第148話

「「「!?」」」


俺は周りを見渡した、すると叶達が急いでこちらに走って来ているのが見えた。

そして全員がバリケードの中に入り、俺の元に合流する。


「渉!今のは何だ!?」


「頭の中に直接声が聞こえた、不思議な体験だった」


「どうなってるの、渉?」


合流した皆からはそんな風に詰め寄られたが俺は今、頭の中である考えが巡っていた。


(今のは間違いなく旧歌舞伎座の時のヤツだよな…もしかして!?)


俺はある考えが思い浮かんだ瞬間、皆の言葉には答えずに急いで素材を回収を始めた。


「ちょっ渉?」


叶のその言葉や周りの人の声と視線を無視しつつ次々と回収していく、黒曜石の山の中に俺がモンスターに握られた際に装備していたチョッパーや一二三に渡した装備が入っていた空のコンテナもあったが関係なく回収していく。そして…


「…やっぱりあった」


「「「…」」」


俺がモンスターの素材を全て回収し終わる、すると出てきたのは4つの石棺の様な箱状の何か。

俺達はそれを見ると全員が無言だが迷う事なくそれぞれ別々の箱の前まで行く。


「…ヤバい、多分だけど…俺を呼んだのはコレな気がする…」


俺達が無言で箱をみていると叶が口を開く。


「叶、多分じゃない。その予想は当たりだ…後一二三は気合いを入れろよ?」


俺はそう言う、すると三人どころか周りの人達も俺に注目する。


「旧歌舞伎座と同じだ…誰かに呼ばれて…まるで踏破した人を讃える様な階層にモンスターの死体…そして、」


此処で俺は言葉を区切り、大きな声でハッキリと言う。


「この宝箱、開けたら間違いなくスキルかジョブのどちらか…若しくは双方が増える特別な宝箱だ。実際に俺は同じ状況を体験した、間違いない」


「「「!?」」」


俺の言葉に、周りの人達は騒ぎ出す。

無理もない、何故なら今からスキルやジョブが増える瞬間が見れるかもしれないのだ。そんな超貴重な状況を黙っている訳がない、実際に少し離れた位置にある三人のドローンのコメントもめちゃくちゃお祭り騒ぎ状態だ。

そして…


「…コレが…!」


一二三は宝箱を見て今まで以上に緊張していた。

俺達三人も一二三をしっかり見る。一二三がこうなるのも無理はない、何故なら一二三の目的はスキルを手に入れる事だ。この宝箱を開ければ今まで自分を苦しめていたスキルをなんとかできる力が手に入るかもしれない…こう考えているのだろう。

だからこそ、水を指す様で悪いが俺はキチンと言わなければならない事がある。


「一二三、最終確認だ。確かに宝箱からはお前の望む力が手に入る可能性はある。だが、前にも言ったが手に入るのは完全にランダムだと考えてくれ」


「…大丈夫、そこはキチンと理解している…だからね…」


一二三はそう言うと叶の方をついて手を差し出す。


「叶、手を握って欲しい。私が目的のスキルを手に入れる様に握っていて欲しい」


「お…俺!?」


一二三は叶にそう言う。叶は動揺しているが一二三の顔は真剣そのものだ、本心でそう言っているのだろう。


「うん、渉でも桜でも無い。叶がいい、私に協力してくれると言ってくれた叶じゃなきゃ嫌なの」


一二三の言葉に叶は無言になるが、すぐに真顔になり一二三の差し出された手を握る。


「…ありがとう、やっぱり叶は優しい」


「…おう」


一二三はそう叶に笑顔でいい、叶も照れながら返事をした。

そうしてまた一二三が真顔になると、片手で石の蓋の縁に触る。


「…お願い、神様。一二三の願いを叶えて…!」


「…」


俺と桜が一二三を見守る…そして、遂に一二三が片手で蓋を押し、反対側に落とす形で石棺の様な箱を開けた。


ポアッ


「!」


開けて数秒後、箱の底から蛍のような色が七色の光の球体が浮かんで出てきた。その光景に周りから歓声が上がる、そして…


スッ


「あ…」


それが一二三の目線の高さまで上がると、おでこに近づき、そのまま吸い込まれていった。


「…もしかして、今のが…」


「ああ、アレがそうだ…後はギルドで調べて確かめるだけだな…おめでとう、一二三」


一二三がそう呟いたので、俺は近づいてそう言う。


「…何だろう…もっとこう、大音量のファンファーレとか全身が輝くとか想像してた…でも、実際は意外とアッサリしていて逆にビックリした」


「いや、ゲームのレベルアップか何かかよ」


一二三の言葉に俺はツッコミをした。するとどんどん一二三が涙目になってきて、遂には手を繋いでいた叶に抱きついた。


「叶、私やったよ。まだどんな力か分からないけど…私やったよ!」


「…おう、頑張ったな一二三」


一二三はそう言いながら叶に抱きつき続けるのだが、叶はそんな姿を見て優しい顔になりながら頭を撫でた。


「…一二三、まだ終わってない。中身はまだあるぞ」


俺はそんな2人をみて少々言いづらかったが、まだ宝箱の中身がある事を言う事にした。


「…了解…ありがとう、叶。もう大丈夫」


「ああ、これくらいならいつでもやってやるよ」


俺がそう言うと、一二三はゆっくりといつもの無表情で叶から少し離れる。叶もまた笑顔で返す、すると無表情だが顔を赤くしながらまた宝箱の中身をみた。


「…は?」


すると中身をみた一二三は頭に?を浮かべて、そしてゆっくりと宝箱の中身を取り出していく。


「…『本』が一冊…それに…これは『ゴリラの着ぐるみパジャマ』?」


中身を完全に出すと石棺みたいな箱は崩れて消えていく。

そして一二三は右手に一冊の本が、左手に折り畳まれているが、フードがゴリラ顔の着ぐるみパジャマを持っていた。

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