第146話

「…えぇ…」


「…いや、コレは無いわ…」


「…コレは…流石に…」


「ダメ、壊れない。最悪」


俺達は無事モンスターに出会わずに広場に到着した…のだが、全員到着して早々に後悔した。

俺と叶は広場を見て言葉を失い、桜は「流石に…」と連呼しながら頭に片手を当てて、一二三は広場に来てスグに目に入ったある物を壊そうと殴るが壊れない事に文句を言っていた。

まあ、何があったのかと言うと…


「「「「いや石像って…無いわー」」」」


俺達の石像があったからだ。

広場は円形でかなりでかい。大体あの闘技場位の広さがあり床はレンガなどで舗装されている。広場の中心には帰還用ポータルとあのゴリラが両腕と頭部が分断された死体、後山積みの黒曜石があり、そして俺達の悩みの種になっている恐らく東西南北に配置されているであろ俺達が彫られた等身大の石像がそれぞれ違うポーズを取りながら台座付きで設置されているのだ。

東には一二三、西には叶、北には俺、南には桜の銅像がある。更に言えば石像は全員一体では無い、1番少ない叶で3体、1番多いのは一二三の8体ある。

何故これだけの差があるかと言えば…


「せめてチャイナドレスのヤツだけでも破壊したい。でも壊せない、最悪」


そう、ご丁寧に服装や龍人化などの体が変化した分の石像が全てあるからだ。

しかもかなり精巧に作られていて、一二三なんて深層で作った防寒着のリアルな兎の着ぐるみが完全再現されすぎて目線が怖いくらいだ。だから先程から一二三は自分が最初に着ていたチャイナドレスの石像二つを壊そうと殴っているのだが、ヒビどころか傷一つ付いてない。かなり硬い石でできているようだ。

更に言えば石像が乗っている台には俺達それぞれの階層の活躍だろうか、全て別々の絵が彫られていて、その上から何かで鮮やかな色で綺麗に着色されている。

ハッキリ言おう、コレはかなり恥ずかしい。


「確か俺が旧歌舞伎座のダンジョンを制覇した時には、それぞれの階層の出来事が書かれた浮世絵風の絵が4つほど書かれていたよな…つまりダンジョンを制覇するとこういったギャラリーみたいな物ができるのかな?」


俺が俺の石像を見ながらそう考える、ゲームで例えるならクリアー後に見れる様になるギャラリーモードみたいなものだろうか…まあ、どっちにしても恥ずかしいのは変わらないが…


「まあ、考えるのはギルドとかの人達に丸投げしよう。俺は取り敢えず回収する物は回収しない…



「おーい、渉ー!」



…は?」


俺が取り敢えず考えていた事をギルドとかの人達に丸投げして、黒曜石などを全て回収しようとした…その時だ、絶対に聞き間違えないが絶対にいるはずのない人物の声が聞こえて来た。

俺は…いや、俺達全員は一斉にその方向を見る。


「渉ー!よく生きて帰ってきてくれた!!」


「桜、さぐら、ざぐらー!!」


「泣くな、いい男が台無しだよ!」


そこには俺の父さんがビニール袋を片手にこちらに走って来ており、その後ろには身長が2メートルくらいのガタイが良すぎる初老の男性が桜の名前を叫びつつ号泣しながら走って来ており、更にその三歩後ろには同じく初老だがめちゃくちゃ歴戦の猛者の様な独特の雰囲気の女性が男性を怒りながらも少し泣きながら走ってこちらに向かって来ていた…というか、よく見れば次々ととスーツを着てサングラスを付けた人達がどんどん芝生の大地に現れてくる。


「と…父さん!?」


「渉!」


俺が居るはずのない父さんと目の前の光景に驚いているとこちらに近づいて来た父さんに前から抱きつかれる。そして間近で感じる体温と声で間違いなくこの人は父さんであるのを理解できた。


「ざぐらー、よぐがんばっだなー!!」


「全く、アンタは…最高の娘だよ」


「父さん、どうして此処に…って、母さんが今オレを女性扱いしてくれた!?」


どうやら先ほど父さんの後ろにいた人達は桜の両親らしい。その両親もまた父さんみたいに桜に抱きついていた。

そしてスーツの人達はこちらに走って来てすぐに中央にあるモンスターの死体や黒曜石の山に背を向けながら囲む様に円になり人のバリケードを形成した。


「父さん、一体どうしてここにいるの?父さんもダンジョンを制覇したの??」


「いや、私にはダンジョンは制覇できないよ。

実は渉達が禁層を攻略して闘技放送が終了してスグに私達がいたソラマチひろばの会場の中心に『白い石板』が出現してな、ギルドの人が色々調べたら旧歌舞伎座の物と似ていると言ったので居ても立っても居られずその石板に触ってみたんだ。

そうしたらこの近くに転送されてね、渉と合流できたんだよ」


「いや、何サラッとヤバいことしてるの!?」


父さんのとんでもないやらかしに思わずツッコミを入れてしまう。もしかしたら他の場所に転送される可能性だってあるのにとんでもない博打を何の躊躇もなく行った事に流石に驚愕してしまう。

そして俺は気付いてしまう。父さんの言葉に嫌な単語があった事を。


「…父さん、今ソラマチひろばって言った?…確かソラマチひろばは今VIP専用会場だったよね…?」


「ああ、そうだ。だから俺達の後に来てモンスターの死体とかを囲んでいるスーツの人達は会場にいたギルドの職員さん達だね。

だから多分…」


父さんがそう言うと、父さん達が来た方から様々な国の言葉が聞こえ始めた。


「次に来るのはそのVIP達じゃないかな?」


「…ヤバい、胃が痛くなってきた」


だれか、今来た人達に帰ってくれと言ってくれ。胃が痛くなってくるよ…

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