第147話

「…!…!!」


「@/#?@/@#??」


「 ( ՞ਊ ՞) 」


「ヤベェ、何言っているか分からねぇ…」


俺は今、かなりヤバい状況になっている。なぜなら沢山の外国人の人にそれぞれの母国語で話しかけられているからだ。

俺はぶっちゃけ英語とロシア語が少しできる程度の言語力しか無い、故に今目の前にいる人達が何を言っているのかが分からないのだ。

因みにこの状況は俺だけでは無い、桜達もまたこんな感じになっている。しかも俺達に話しかけていない人達はギルドの職員さん達のバリケードの隙間からスマホを出してモンスターの死体やらを撮影していたり、石像を見ていたり、夜空を見上げてワインを飲んでいたりしていた。

そんな中、ふと肩を叩いてくる人がいる。俺はそちらを向くと初老で着物を来た夫婦がいて、男性の方が手に骨伝導イヤフォンみたいな物をのせて俺に向かって手を伸ばしている…と言うか、アレ?この人達は見たことあるような…


「渉くんだね、初めまして。良かったら使いなさい、これをつければ会話できるからね」


「え…あ…ありが、


「朝日様!それに由美子様!」


…ふぁ!?」


俺はお礼を言いながらそれを受け取ろうとした…のだが、途中で父さんが言った言葉に驚いてこの2人の人…いや、お方の事を思い出した。俺は一歩下がってから急いで頭を下げる。


「す…すみません、まさか貴方方ほどのお方が見に来ていただけるとは思ってはいませんでしたので無礼な態度をとってしまいました!」


「別に大丈夫ですよ。日本の新たな未来を切り開く若者達、その勇姿はこの目でしっかりと見させてもらいました」


「ええ、素晴らしい戦いでした。私達夫婦も貴方達が日本に生まれて来てくれた事を神に感謝しなければなりませんね」


俺の言葉に未だ手を突き出しながらそう楽しそうに話していた。

俺は突き出した手を疲れさせる訳には行かないと思い、お礼を言いつつ頭を下げたまま両手でイヤフォンを受け取る。


(いや、確かに天皇が見に来るとか言ってた気がする…でも『天皇皇后両陛下』が来るなんて聞いてないし予想もできるか!?)


そしてイヤフォンの電源を入れてから装着する時に俺は心の中で思いっきり現状にツッコミを入れた。

まず、イアフォンを渡してくれた男性は朝日様。現在の日本の天皇陛下だ。

そして由美子様は皇后…つまり朝日様の奥様に当たる人だ。

つまりこの人達は日本国の象徴みたいな超偉い人達なのだ。故に急いで頭を下げないと失礼になってしまう、マジで胃が痛くなるヤバい状況なのだ。


「《おお!あの子が通訳機を付けたぞ!》」


「《つまり、我々の言葉が分かる様になったんだな!?》」


キチンとイアフォンを装置するとさっきまで分からなかった言葉が急にわかる様になる。なるほど、コレはいわゆる自動翻訳機なのだろう。確かに秋葉原でジャンク品を物色していた時にガラスケースの中に中古のヘッドセットタイプが売られていたのを思い出した、多分アレの最新版がこれなのだろうと思う。ならば先ほどから彼らが何を言っているのかがようやくわかる、俺はそう考えてから再度お礼を言いさっきまで話しかけてきていた人達の方を向き…


「《そう言う事なら話は早い。渉くん、是非我が国に来て君が製作した道具の技術提供及び製造をしてくれないか?報酬は弾むし住宅も支援する!》」


「《いや、それはぜひ我が国にお願いしたい!我が国に来てくれたから更に報酬は弾む事を約束しよう!》」


「《今度ぜひ私の三人の娘達と会ってみないか?娘達からも是非君と会ってみたいと言っているんだ》」


「《もし宜しければ貴方の血を頂けませんか?是非研究したいのですが!?》」


物凄く後悔した。

流石にこれはヤバい、まだ百歩譲って技術ウンヌンならまだ分かる。だがお見合いや血の研究をさせてくれはヤバすぎる、特に後者。もはや俺を実験動物としか見てないだろ。


「…」


その後も様々な人が色々言ってくるのだが、どれもこれもかなりヤバい、特に我が国の女性と結婚してくれとか俺の体を研究させてくれとかの要望がチョイチョイ混ざってるのが特に怖い。

そんな事を言われ続けていると、不意に後ろにいた天皇陛下達が俺の前に出る。


「皆さん、落ち着いてください。皆さんの言いたい事は分かりました…ですが、同時に私達は貴方達の要望を聞き、心がとても痛くなってしまいました」


「我が国の未来を担う若者である彼にまだ技術を教えてもらうまでは許せます。ですがまるで種馬や実験動物の様な扱いのある願い、それは余りにも酷いのではありませんか?その言葉で今はまだ若い彼の心が傷つくとは思わないんですか?私達はそう思いました」


「「故に、今からこの場での彼に対する全ての要望は私達が代わりにお聞きします。ですのであちらの方でお話しませんか?」」


「「「《…》」」」


天皇皇后両陛下の言葉と視線に周りにいた人達は少し離れた位置まで下がってこちらの方を見ている状態になった。


「…スゲェ…」


「ふふ…この位、今後の日本の未来を支えてくれる若い世代を守る為なら当然の事をしたまでですよ」


俺が関心の声を漏らすとそれに皇后様が答えてくれた。

そんなやり取りをしていると、こちらに走って向かってくる男性が1人いた。


「ハァ…ハァ…陛下、大変すみませんが渉様に至急してもらいたい事があります。よろしいでしょうか?」


「…なるほど、ギルドの職員さんですね。分かりました、渉君の身を最優先にしつつ行動してくださいね」


「了解しました!」


走って来た人は天皇陛下にカードを見せつつ俺に用事があるみたいだった。

そして陛下もまたそれを了承して俺の前から離れた。


「…渉様、すみません。我々の職員が先に転移して安全と素材の強奪阻止のために入って確かめたまでは良かったのですが、まさかVIP達が我先にと自ら入るとは想定外でした。本当に申し訳ございません」


「いや、別にいいんですが…問題が起きたんじゃないんですか?」


ギルドの職員が俺に事の経緯を話しつつ謝ってきたので、俺はそれに対して返しつつ本題に入る様に言う。


「はい、できれば今すぐに全てのモンスターの素材を回収していただきたいのです。

先ほどから『もっと近くで見させてくれ』などの声が上がっておりまして、これ以上は我々でも流石に厳しくなってきたのです」


職員さんはそう言うとモンスターの方を見たので俺もまたそちらを見る。

確かに先ほどよりも多くの人がバリケードにいて何かを言ったりしているのもチラホラ見える、早急に回収しないとかなりまずそうな状況だ。


「分かりました、すぐに回収します」


俺はそう言うとバリケードの方に向かって走る、そしてバリケードになっている人の1人に中に入れてくれと言ったらすんなり入れてくれた。

そして俺はモンスターの死体の前まで行き、回収しようと触りかけた…その瞬間、


《… ……… …》


「!?」


旧歌舞伎座の時と同じ様に、俺の脳内に直接何かが呼ぶような感覚を感じたのだった。

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