俺が田中さんから手に入れた化石と同等の品物だと思う。


「…ま、コレは渉に調べて貰えばいいか」


そう言うと叶は俺に琥珀を差し出してくる、その琥珀を俺は無言で回収した。

検査次第だが、あの琥珀…いやあの腕は叶の力になる…そんな予感がする。


「叶、お宝が一つだけだったね。どんまい」


「まあな、次に期待するさ」


俺がそんな事を考えながら叶と一二三のやり取りを無言で見る。

すると後ろから肩を叩かれた。振り向くとそこには桜がいた。


「渉、次はオレが開けてもいい?」


「…ああ、すまん。考え事してた…別にいいよ」


「ありがとう」


俺とそう話した桜は笑顔になり自分の箱の前まで行く。

そして蓋を押してあける、数秒後にまた光が現れて今度は桜の胸の谷間辺りに吸い込まれていった。


「…」


そんな事が起こった桜だが、先程から宝箱の中身を見て硬直している。すると中身を出してもいないのに箱が砂の様に細かくなって消えた。


「…うそーん」


「…マジかよ…」


「ブルジョワ桜爆誕の巻」


俺達は露出した宝箱の中身を見てそれぞれ反応をする。

まず、桜の宝箱の中身は二種類だった。一つ目は金の延べ棒、これが見ただけで十本あった。2つ目は赤色のポーション、これが何と十本もあった。

正直に言うと、桜の前には赤いポーションだけでも最低でも数億はくだらない価値がある物が置いてある状況だ。そりゃ、桜も硬直の一つもすると納得してしまった。


「…ハッ!わっ渉、今すぐにコレを預かって、流石にオレには荷が重すぎるよ!!」


「それは俺にも当てはまる事だけど了解した!」


硬直していた桜が意識を取り戻し、開口一番に俺に回収を求めてくる。確かに桜には扱い切れない物だとは理解できるが、それは俺も同じだ。預かったとて俺でも扱いきれない、だが桜に刺さる大量の視線を見て流石に一旦は俺以外が絶対に開けない限り入れない拠点に送る方が賢明だと判断した。

俺は急いで桜に近づき、桜の物も回収する。


「渉、流石に手の震えが止まらなくなってきたんだけど…!?」


「落ち着け桜、取り敢えず預かったから後はギルドと話し合えばいい。大丈夫、俺がいる限り盗まれる心配は無いからゆっくりと解決すればいいよ」


震えながら背中側から肩に手を乗せてくる。しかし、俺は自分のスキルの安全性をキチンと口にして何とか桜を落ち着かせようとする。だが、もしあの金の延べ棒が本物だった場合は更にヤバい。だからキチンとこれも調べてからギルドに渡すべきだろう。その後の交渉は…まあ、桜次第に…なるな…俺が預かっているだけで交渉には入る余地ないな、うん。


「あ、そう言えばあと開けてないのは渉だけだな…」


「確かに。渉、最後で爆発落ちはやめてね?」


「一二三は何を想像してるんだよ…」


そんなやり取りをしていると、不意に叶がそう言う。

一二三も叶の言葉にボケて反応したので俺はツッコミながら自分の箱の前まで移動した。


「…てか、桜さんや。取り敢えず今は肩から手を離してくれない?宝箱を開けにくいんだが??」


「…わかった、でも後で必ず相談に乗ってもらうからね」


そう言うと桜は手を離してくれた。そして桜が離れた位置に移動するのを確認してからまた宝箱の前に向き直る。


(さて、前回の宝箱に入っていた『絵』はとんでもない品物だった。だから今回はなるべくヤバい奴でない事を祈るしか無いな…)


俺はそう思いながら蓋を開ける。

そして光が出てきて…


「モガ!?」


無理やり口の中に入ってきた、俺はビックリするがスグに吸い込まれて消えてしまう。


「ウェ…一体なんだったん…ん?」


俺が光に文句を言っていると、不意に開けた箱から『獣臭』がするのに気がついた。


「いや、何んで…」


その臭いに顔をしかめながら箱の中を見る。

すると中はとても暗くて…


「え?」


上から箱の中を除く俺を見上げる形で『4つの目』が確認できるだけだった。

そして、桜と同じく中身を出していないのに箱が砂の様になって消えて中身が露わになる。


「ハッハッハッ」

 

「…」


「…え、『生き物』?」


出て来たのは明らかに箱のサイズには入らない

、目測で体高が約60cm前後の『茶色と白の体毛』をしている二匹の『狼にも見えるが限りなく犬に見える』生き物だった。

片方の犬?はお座りして口に『小さい箱』を咥えていて、もう片方は『大きいお腹』が苦しいのか横になって俺をジッと見ていた。両方ともからは敵意は感じられなく、俺はただ宝箱から生き物が出てきた事に驚きを隠せないでいたのだった。


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